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2013年10月08日

糖尿病の新たな分子機構を解明 細胞老化の原因タンパク質を発見

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医療の進歩
脂肪の老化と炎症を結ぶカギ分子の同定
 p53遺伝子は、正常な細胞にあるがん抑制遺伝子の一種。正常細胞では、p53遺伝子がごく低レベルで発現しており、発がん遺伝子の活性化などが起こるとp53遺伝子の発現は活性化する。p53シグナルが過剰になると細胞は老化し、加齢にともなうさまざまな疾患が増えると考えられている。

 南野教授らは過去の研究で、細胞の老化や染色体傷害によってp53依存性のシグナルが引き起こされ、細胞の老化が血管の老化・動脈硬化に関与していることを明らかにした。肥満にともなう内臓脂肪の老化により、p53依存性のシグナルの活性化が引き起こされ、脂肪組織の炎症とインスリン抵抗性を引き起こしているという。

 南野教授らが今回解明したのは、タンパク質「セマフォリン3E」が脂肪細胞の老化と脂肪組織の炎症を結ぶカギ分子として働くことだ。セマフォリン3Eの受容体としては、「プレキシンD1」が同定されている。

 まず、内臓脂肪におけるセマフォリン3Eの産生量についての検討を行い、2型糖尿病を発症したマウスの脂肪細胞で発現量が増加していることを確認した。この2型糖尿病マウスに、セマフォリン阻害薬を投与したり、あるいはセマフォリン3E遺伝子の欠損マウスに高カロリー食を与えると、脂肪組織の炎症は抑制され、インスリン抵抗性は改善した。逆に、セマフォリン3Eを脂肪組織で過剰に産生させたマウスモデルでは、脂肪組織の炎症が起こり、糖代謝異常が認められた。

 さらに、脂肪組織のプレキシンD1が発生する場所を調べたところ、さまざまな組織で炎症反応を引き起こす免疫細胞の1種である「マクロファージ」の表面に多く存在することが明らかになった。さらに、2型糖尿病マウスの脂肪細胞から産生されるセマフォリン3Eが、このマクロファージのプレキシンD1に作用して、脂肪組織へマクロファージを遊走させる(引き寄せる)因子として働くことが判明した。これにより、セマフォリン3Eにより、脂肪組織内へ遊走してきたマクロファージが脂肪組織の炎症を引き起こす可能性が示唆された。

 次に、セマフォリンと脂肪細胞の老化の関係を調べるために、2型糖尿病マウスモデルの内臓脂肪におけるp53依存性シグナルの活性化をp53の遺伝子欠損によって抑制すると、セマフォリン3Eの産生が減少し、脂肪組織の炎症が改善することが確かめられた。

 脂肪細胞特異的にp53遺伝子を欠失したマウスが糖尿病になると、脂肪組織でセマフォリン3E、炎症性サイトカイン(TNF-α、MCP-1)の遺伝子発現量、セマフォリンの遺伝子発現の増加がいずれも抑制されており、炎症性サイトカインの遺伝子発現も低下していた。逆に、脂肪細胞の老化を促進すると、セマフォリン3Eの産生が増加し、脂肪組織の炎症やインスリン抵抗性を引き起こした。

 これらの変化がセマフォリン3Eの阻害によって改善したことから、セマフォリン3Eは、脂肪細胞の老化と炎症を仲介している重要な分子であることが明らかとなった。普通食を与えたマウスに、マウスp53活性化薬(キナクリン)を用いて脂肪細胞の老化を促進すると、インスリン抵抗性と糖代謝異常が観察された。しかし、セマフォリン3Eの産生を阻害することでそれらは改善された。

 2型糖尿病患者の血中セマフォリン3Eが増加していたことから、ヒトの糖尿病においてもセマフォリン3Eによって誘導される脂肪組織の炎症がその病態に関与していることが考えられるという。またこれらの結果から、糖尿病の発症に重要な脂肪細胞の老化と炎症を結ぶカギとして、セマフォリン3Eが同定され、その阻害が2型糖尿病の新たな治療標的となることが示された。

 p53の発現量が低下したり機能を喪失すると、がんの発症を促進する可能性があるが、セマフォリン3Eはp53シグナルの活性に直接影響を与えないため、その阻害はがん化の危険性の少ないので、「加齢にともなうさまざまな疾患治療」につながる可能性があるという。

科学技術振興機構(JST)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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