ニュース
2025年06月18日
【認知症予防の最新情報】糖尿病のある人は認知症リスクが高い こうすれば脳の老化を防げる

糖尿病とともに生きる人は、認知症のリスクが高いことが知られている。
とくに50歳未満の若い頃に2型糖尿病と診断された人は、年齢を重ねると認知症を発症する可能性が高いことが、米ニューヨーク大学の研究で明らかになった。研究成果は「PLOS ONE」に発表された。
研究グループは、研究参加時には認知症を発症していない50歳以上の成人1,213人を対象に、最大で14年間追跡して調査した研究のデータを解析した。期間中に17.8%が認知症と診断された。
解析した結果、50歳未満で2型糖尿病と診断された人は、70歳以上で診断された人に比べて、認知症を発症するリスクが1.9倍高く、50~59歳で診断された成人は1.72倍高いことが明らかになった。
さらに、糖尿病の診断される年齢が1歳早くなるごとに、認知症を発症するリスクは1.9%増加することも分かった。また、とくに糖尿病と肥満のある人は認知症リスクが高かった。
「早期の糖尿病診断が認知症リスクを高める理由ははっきりと分かっていませんが、血管合併症、血糖管理の不良、インスリン抵抗性などは脳の老化も早め、認知症の発症を促進する可能性があります」と、同大学グローバルヘルス学部ベイ ウー教授は言う。
「糖尿病と診断された人は、通院治療を受け続け、食事療法や運動療法、さらには薬物療法などにより、糖尿病を適切に管理することが、認知症を予防するためにも重要であると考えられます」としている。
糖尿病を管理できていると認知症リスクは大幅に減少
糖尿病のある人は、血糖値を適切に管理していると、認知症のリスクを大幅に減らせることは、南カリフォルニア大学の別の研究でも明らかになっている。研究成果は「Diabetes Care」に発表された。
研究グループは、55歳以上の糖尿病のある人や糖尿病予備群を含む1,289人の成人を対象に、最大で10年追跡して調査し、アルツハイマー病の特徴である脳の神経原線維変化の進行などを比較した。
その結果、糖尿病のある人は、治療を受けて糖尿病を適切に管理できていると、そうでない人に比べ、アルツハイマー病や認知症の兆候の発現が少ないことが示された。
一方、糖尿病を治療しないで放置している人は、アルツハイマー病を含む認知症の兆候が1.6倍早くあらわれることも分かった。
「2型糖尿病などの代謝性疾患をできるだけ早期に発見し、適切に管理することが重要と考えられます」と、同大学の心理学者であるダニエル ネイション氏は言う。
健康的なライフスタイルにより脳の老化を防げる
2型糖尿病や糖尿病予備群の人は、脳の老化が加速しやすいが、健康的なライフスタイルによって、それを抑えられることは、スウェーデンのカロリンスカ研究所の大規模な研究でも示されている。研究成果は「Diabetes Care」に発表された。
「糖尿病のある人の脳は、実年齢に比べて老化していることが多いことが示されました」と、同研究所の老化研究センターのアビゲイル ダブ氏は言う。
「しかし、良い知らせもあります。ライフスタイルが健康的であると、糖尿病のある人も脳年齢が若いことが分かりました」。
「糖尿病や高血圧のある人は、食事・運動・薬物療法などにより、それを良好に管理することが大切です。食事を改善し、運動を習慣として行い、アルコールの飲みすぎを控え、タバコを吸う人は禁煙することが望まれます」としている。
研究グループは、大規模研究であるUKバイオバンクに参加した40~70歳の3万1,229人の成人を対象に調査した。うち43.3%が糖尿病予備群、3.7%が糖尿病と判定された。磁気共鳴画像(MRI)による脳スキャンなどを実施。機械学習の手法を用いて、認知能力や年齢から脳年齢を推定した。
その結果、2型糖尿病の人は、実際の脳年齢が実年齢よりも2.3歳老けており、とくに糖尿病を良好に管理できていない人は、4歳以上も老けていることが分かった。糖尿病予備群も、脳年齢は0.5歳老けていた。
GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の効果
糖尿病の治療薬であるGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬を使った治療は、2型糖尿病のある人のアルツハイマー病や関連する認知症のリスク低下と関連することが、米フロリダ大学が糖尿病患者を対象に行った新しい研究で明らかになった。
