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2022年05月19日

糖尿病網膜症に対策 糖尿病の人の眼はこうして守る 眼の健康月間

 5月は、米国立眼研究所が制定した「眼の健康月間」だ。糖尿病網膜症は、糖尿病の三大合併症のひとつで、日本でも中途失明の原因の第2位になっている。

 糖尿病とともに生きる人は、少なくとも年に1回は眼科を受診して、検査を受けることが推奨されている。

 眼の検査を定期的に受け、異常があれば治療を受けると、視力の低下を防ぐことができる。

糖尿病の人は視力を守れる? 「もちろんできる」

 糖尿病網膜症は、糖尿病によって網膜の血管が傷つき、視力低下などがあらわれる合併症。糖尿病の三大合併症のひとつで、日本でも中途失明の原因の第2位になっている。

 糖尿病の罹病期間が長いほど頻度が高く、糖尿病を発症してから10年たった人では、およそ半数に糖尿病網膜症があるという報告がある。

 1型糖尿病の人でも、2型糖尿病の人でも、糖尿病とともに生きる人は、少なくとも年に1回は眼科を受診して、検査を受けることが推奨されている。

 眼の検査を受けていれば、糖尿病の人は視力を守ることができるだろうか? 「もちろんできます」と、米ペンシルベニア州立大学眼センターのジェフリー サンドストロム氏は力強く答えている。

 「糖尿病網膜症は、症状が自覚されないうちに進行します。自覚症状があらわれたときには、すでに視力低下や失明の危険が高まっている場合が多いのです。視力を守るために対策を講じるには、検査を受けて、網膜の血管の状態をチェックすることが大切です」。

糖尿病と眼の健康
米国糖尿病学会(ADA)が公開しているビデオ

眼の検査を定期的に受け、異常があれば治療を

 糖尿病性網膜症は米国でも失明の主要な原因になっているが、糖尿病患者のなかで眼科の検査を毎年受けているのは半数未満だという。

 「早く網膜症をみつけて、レーザー治療など適切な治療を行うことで、視力低下や失明が起こるのを防げます。眼の見え方が正常と思っていても、年に1回は眼科を受診して、網膜症の検査を受けることが大切です」と、サンドストロム氏は言う。

 眼科では、眼の奥にある網膜を観察する「眼底検査」を行い、網膜の血管の状態や出血などを調べる。異常が疑われる場合などは、蛍光造影剤を注射して眼底を詳しく調べる「蛍光眼底造影検査」なども行う。

 最近では、網膜の断面を映し出す「光干渉断層計(OCT)」による検査も行われている。従来の眼底検査では見られない網膜の断面が分り、網膜の出血の範囲や深さ、浮腫(むくみ)まで確認することができる。造影剤を使わない検査なので、患者への負担も少ない。

 「糖尿病網膜症の症状は、視力にもっとも関係する部分である中心窩に、どれだけ血管の異常がおよんでいるかよって決まります。どの段階でも、無症状のことがありますが、症状が重くになるにつれてその頻度は減っていきます」と、サンドストロム氏は説明する。

 「黄斑の中心窩に異常があらわれた場合は、視力低下、ゆがんで見える、黒い点が浮かんで見える飛蚊症、視野に見えないところができる視野欠損といった症状があらわれることがあります。眼科検査を定期的に受け、異常が起きていれば治療を行うことが重要です」としている。

「糖尿病のABC」が大切

 「もっとも重要なことは、糖尿病網膜症の治療の基本は、糖尿病の治療と同じく、血糖コントロールをしっかり行うことだということです。目標となるのは、HbA1cを7.0%未満に維持することです」と、サンドストロム氏は強調する。

 「眼科で検査を毎年受けることに加え、"糖尿病のABC"に注意を払うことが、糖尿病をコントロールするための最良の方法となります、糖尿病のABCにより、視力喪失・心臓病・脳卒中・腎臓病など、糖尿病合併症のリスクを下げることもできます」としている。

糖尿病のABCとは、「A=HbA1c」「B=血圧」「C=コレステロール」のこと

A血糖1~2ヵ月の血糖の平均を反映し、血糖コントロールの指標となっているHbA1cを、7.0%未満に維持する。可能であれば6.0%未満を目指す。

B血圧糖尿病の人は高血圧を併発していることが多い。両方を併発すると、心臓病や脳卒中、腎臓病などのリスクがさらに高まる。積極的な血圧コントロールも必要。
米国の治療目標は、収縮期(最高)血圧が130mmHg未満、拡張期(最低)血圧が80mmHg未満。

Cコレステロール悪玉のLDLコレステロールが増えすぎると、血管壁に入り込み動脈硬化が進む。善玉のHDLコレステロールは、余分なLDLコレステロールを回収するなど、動脈硬化を防ぐ働きをする。中性脂肪が増え過ぎてても、動脈硬化は進行する。
米国の治療目標は、LDLコレステロールが100mg/dL未満、HDLコレステロールが40mg/dL以上、中性脂肪が150mg/dL未満。

 「ABCをコントロールしながら、眼科での検査を毎年受けることで、糖尿病とともに生きる人は良好な視力を維持できます。患者さんの眼を守るために、内科のかかりつけ医と眼科医が好ましい医療連携を保つことも必要です」と、同氏は強調している。

糖尿病網膜症の治療は進歩している

 「網膜出血は、網膜に脆弱な新生血管ができることで起こります。新生血管ができるのを防ぐため、網膜の血管がつまった部分にレーザー光線を当てる光凝固術などが行われます。新生血管によって硝子体出血や網膜剥離が起こり、視力が低下するのを防ぐための治療です」。

 「早い段階で網膜症を発見すれば、レーザー治療などで網膜出血を防げます。網膜症を早期発見することが重要です」と、サンドストロム氏はアドバイスしている。

 治療は進歩しており、最近では「抗VEGF治療」という治療も行われているようになっている。

 網膜の疾患により、黄斑(網膜の中心部分)にむくみ(浮腫)が生じると、ゆがみや中心暗点、視力低下などの症状があらわれる。VEGF(血管内皮増殖因子)という物質が、新生血管の増殖や浮腫の悪化に関与している。

 抗VEGF治療は、このVEGFの働きを抑える薬剤を眼内に注射することで、浮腫を改善し、病気の進行を抑制する治療法だ。

The Medical Minute: Diabetes diagnosis demands close eye on vision (ペンシルベニア州立大学 2022年3月23日)
ペンシルベニア州立大学眼センター
眼の健康 (米国糖尿病学会)
Focus on Diabetes (米国糖尿病学会)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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