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2021年12月01日

糖尿病の人は立ち上がって運動を 座ったままの時間が長いと脳卒中リスクが上昇 インスリンも抵抗性も亢進

 パソコンやスマホを操作していたり、テレビを見たり、ゲームをするなど、体を動かさないでいる時間が長いと、脳卒中のリスクが上昇することが、14万超を対象とした調査で分かった。

 体を動かさないで座ったままの状態が、わずか24時間続いただけでも、血糖を下げるホルモンであるインスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性の原因となる脂質が筋肉にたまることも明らかになった。

 コロナ禍でステイホームや座り過ぎが増え、運動不足の人は増えている。「立ち上がって、ウォーキングなどの運動をしたり、意識して体を動かすことを心がけて欲しい」と、専門家はアドバイスしている。

座ったままの時間が長いと脳卒中リスクが上昇

 パソコンやスマホを操作していたり、テレビを見たり、ゲームをするなど、余暇に体を動かさないでいる時間が1日8時間以上になると、60歳未満の成人では脳卒中のリスクが上昇することが、カナダのカルガリー大学などの研究で明らかになった。

 運動や身体活動を促進することで、座りがちな時間が長くなるのを防げば、脳卒中のリスクを減少できる可能性がある。

 米国心臓協会(AHA)の調査によると、米国の成人はスマホ、パソコン、テレビ視聴など、メディアにつながっている時間が1日に平均10.5時間に及び、その時間は50~64歳でもっとも長いという。

 一方で、脳卒中に関連する死亡は、65歳以上では2010年以降は減少しているものの、35~64歳では増加している。脳卒中による死亡リスクは、2010年は10万人あたり14.7人だったが、2016年には10万人あたり15.4人に増加した。

 脳卒中を含む心血管疾患のリスク、さらには脳卒中の10分の9近くは、座ったままの時間が長い運動不足の生活が原因になっている可能性がある。運動や食事などの生活スタイルを改善することは可能だ。

 とくに糖尿病のある人が血糖値が高い状態が続くと、細い血管だけでなく太い血管の障害である動脈硬化も起こりやすくなる。その結果として、心筋梗塞などの心臓病、脳梗塞などの脳卒中のリスクが上昇する。心筋梗塞や脳梗塞を予防することが大切だ。

ウォーキングなどの運動で座位時間を減らす対策を

 研究グループは、カナダ地域保健調査に参加した14万3,000人の成人を、2017年12月まで平均9.4年間追跡して調査した。期間中に2,965例の脳卒中が確認された。

 脳卒中を発症した人のほぼ90%は「虚血性脳卒中」(脳梗塞)だった。これは、脳の血管がつまって、脳に十分な血液と酸素が供給されなくなり、脳の一部が死んでしまうタイプの脳卒中だ。

 解析した結果、運動や身体活動が少なく、1日の余暇に8時間以上座ったまま過ごしていた60歳以下の成人は、そうした時間が1日4時間未満の成人に比べ、脳卒中のリスクが4.2倍高いことが明らかになった。

 さらに、運動不足で座位時間がもっとも長いグループでは、運動を活発に行っており座位時間が短いグループに比べ、脳卒中のリスクが7倍に上昇した。

 「脳卒中は、早死を引き起こしたり、寝たきりになる原因になり、生活の機能や質を著しく損なう可能性のある深刻な疾患です。60歳以下の若い人でも、運動にほとんど時間を費やさず、座りがちな時間が長いと、脳卒中のリスクが上昇し、健康に悪影響があらわれます」と、カルガリー大学医学部臨床神経科学部門の脳卒中フェローであるレイド ジョウンディ氏は言う。

 「ウォーキングなどの運動や身体活動は、座りがちな時間を減らすという点でも非常に重要な役割を果たしています。米国心臓協会は、成人は週に150分以上、つまり2.5時間の中強度の身体活動を行うことを推奨しています」と、ジョウンディ氏はアドバイスしている。

わずか24時間の運動不足でインスリン抵抗性が

体を動かさないでいると、筋肉にインスリン抵抗性の原因になる脂質が蓄積

 体を動かさないで座ったままの状態が、わずか24時間続いただけでも、血糖を下げるホルモンであるインスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性の原因となる脂質が筋肉にたまることが、順天堂大学の研究で明らかになった。この傾向は、脂肪の多い食事をしていると、さらに強まるという。

 インスリン抵抗性は、主に肥満にともない起こり、2型糖尿病の原因になるだけでなく、メタボリックシンドロームの重要な原因になると考えられている。肝臓・骨格筋・脂肪のそれぞれにインスリン抵抗性は生じる。

 コロナ禍でステイホームや座り過ぎが増え、それにより運動不足や身体活動の減少が起きている人は増えている。こうした不活動は代謝状態を悪くすると考えられている。

 短時間の不活動であっても、筋肉に脂質が蓄積しやすくなる。マウスによる実験では、身体の活動を支えている骨格筋のインスリン感受性は、わずか24時間の不活動でも半減し、これに高脂肪食が加わるとインスリン抵抗性はさらに悪くなることが明らかになった。

 体を動かさないでいると、インスリン抵抗性の原因となる脂質を生成する代謝酵素が活性することも分かった。これらは、ヒトを対象とした実験でも確認された。

日本人は1日に座ったままの時間が長い 立ち上がって運動を

 日本人は、1日に座ったままの時間が長い傾向がある。運動ガイドラインでも、こうした座位時間を含む不活動の時間を短くすることが推奨されるようになった。

 さらに、日本人は体重が正常で、肥満ではない場合でも、生活習慣病を発症するケースが多い。「不活動によりインスリン抵抗性を発生するメカニズムを分子レベルで解明することで、日本人に向けた新たな生活習慣病の予防策の開発が期待できます」と、研究グループでは述べている。

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターの筧佐織特任助教、代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史准教授、河盛隆造特任教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国生理学会誌「American Journal of Physiology Endocrinology and Metabolism」にオンライン掲載された。

不活動によりインスリン抵抗性を発生する分子メカニズム

わずか24時間という短時間の不活動によっても、インスリン抵抗性の原因となる脂質(DG)を生成する代謝酵素(Lipin1)が活性化し、骨格筋のインスリン感受性は減少する。高脂肪食はこれらの変化をさらに悪くする。

出典:順天堂大学、2021年

Too much time on a computer, watching TV or other sedentary activities raises stroke risk(米国心臓協会 2021年8月19日)
Got some free time? To avoid a stroke, younger adults shouldn't spend it this way(米国心臓協会 2021年8月19日)
Association Between Excess Leisure Sedentary Time and Risk of Stroke in Young Individuals(Stroke 2021年8月19日)

順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンター
Short-term physical inactivity induces diacylglycerol accumulation and insulin resistance in muscle via lipin1 activation(American Journal of Physiology Endocrinology and Metabolism 2021年11月1日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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