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2025年05月12日

緑を増やして糖尿病を改善 地球温暖化も防止できる 緑地を活用した「自然療法」のすすめ

 樹木の多い公園や川にそった緑地などの自然を増やすことは、地球温暖化への対策になるだけでなく、健康増進にもつながることが、新しい研究で明らかになった。

 自然が豊かな環境を増やすことは、糖尿病や心臓病、脳卒中などの予防・改善につながり、メンタルヘルスにも良い影響があらわれることも分かっている。

 「都市緑化は、気候変動や生物多様性の喪失、健康格差の拡大など、私たちが直面しているもっとも差し迫った課題に対する、費用対効果が高く実用的な解決策となりえます」と、研究者は指摘している。

自然を増やすことは健康増進にもつながる

 都市に樹木の多い公園や川にそった緑地などの自然を増やすことは、地球温暖化への対策になるだけでなく、住民の健康増進にもつながることが、新しい研究で明らかになった。研究成果は「Frontiers in Sustainable Cities」に発表された。

 研究は、11ヵ国の専門家が参加して行われている。都市の緑化は、熱負荷の軽減、都市気候の改善、省エネルギー化、空気や水の浄化、生物多様性の増大など、多くの利点をもたらすだけでなく、地域社会の健康増進、快適性の向上、メンタルヘルスの改善にも役立つとしている。

 都市の緑化を推進する試みは世界中ですでにはじめられている。

 たとえばシンガポールでは、10年間で国内に100万本以上の木を植えることを目指す「自然の中の都市」プロジェクトが進行中だ。英国のカーディフやデンマークのコペンハーゲンなどの都市でも、数万本の樹木を植えて居住性を向上させ、洪水リスクの少ない、気候変動に強い地域づくりが進められている。

都市緑化を取り入れるのをためらう理由はない

 「緑化が多くのメリットをもたらすことを考えると、もはや都市の計画や開発に緑化を取り入れるのをためらう正当な理由はありません」と、オーストラリアのアデレード大学環境研究所のヴェロニカ スバルト教授は強調する。

 「世界中で温暖化が進むなか、都市の緑化は屋外環境を冷却し、猛暑から解放するのに不可欠です。緑化は都市に自然をもたらし、健康や福祉にもプラスの影響を与え、住みやすさを向上させます」としている。

 「いまや自然を基盤としたインフラは、単に"あったらいい"という美観上の対策ではなく、持続可能な都市開発の根幹を成す要素になっています」と、英国のサリー大学のクリーンエア グローバル研究センターのプラシャント クマール教授は言う。

 「都市緑化は、気候変動や生物多様性の喪失、健康格差の拡大など、私たちが直面しているもっとも差し迫った課題に対する、費用対効果が高く実用的な解決策となりえます」としている。

 研究グループは、人工知能(AI)、地理情報システム(GIS)、リモートセンシングといった最新のテクノロジーも活用し、都市の緑化を大規模に実現することを目指す「Reclaim Green」プロジェクトを立ち上げ活動している。

緑地を増やすことは糖尿病などの予防・改善にもつながる

 自然が豊かな環境を増やすことは、糖尿病や心臓病、脳卒中などの予防・改善につながり、メンタルヘルスにも良い影響があらわれるという別の研究を、英国のエクセター大学が発表している。

 自然にふれる機会を増やすことは、薬物療法やカウンセリングにも匹敵する効果をもたらすとしている。研究成果は「Environment International」に発表された。

 10分間という短い時間でも、自然がある場所をウォーキングするだけで、心と体に良い影響があらわれ、ストレス解消にもつながるとしている。なれてきたら運動の時間と強度を少しずつ増やしていくことを勧めている。

 研究グループは、英国の主な横断調査のデータを用いて、自然環境でのレクリエーションなどの身体活動が、2型糖尿病、虚血性心疾患、脳卒中、がん、うつ病などにどう影響するかを調べた。

自然が豊かな環境で行う運動や身体活動が糖尿病を改善

 その結果、自然のある環境を訪れ、運動をすることを習慣化すると、英国で2型糖尿病などの慢性疾患を年間に1万2,763件予防でき、医療費を1億870万ポンド(212億円)節約できることが示された。

 「運動が健康に良いことは理解できていても、運動施設などで行うスポーツやフィットネスなどの活動に対して意欲をもてなかったり、アクセスを困難に感じている人は多くいます」と、同大学の環境・人間健康センタージェームス グレリエ氏は言う。

 「そうした人々にとって、自然が豊かな環境で行う運動や身体活動は、より参加しやすく、はるかに幅広く活用できるものになりえます」。

 研究グループは、家の近くにある樹木は、心理的も回復を促し、多くの恩恵をもたらす可能性も指摘している。人工的な自然環境であっても、人工的な環境に比べると、心理的な消耗を引き起こす可能性は減少する。

 樹木がそうした健康効果をもたらすことを証明するには、ランダム化比較試験の実施が必要になるとしながらも、自然が豊かな環境が健康増進をメンタルヘルス改善を促進することを裏付けた報告は増えているとしている。

公園などの緑地を活用した「自然療法」のすすめ

 公園や遊歩道、コミュニティガーデンなどの自然の多い環境を整備することは、住民の運動や身体活動を増やすのに効果的であることが知られているが、そうした環境へのアクセスのしやすさは、地域や人によって差があると、米国のテキサスA&M大学も発表した。

 「公園や遊歩道などは、アクセスしやすく、広範囲に利用できることが重要ですが、地域によって大きな差があります」と、同大学健康・自然センターのジェイ マドック所長は言う。

 米国の成人の4人に3人以上が運動不足だが、公園などの自然の豊かな環境へのアクセスのしにくさも影響しているという。

 マドック所長は対策として、都市に公園や緑地を整備するのに加え、医師などの医療従事者が公園などの自然空間を活用した「自然療法」(米国では「ParkRx」として知られている)を積極的に処方したり、医療者が自ら参加し実践して、自然とのつながりを強める行動をモデル化することなどを提案している。

Reclaim Green: Innovating Waste for a Greener Future
International experts lead calls to embed nature in city infrastructure for better health and climate resilience (サリー大学 2025年4月30日)
Urban greening for climate resilient and sustainable cities: grand challenges and opportunities (Frontiers in Sustainable Cities 2025年4月30日)
Physical activity in nature helps prevent several diseases, including depression and type 2 diabetes (エクセター大学 2024年4月25日)
Valuing the health benefits of nature-based recreational physical activity in England (Environment International 2024年5月)
Does Exercise In Greenspace Boost The Individual Health Benefits Of Each? (テキサスA&M大学 2024年6月13日)
Physical Activity in Natural Settings: An Opportunity for Lifestyle Medicine (American Journal of Lifestyle Medicine 2024年5月11日)
Parkrx (ゴールデンゲート国立公園コンサーバンシー)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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