糖尿病セミナー

22. 糖尿病の人の性

2005年11月 改訂

性機能障害はどうして起こるのでしょう

 糖尿病でなぜ性機能障害が起こるのか、ここでは勃起障害を中心に話を進めます。
 高血糖状態が続くと、血管障害で血液の流れが悪くなったり、神経障害が起こることはよく知られています。勃起障害の原因もこの二つの関連が大きいと考えられます。
 陰茎内部には、海綿体というスポンジ状の組織があります。海綿体は性的刺激などを受けると、自律神経の働きで内部の動脈が拡がり、多量の血液が送り込まれて、スポンジが膨らむように膨脹が始まります。同時に、海綿体内の血液の出口にあたる静脈が、海綿体自体の膨脹により圧迫されて血液が流れにくくなります。こうして海綿体は、血液が溜め込まれて膨脹した状態を維持します。これが勃起状態です。
 糖尿病で血管障害や神経障害があると、この一連の現象がスムーズに起こらず、全く勃起しない、起勃しても硬さが十分でない、起勃が長く続かない、などの症状が現れます。もちろん、健康な男性でも高齢になるにつれ血管障害、神経障害が進み、少しずつ勃起能力が衰えてきます。しかし、糖尿病では障害のスピードが加速され、高頻度に高いレベルの勃起機能低下が起きてしまうのです。

まず勃起機能改善薬を試みる

問診と検査で隠れている病気をチェック

 勃起障害の治療の流れは医療機関によって多少異なりますが、まず初めに、症状や服用中の薬、アレルギーの有無などに関する簡単な問診票に記入していただくケースが多いようです。そのうえで血圧や脈拍の測定、必要があれば心電図検査などを行います。
 これらによって勃起障害の原因の見当をつけたり、勃起機能改善薬(バイアグラ(R)やレビトラ(R)、シアリス(R))を安全に服用できるか、性行為をすること自体に危険はないかを判断します。また、服用中の薬の副作用による勃起障害と考えられる場合には、薬の変更を検討します。
 なお、糖尿病で治療を受けている方は、最初に主治医に相談してください。そうすれば改めて問診や検査をする必要性がなく、効率よく治療を受けられます。

勃起機能改善薬を試してみる

 勃起機能改善薬を問題なく服用できる場合は、まずそれが処方されます。その服用で糖尿病の方でも5〜7割は性交渉が可能になります。
 薬の効果を引き出すためには、睡眠を十分とっておき、満腹時の服用は避けてやや空腹ぎみのときに服用するとよいでしょう。また、少しだけアルコールを飲んだり(飲み過ぎると逆効果です)、パートナーと協力して性的な刺激を楽しむなどの工夫もしてみてください。
勃起機能改善薬の作用と服用上の注意点
 勃起機能改善薬は、陰茎の血管を拡張して海綿体内の血液量を増やし、勃起を助けます。この作用は陰茎の血管により強く作用するものの、陰茎以外の全身の血管にも作用して、おもに血圧へ影響します。このため低血圧や高血圧の人、あるいは心臓に病気がある人は服用できない場合があります。糖尿病の人は心臓に病気があることが多く、患者さん自身がそれに気づいていないこともあるので(無痛性心筋梗塞など)注意が必要です。
 最も気をつけなければいけないことは、狭心症や心筋梗塞の治療で硝酸剤や一酸化窒素供与剤(ニトログリセリン、ニコランジルなど)を服用している場合です(内服、舌下、注射、貼付などすべて)。これらの薬は心臓の動脈を拡張することで、発作を鎮めたり予防します。勃起機能改善薬と併用すると、血管拡張作用が強くなり過ぎて血圧が異常に低下し、生命が危ぶまれることもあるのです。
 このほか、網膜色素変性症や重度の肝機能障害がある人も服用できません。

詳しい検査と原因別の治療

 勃起機能改善薬を服用しても効果が十分でない、あるいは心臓病などのために勃起機能改善薬を服用できない場合には、より詳しい検査を行って原因別に治療法を選択したり、勃起補助具を使う方法などを試みます。これらの検査や治療はおもに泌尿器科の専門外来で行っています。

心因性勃起障害の検査と治療

 男性は睡眠中、周期的に訪れるレム睡眠時に、生理的に自然な勃起が起こります。これをNPT(nocturnal penile tumescence)=夜間睡眠時勃起現象といいます。これを調べる「NPTテスト」という検査で、睡眠中に十分な勃起があることがわかれば、糖尿病による血管や神経の障害が原因ではなく、心理的な問題によるもの「心因性勃起障害」の可能性が高いと考えられます。
 NPTを簡単に調べる方法として、目盛のついたテープ状の測定用具を用いる方法が普及しています。就寝前にそれを陰茎に巻いておきます。翌朝起きたときにそれがどれくらいゆるんでいるかを見ると、寝ている間に陰茎がどの程度勃起したかがわかるという仕組みです。
 この検査の結果、心因性勃起障害とわかる患者さんは少なくありません。糖尿病であることがストレスとなり、うつ状態に陥りやすいことや、「糖尿病=勃起障害」という誤った思い込みが災いしていることもあるようです。そうした患者さんの中には、睡眠中の自然な勃起があるとわかっただけで、勃起障害が治る方もいます。治療法としては、心理療法でストレスを取り除いたり、うつ状態を改善する薬を服用したりします。

血管障害の検査と治療

 血管を拡張する作用のあるプロスタグランジンE1(PGE1)という薬を陰茎に注射して、強制的に海綿体内の血液量を増やす「PGE1テスト」という検査があります。これで勃起すれば、血管障害はそれほど進んでいないとわかります。
 この検査法はそのまま治療法として応用可能です。つまり、性交渉の前に患者さん自身でPGE1自己注射をするというものです。ただし、まだ正式な治療法としては認可されていないので、指定医療機関で行われている治験に参加登録したうえでしか行えません。PGE1の飲み薬を服用する方法もありますが、その場合は服用後すぐに効果が現れるわけではなくて、しばらく飲み続けて効果を確かめる必要があります。
 PGE1テストで血管系統の障害が疑われる場合は、さらに詳しく検査する方法としてカラードプラー法があり、陰茎内の血流を画像に表示し、どの血管が悪いのかを調べたりします。

神経障害の検査と治療

 陰茎の神経を微量な電流で刺激し、その反応が伝わる速度を計測したり、振動覚計を用いて陰茎亀頭部の振動の伝わり方を測定します。神経障害があると、健康な人より反応の伝わるスピードが遅くなっています。神経障害の治療法には、ビタミンB製剤の服用・注射などがあります。

男性ホルモン低下の検査と治療

 高血糖状態が続いていると男性ホルモンの一種の遊離テストステロンが減少し、そのために勃起障害が起きることもあります。血液検査で遊離テストステロン量を測定して、その低下がわかったときにはホルモン補充療法も考慮します。

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