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2021年12月17日

糖尿病の治療薬「SGLT2阻害薬」が心不全の治療にも効果 心不全にはどんな症状がある?

 心不全は、「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」。

 日本でも患者数は増えているが、心不全の深刻さは十分に理解されていない。糖尿病も、心不全の原因として大きく注目されている。

 糖尿病の治療薬として利用されている「SGLT2阻害薬」が、心不全の治療にも効果があり、治療に革新的な変化をもたらす可能性があると発表された。

心不全にはどんな症状が? 原因は?

 心不全とは、「心臓の機能が低下して、十分な量の血液を全身に送りだせなくなった状態」のこと。日本循環器学会と日本心不全学会は2017年に、心不全の定義を発表し、「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」としている。

 心臓は全身に血液を送り出すポンプの働きをしているが、心臓に酸素や栄養を送る冠動脈がつまってしまったり、さまざまな原因で心臓の壁が厚くなってしまったりすると、そのポンプ機能がうまく働かなくなり、心不全になる。

 ひと言で心不全といっても、原因や自覚症状は人によってさまざまだ。冠動脈がつまる心筋梗塞や狭心症、動脈硬化や塩分の摂り過ぎなどが原因の高血圧、心臓の部屋を分けている弁に障害が起きる弁膜症、心臓の筋肉に異常が起こる心筋症、拍動リズムが異常になる不整脈など、さまざまな疾患が原因となる。

 心不全の初期によくみられる症状は、運動時の息切れだ。階段や坂道を上ったり、重いものを持ったりすると息切れが強くなる。また、両足、とくに下腿の前面や足首、足の甲を指で抑えると、くぼみができるようなむくみが出ることがある。

 心不全が進行すると、仰向けに寝ると咳が続いたり、突然、息苦しくなって目が覚めたりするようになる。起き上がっても回復するまでには、しばらく時間がかかるようになる。息切れ、むくみ、だるさといった症状がある場合は、すぐに医師に相談したい。

糖尿病の人が心不全を発症すると

 心不全の患者は、超高齢社会で急激に増え続けると予想されており、「心不全パンデミック」とも呼ばれている。

 心不全は命にかかわる深刻な病気だが、その恐ろしさは十分に理解されていない。そこで2018年に、医療基本法としてはがんに次いで2番目となる「脳卒中・循環器病対策基本法」が成立した。その基本理念のひとつに循環器病の予防がある。糖尿病に対策して、心不全をはじめとした循環器病を予防することは重要だ。

 糖尿病も、心不全の原因として大きく注目されている。糖尿病のある人の3分の1に循環器疾患がみられるが、最初に発症するものとしてもっとも頻度が高いのは心不全だという報告がある。

 また、糖尿病の人が心不全を発症した場合、心筋梗塞や脳卒中を発症した場合よりも病状が悪くなりやすいことも分かってきた。

 心不全には、(1)心臓の収縮が低下するタイプと、(1)心臓の拡張が不全になるタイプの2つがあり、日本人の心不全の半数は拡張不全のタイプだとみられている。

 糖尿病の人は、心筋梗塞を発症すると心臓の収縮が低下し、駆出率の低下した心不全を発症しやすくなるが、心筋梗塞を発症しなくとも、心臓の拡張機能が障害されやすいため、拡張不全の心不全も発症しやすい。

糖尿病の治療薬「SGLT2阻害薬」が心不全の治療にも効果

治療に革新的な変化をもたらす可能性が

 心不全の治療は進歩しており、心不全を改善させる新しい薬が登場している。糖尿病治療薬として利用されている「SGLT2阻害薬」が、心不全の治療にも効果があり、治療に革新的な変化をもたらす可能性があると、英国のイースト アングリア大学が発表した。

 SGLT2阻害薬は、尿から糖を排泄させることで、血糖値を下げる薬だ。SGLT2阻害薬は、インスリン分泌に依存しない作用機序があり、低血糖の心配が少なく、体重減少や血圧低下の効果、コレステロールなどの脂質改善の効果もある。

 「SGLT2阻害薬は、これまで糖尿病の治療薬として使われていましたが、最近の研究で心不全の患者さんにも役立つことが分かってきました」と、同大学ノーウィッチ医科大学院の主任研究員であるヴァーシュ ヴァシリウ教授は言う。

 「心不全には、心臓の左心室の収縮力が低下し、全身へ血液を送り出す収縮機能が低下したタイプと、収縮力が保たれているにもかかわらず、拡張機能が低下したため、心臓へ血液が戻る力が弱くなっているタイプがあります」。

SGLT2阻害薬が心不全による死亡や入院のリスクを減らす

 研究グループは、この分野で発表されたすべての研究のメタ解析を実施し、約1万人の患者のデータをまとめた。統計モデリングを使用して、SGLT2阻害薬の効果について調べた。

 初期の研究では、SGLT2阻害薬は心臓の収縮機能の低下したタイプの心不全に効果があることが示されていた。同大学が発表した研究では、収縮力は保たれているものの、拡張が不全になったタイプの心不全にも効果があることが示された。

 「SGLT2阻害薬を服用している患者さんは、プラセボを服用している患者さんに比べ、心臓病に関連する原因で死亡したり、心不全の悪化で入院する可能性が22%低いことが示されました」と、ヴァシリウ教授は言う。

 「これまで心不全の治療薬は少なかったのですが、心不全による死亡や入院のリスクを減らすために、新たにSGLT2阻害薬を役立てられるようになる可能性があります。今後の研究に期待しています」としている。

The Diabetes Medication That Could Revolutionise Heart Failure Treatment(イースト アングリア大学 2021年12月1日)
Sodium glucose co-transporter 2 inhibitors in heart failure with preserved ejection fraction: a systematic review and meta-analysis(European Journal of Preventive Cardiology 2021年12月1日)

心不全(国立循環器病研究センター)
循環器病対策(厚生労働省)

糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント
[編集]日本循環器学会・日本糖尿病学会 合同委員会
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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