食後の血糖値が高くなる「食後高血糖」は、初期の段階から治療することが大切。食事や運動など生活習慣の改善で十分な効果を得られない場合は、飲み薬による治療法がある。
食後高血糖は初期の段階で対策
血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が正常値を超え高い状態が続くと糖尿病と診断される。糖尿病型と正常型の間には境界領域がある。「耐糖能異常(IGT)」という言葉は、正常型から糖尿病に少し入った境界型のあたりで、食後の血糖値が高いが比較的軽度なときに使用される考え方。空腹時血糖値が126mg/dL未満で、経口ブドウ糖負荷試験の2時間後の血糖値が140〜200mg/dL未満になるとIGTと判定される。
食後高血糖は、食後の血糖値が目立って高い場合を指す。食事をして食物が吸収されると血糖が増えるが、正常の人ではそれに応じた量のインスリンが膵臓から分泌され血糖値はそれほど上昇しない。しかし、分泌されるインスリンの量が足りなかったりタイミングが遅れるなど、十分に作用しないと高血糖にな
る。
最近の研究では、食後高血糖は心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の危険因子として注目されている。初期の段階から血管内皮の損傷や動脈硬化につながると考えられている。
早期に発見し積極的に治療することが重要と報告されているが、インスリンが分泌されていても効くのが遅く食後高血糖になる人では、次の食事の前では正常値近くまで戻り食前の血糖測定では異常に気付きにくい場合がある。空腹時に行う血糖測定だけでは高血糖が見逃されることもあるので注意が必要となる。
食後血糖値を確実に知る方法は、患者が自身で行う血糖測定(血糖自己測定)。国際糖尿病連合(IDF)のガイドラインでも、食後高血糖を確かめる実用的な方法として血糖自己測定が勧められている。しかし血糖自己測定は保険上の制約から、インスリン治療をしている患者さん以外にはあまり普及していない。医療機関での検査では、食後血糖値を良く反映する「グリコアルブミン(GA)」や「1,5-AG」という指標がある。
食後高血糖を改善するには生活習慣の改善が有効。食事では良く噛んでゆっくり食べる、野菜を多くして食物繊維を十分にとる、食後1〜2時間でウォーキングなどの運動をする、内臓脂肪を減らすなど対策することで改善を期待できる。
食後高血糖を改善するα-グルコシダーゼ阻害薬
食事療法と運動療法を実施しても食後高血糖が改善されないときは、薬物療法が有効となる。食後血糖値に的を絞って作用する治療薬のひとつに、α-グルコシダーゼ阻害薬がある。2型糖尿病患者における食後高血糖を改善する治療薬で、腸管内での炭水化物の消化・吸収に関わるα-アミラーゼ、α-グルコシダーゼなどの酵素を阻害し、食後の急な血糖上昇を抑える作用がある。
α-グルコシダーゼ阻害薬は、糖尿病患者の食後高血糖の治療だけでなく、まだ糖尿病と診断されていない境界型の人の発症予防にも有効という研究が国内外で
発表されている。
日本人を対象に実施された臨床試験で、耐糖能異常のみられる人に生活改善に加えてα-グルコシダーゼ阻害薬の「ボグリボース」による治療を行うことで、2型糖尿病発症リスクを40%抑えることができるという知見がこのほど発表され
た。
欧米では、同じくα-グルコシダーゼ阻害薬の「アカルボース」を用い、2型糖尿病と心血管疾患の発症を予防した「STOP-NIDDM」試験がすでに発表されているが、耐糖
能異常のある日本人を対象に、2型糖尿病の発症抑制が確かめられたのは今回が初めてになる。この知見について医学雑誌「Lancet」に4月22日付で掲載された。
2型糖尿病の発症を4割抑制
耐糖能異常(IGT)のある人では、糖尿病の発症だけでなく高血圧や脂質異常症の併発のリスクも高い。試験では、耐糖能異常があり、正常高値血圧、脂質異常、糖尿病の家族歴、BMI(肥満指数)が25以上の肥満があるなど、2型糖尿病の危険因子をもっている人を対象に、標準的な食事と定期的な運動という生活習慣の改善に取り組んでもらい、さらにボグリボース0.2mgを服用する群(897人)と、プラセボ(偽薬)を服用する群(883人)に無作為に割り付け、それぞれ1日3回服用してもらった。
およそ48週の介入期間の後に中間解析を行ったところ、2型糖尿病の発症例数はプラセボ群で106例だったのに対し、ボグリボース群では50例だった。ボグリボース群は2型糖尿病の発症を40.5%抑制していた。ボグリボースを服用した群では下痢、腹部膨満感などの胃腸障害の発現頻度が高くみられたが、特に多い頻度で現れたものではなく重度のものも認められなかったという。
今回の試験結果について、河盛隆造・順天堂大学大学院教授は「生活習慣の改善に加え、薬物治療による2型糖尿病発症抑制効果が、日本人を対象とした臨床試験ではじめてあきらかになった。今回の試験結果は糖尿病患者が年々増加傾向にある日本の状況をふまえると意義深い」と述べている。
Abstract(英語)
The Lancet, Early Online Publication, 22 April 2009
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