糖尿病セミナー

22. 糖尿病の人の性

2005年11月 改訂
糖尿病性勃起障害の原因を詳しく見ると...

図2 糖尿病性勃起障害の原因
〔白井先生の統計より〕
 ここでは、糖尿病性勃起障害の原因を専門的に分析した結果をみてみましょう。
 まず、糖尿病で勃起障害を訴えて泌尿器科を受診した患者さんを対象に、NPTテストで原因を調べたのが図2です。血管や神経の障害が勃起障害の原因と診断される患者さんは半数ほどで、残りの患者さんはその他の原因(心理的なことなど)とわかります。


図3 完全勃起障害を訴える患者さんの割合
〔熊本先生の統計より〕
 次に、糖尿病の人と糖尿病でない人ごとに、完全勃起障害(陰茎が全く硬くならない症状)を訴える患者さんの割合を、年齢別に比較したものが図3です。糖尿病の人では、完全勃起障害を訴える人の割合が糖尿病でない人よりも多く、とくに神経障害があると、若い人でも勃起障害が起きやすいという結果が出ています。


図4 血管障害、神経障害の程度と勃起能力低下の関係
〔熊本先生の統計より〕
 図4は、少し難しくなりますが、勃起能力と血管・神経障害の検査結果の関係を示しています。検査で血管や神経の障害が進行していると診断された人ほど勃起能力が低下し、とくに60歳以上では、血管障害が勃起能力の低下に大きく関係してくることがわかります。

勃起補助具を使う方法

 薬による治療とは別に、器具を使う方法が有効です。

勃起はするものの短時間で萎えてしまう場合

 糖尿病の患者さんの場合、勃起はするものの長続きせずに途中で萎縮してしまうというケースがよくみられます。この場合、勃起したあとに陰茎の根元を専用のリングで締めて、海綿体の中に血液を溜めることで勃起状態を維持することができます。ただし、30分以上は締めないように注意します。

十分に勃起しない場合

 勃起の硬さが不十分だったり、全く勃起しない場合には、陰圧式勃起補助具という器具が有効です。PGE1テストに反応しない、血管障害が進行している人でも、性交渉可能なレベルの勃起を得られます。
 使い方は、筒の中に陰茎を入れ筒の内部を陰圧(真空)にすることで物理的に勃起を生じさせ、この状態で陰茎の根元の部分をリングで締めるというものです。この場合も、リングは30分以上使用しないようにします。

それでも勃起を得られない場合

 PGE1注射や勃起補助具でも十分な勃起を得られない患者さんには、プロステーシスというシリコンチューブを海綿体内に埋め込む手術治療があります。プロステーシスには、インフレータブルとノンインフレータブルと呼ばれるものがあります。
 インフレータブルは、陰茎内に入れるシリコンチューブと、チューブ内に流し込む液体、液体を溜めるタンク、液体を流すためのポンプからなり、それらを下腹部と陰嚢内に埋め込みます。ポンプを押すと、液体がシリコンチューブに流れて勃起した状態になり、ポンプについた弁を押すことで元に戻ります。ノンインフレータブルはタンクやポンプはなく、シリコンを折り畳んだり伸ばしたりして用います。
 どちらも疑似的に勃起させるものですので、患者さん自身の性感が高まるわけではないことを理解しておきましょう。しかし、性的スキンシップを回復するための手段としては大変有効で、確実に効果を得られます。この手術を受けて充実した性生活、潤いのある人生を送られている方は少なくありません。
勃起障害のほかには
◆射精障害...勃起障害以外に、射精障害が現れることがあります。通常、射精時には尿道の膀胱側が閉じ、精液は体外に飛び出すのですが、糖尿病で神経障害があると、尿道が閉じずに精液が膀胱内に流れてしまう逆行性射精や、精液が精巣から尿道までも運ばれてこないといった状態になることがあるのです。治療をしなくても性交渉は可能ですが、子どもをもうけたい場合には薬物療法や人工授精を行います。
◆女性の場合...糖尿病の女性の性機能障害としては、腟内の分泌が減ったり性交痛が起きる、などが報告されています。こうした症状に対しても、潤滑ゼリーを使うなどの対処法があります。産婦人科や女性外来を受診したり、夫が通院するときに一緒に受診してみましょう。

ご夫婦で性生活を工夫しましょう

 ここまで、勃起障害を中心に解説してきました。しかし、性行為はなにも男性器を挿入することが目的のすべてではありません。例えば肌を触れ合うスキンシップからも、性の満足感、生きていることの充実感は自然と生まれてくることでしょう。
 また、性機能障害を単に性の問題としてのみとらえず、男性の心身全体の健康問題として、さらに夫婦間の問題として考えることが大切です。そのためには、パートナーも積極的に治療をすすめ協力していくことが、夫婦のQOLを高めていくうえで大切なことといえます。
 人生におけるスキンシップの必要性をはっきり認識し、日頃から性を秘すものとせず、生きることの基本的な事柄として、朗らかに、恥ずかしがらず話し合えるようにしていきたいものです。

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