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2021年12月02日
血糖値が高いときだけ作用する「スマートインスリン」 週1回注射のインスリンも開発中 糖尿病患者の負担を軽減
インスリン発見100周年を迎えた2021年、より良く治療を行え、インスリン療法を行う糖尿病患者の負担を軽減することを目指した、新しいインスリン製剤の開発が進められている。
血糖値が高いときだけに作用する「スマートインスリン」や、週1回の注射で効果的な治療を行えるインスリンなど、インスリン治療をより安全・便利に行えるよう開発が行われている。
インスリン発見100周年 "未来のインスリン"を開発中
1921年にカナダ人の研究者チームがインスリンを発見したことからはじまり、糖尿病治療は画期的な進歩をとげている。インスリン発見100周年を迎えた現在、インスリン製剤は改良が重ねられている。より良く治療を行え、インスリン療法を行う患者の負担を軽減することが目指されている。 1型糖尿病とともに生きる人の寿命は、50年前は健常の人に比べ20年以上短かった。それが現在では、寿命は飛躍的に延伸し、健常者とあまり変わらないくらいになり、インスリン治療を50年以上続けている人も増えている。 その一方で、糖尿病とともに生きる人々の数は、世界で驚異的な勢いで増え続けており、患者とその家族、社会にとって大きな負担となっている。 糖尿病克服を目指し、より新しい機能をもつ、より利便性の増したインスリンの開発が進められている。そのなかには、近い将来に実際の治療に使えるようになる可能性の高いものもある。血糖値が高いときだけに作用する「スマートインスリン」を開発
インスリンを必要とする糖尿病患者にとって、血糖コントロールは休める日のないハードな仕事のようなものだ。良好な血糖コントロールを維持することは容易なことではない。 もしも、血糖値に応じて自動的に調整するインスリン製剤があったら、血糖値が高いときだけ作用し、低血糖を起こす心配のないインスリンがあったら、糖尿病患者の生活は一変するかもしれない。 米インディアナ大学医学部生化学・分子生物学科のマイケル ワイス教授らが取り組んでいるのは、そんな夢のようなグルコース応答性インスリンの開発だ。研究の詳細は、「米国科学アカデミー紀要」に発表された。 「とくに1型糖尿病の患者さんにとって、インスリンを効果的に使用するのを妨げる最大の障壁となっているのは、血糖値が低くなりすぎる低血糖と、それに対する恐怖です」と、ワイス教授は言う。 低血糖には、動悸、発汗、脱力、意識レベルの低下などの症状があり、重度の低血糖になると、せん妄、けいれん、意識の喪失などが起こるおそれがある。また、重度の低血糖症のエピソードが繰り返されると、認知機能の低下を引き起こす可能性がある。 一方、慢性的な高血糖は、心筋梗塞、脳卒中、腎臓病、失明、足病変などの合併症を引き起こす。低血糖を避けながら、血糖値を望ましい範囲に収めるためには、微妙なバランスが必要であり、インスリン治療を行っている糖尿病患者はこの難しい課題に毎日直面している。「スマートインスリン」は糖尿病治療を変革する?