研究グループは、2型糖尿病患者39万6,963人を対象に調査し、3万3,858人についてはGLP-1受容体作動薬と他の血糖降下薬とを比較し、3万4,185人についてはSGLT2阻害薬と他の血糖降下薬を比較し、2万4,117人についてはGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬を比較した。
その結果、認知症などの発症率は、他の血糖降下薬を使用している人に比べ、GLP-1受容体作動薬群で33%、SGLT2阻害薬群で43%、それぞれ減少した。
GLP-1受容体作動薬は、主に膵臓に作用して血糖値を下げるインスリンの分泌を促す作用をもつ薬。GLP-1はインクレチンというホルモンのひとつで、食事などが刺激となり、消化管から分泌される。GLP-1は、インスリンの分泌を促すのに加え、血糖値を上昇させるグルカゴンを抑えたり、胃や消化管の動きを遅くしゆっくりと消化させるようにしたり、脳に働きかけ食欲を抑える作用などもある。
またSGLT2阻害薬は、ブドウ糖を尿中に排泄させる作用により血糖値を下げる薬。血液は腎臓でろ過され尿が作られ、糖は尿に排泄されるものの、尿細管を通るときにふたたび取りこまれて血液に戻される。SGLT2阻害薬は、このブドウ糖の再取込みを妨げ、尿のなかに糖を出して血糖を下げる。
GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬は、血糖値を下げるだけでなく、糖尿病のある人の心臓病と腎臓病などに対する予防効果もあると期待されている。糖尿病の薬物療法をより効果的に行うための研究は、世界中で行われている。
Earlier Diabetes Diagnosis Linked to Dementia Risk (ニューヨーク大学 2024年11月19日)
Age at diagnosis of diabetes, obesity, and the risk of dementia among adult patients with type 2 diabetes (PLOS ONE 2024年11月13日)
Scientists find a link between diabetes and risk of Alzheimer's disease (南カリフォルニア大学 2019年3月25日)
Importance of Treatment Status in Links Between Type 2 Diabetes and Alzheimer's Disease (Diabetes Care 2019年3月4日)
A healthy lifestyle may counteract diabetes-associated brain ageing (カロリンスカ研究所 2024年8月28日)
Diabetes, Prediabetes, and Brain Aging: The Role of Healthy Lifestyle (Diabetes Care 2024年8月28日)
GLP-1RA and SGLT2i medications for type 2 diabetes and Alzheimer disease and related dementias (JAMA Network 2025年4月7日)
GLP-1RA and SGLT2i Medications for Type 2 Diabetes and Alzheimer Disease and Related Dementias (JAMA Neurology 2025年4月7日)
メンタルヘルスの関連記事
- 昼寝が糖尿病や高血圧のリスクを減少 ただし長時間の昼寝は逆効果 【上手な昼寝のとり方】
- 【認知症予防の最新情報】糖尿病のある人は認知症リスクが高い こうすれば脳の老化を防げる
- ヨガなどの「マインドフルネス」が糖尿病の人の血糖管理を改善 ヨガは暑い夏にも涼しい部屋でできる
- 糖尿病の人は不安やうつのリスクが高い 自然とのふれあいで改善 森は人間のこころの健康を高める
- 【笑いが糖尿病を改善】 お笑いライブ鑑賞でストレスが減り楽観性が向上 「笑いヨガ」の効果
- 食物繊維が糖尿病リスクを減らす 食事で食物繊維をとると認知症予防にもつながる
- 【簡単にできる筋トレ】 筋肉をつけると糖尿病リスクが減少 糖尿病の遺伝リスクのある人にも効果が
- 【糖尿病の合併症】家族のこころの健康状態にも影響 家族もメンタルサポートが必要?
- 糖尿病の人の脳の老化は防げる 中年期から運動に取り組むと認知症予防につながる
- 緑を増やして糖尿病を改善 地球温暖化も防止できる 緑地を活用した「自然療法」のすすめ