「スマートインスリンが実現すれば、糖尿病治療を革新できると期待しています。深刻な低血糖の危険から身を守りながら、良好な血糖コントロールを実現し、健康を長期的に維持できるようになる未来を想像しています」と、ワイス教授は言う。 このスマートインスリンは、インスリンにもともと組み込まれている「保護ヒンジ」と呼ばれる自然のメカニズムを利用したものだ。これは、5億年以上前に進化した自然の構造的特徴としてあるもので、開いた状態ではインスリンの作用を安定的に保つが、血糖値が低くなると閉じた状態になり、インスリンの作用を停止する。 つまり、血糖値が高いときには、インスリンはブドウ糖(グルコース)を細胞内に取り込ませ、血糖値が下がるが、血糖値が70~180mg/dLの正常値になると、ブドウ糖は取り込まれなくなり、血糖値が下がり過ぎないようにする機構が考えられている。
血糖値が低下すると、保護ヒンジが閉じブドウ糖が取り込まれなくなり、低血糖にならなくする
出典:インディアナ大学、2021年
「果糖(フルクトース)を感知するように設計された製剤はすでにできていて、今後は同じアプローチを使いグルコースを感知する製剤を開発できる可能性があります。成功すれば、糖尿病治療での新しい重要なツールになると考えられます」と、ハーバード大学ジョスリン糖尿病センターのロナルド カーン氏は言う。
グルコース応答性インスリンは、世界のいくつかの研究所で開発が進められているが、ワイス教授の発明はよりシンプルであり、実現性が高いと期待されている。ワイス教授は2008年にバイオテクノロジーのスタートアップであるThermalin社を立ち上げ、この新しいインスリン製剤の開発に力を注いでいるという。
週1回注射のインスリンを開発中
インスリン注射への恐れと負担を克服
同センターは、2件の国際臨床試験の結果から、開発中の週1回注射のインスリンによる治療は、毎日注射する従来の治療と同じくらい安全で効果があることを明らかにした。研究の詳細は、「Diabetes Care」に発表された。 世界で数百万人の2型糖尿病患者がインスリンを利用しているが、注射への恐れと負担は、インスリン治療を開始し維持するうえで大きな課題になっている。また、現在行われているインスリン治療の有効性と安全性は、インスリンの投与量の正確さ、タイミング、目標とする血糖値など、さまざまな因子の影響を受ける。 今回の2型糖尿病患者を対象とした第2相臨床試験では、週1回注射のインスリンにより注射の頻度を減らすことで、長期的な注射の遵守、血糖コントロールの改善、さらにはインスリン療法を開始することへの抵抗を減らすことにつながり、最終的には患者の幸福度が向上することが示された。 1件目の国際臨床試験は、7ヵ国(米国、クロアチア、ドイツ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、スペイン)の205人の患者を対象に実施され、2週間のスクリーニング期間、16週間の治療、および5週間のフォローアップで構成された。もう1件の試験は、5ヵ国(米国、カナダ、チェコ共和国、ドイツ、イタリア)の154人の患者を対象に、同じ23週間の期間が設定され実施された。 「今回の2件の試験は、サウスウェスタン医療センターなどで準備が進められている大規模な第3相臨床試験プログラムの足がかりとして行われたものです。次のプログラムでは、1型糖尿病と2型糖尿病の患者さんを対象に、週1回のインスリン注射の有効性を評価することを計画しています」と、リンベイ教授は言う。 「週1回のインスリン注射により、患者さんの負担を軽減すると同時に、コンプライアンスを改善できると期待しています。インスリンを必要とする患者さんをケアしている医療従事者の負担軽減にもつながるのではないかと考えています。たとえば、長期療養施設にいる高齢患者さんや、認知症のある患者さんの注射の頻度を減らすことで、介護者の負担を軽減できる可能性があります」としている。 Synthetic hinge could hold key to revolutionary "smart" insulin therapy(インディアナ大学医学部 2021年7月29日)Insertion of a synthetic switch into insulin provides metabolite-dependent regulation of hormone-receptor activation(米国科学アカデミー紀要 2021年7月27日)
Once-a-week insulin treatment could be game-changing for patients with diabetes(サウスウェスタン医療センター 2021年4月19日)
Switching to Once-Weekly Insulin Icodec Versus Once-Daily Insulin Glargine U100 in Type 2 Diabetes Inadequately Controlled on Daily Basal Insulin: A Phase 2 Randomized Controlled Trial(Diabetes Care 2021年7月)
A Randomized, Open-Label Comparison of Once-Weekly Insulin Icodec Titration Strategies Versus Once-Daily Insulin Glargine U100(Diabetes Care 2021年7月)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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