糖尿病セミナー

20. 低血糖

2014年4月 改訂

対処方法は?

 それでは、低血糖症状が出たらどうすればよいのでしょうか。

1.自分で対処できるケース

 低血糖の症状があらわれたら、まずブドウ糖(なければ砂糖)を口にすることです。このとき、余裕があれば血糖値を自分で測り、低血糖であることの確認をしましょう。
 ブドウ糖を10〜15g飲み込み、しばらく安静にしています。15分ほど経っても回復しない場合は、さらにブドウ糖を同量追加します。もうすぐ食事だからそれまでがまんしようなどと考え対処を遅らせると、より危険な状態に至る可能性があります。糖分をとり、一時的に多少高血糖になったとしても、低血糖を放置するよりはずっと安全なのです。
 なお、車を運転中に低血糖ではないかと思ったら、周囲の安全を確認して直ちに車を路肩に止めてください。がまんしていると、注意力が鈍くなったり、ブレーキのタイミングが遅くなったり、手足を動かせなくなったりするので、事故の原因となります。また、低血糖になりそうな予感がするような日は、車を使わないほうが無難でしょう。

ブドウ糖を常に身に付けて

糖尿病患者さんに砂糖20g投与したとき(下方曲線)と
ブドウ糖20g投与したとき(上方曲線)の血糖値の変化

 低血糖はいつどこで起きるかわかりません。薬物療法をしている人は、ブドウ糖を常に身に付けておきましょう。
 診察室で患者さんに「ブドウ糖を見せてください」と聞くと、「今は車の中に」とか「机の引き出しに...」と答える人がいますが、それでは意味がありません。いざというときすぐに取り出せるよう、車や机の中はもちろん、男性なら普段着るすべてのスーツの内ポケットに、女性ならバッグに入れておくぐらいの準備が必要です。
 あめや氷砂糖でも血糖値を上げることはできますが、なによりも溶けやすくて吸収の速いブドウ糖がお薦めです。また、糖分が含まれていない人工甘味料ではだめです。もし手元にブドウ糖がない場合は、市販のジュースを飲むことです。ブドウ糖が含まれているもの(参照)が市販されていますので、100〜150mLを飲用します。ただし、ダイエット飲料では役に立ちません。

砂糖では回復が遅れることも

市販清涼飲料水のブドウ糖含量
    • 商品名
    • 1ボトル中の含量 (g)
    • 1ボトルの容量 (mL)
    • ファンタグレープ
    • 20
    • 350
    • ファンタオレンジ
    • 18.9
    • 350
    • コカコーラ
    • 13
    • 350
(ブドウ糖以外の糖質:ショ糖、果糖は、この表では省略)
 ブドウ糖がないときは砂糖でも構いませんが、αグルコシダーゼ阻害薬(グルコバイ、ベイスン、セイブル)を服用している人の場合は、ブドウ糖の摂取が必要です。αグルコシダーゼ阻害薬は、食べたでんぷんをゆっくり時間をかけて分解させることで、食後の急激な血糖値の上昇を防ぐ薬です。ですから、砂糖を口にしても、分解されブドウ糖となるまで時間がかかり、低血糖が改善されるのに時間がかかります。
 αグルコシダーゼ阻害薬だけの服用では低血糖にはなりませんが、SU薬やインスリン注射などと併用している人は、砂糖でなくブドウ糖を身に付けておきましょう。ブドウ糖は病院でもらえますし、市販もされています。また、の清涼飲料水には多く入っています。

2.家族や身近な人に対処してもらうケース

 低血糖で意識障害が出ると、自分では何もできなくなります。こんなときは、周囲の人に処置してもらいます。薬物療法を始める際には、家族やできれば職場の人にも自分が低血糖になったときの対応を頼んでおきましょう。
 糖尿病の患者さんがいるご家族や職場の人は、その患者さんが普段と様子が違う、一点を見詰めて動かない、話しかけても返事をしないなどの異常を感じた場合、まず低血糖を疑ってみることです。「あなたはどこで何をしているのか」と質問をして、意識レベルを確かめてみるのも良い方法です。
 低血糖を起こしているとわかったら、コップ半分の水にブドウ糖を入れて溶かしたものを飲ませてください。それでも回復しなかったり、ブドウ糖水を飲み込まない、昏睡に陥っているといった場合には、あらかじめ医師に処方してもらったグルカゴン1バイアルを注射します。家庭には必ずグルカゴンと注射器を用意しておき、家族の方は注射の仕方を覚えておきましょう。グルカゴン注射をしても5分以内に回復しないときは、速やかに救急車を呼んでください。
 患者さんの意識が戻ったら、何か糖分または炭水化物(食品交換表の表1)の食品を1〜2単位程度経口摂取させてください。低血糖の原因となった薬物がまだ体内に残っていて、一旦回復しても再び低血糖になる恐れがあるからです。

IDカードの携帯も忘れずに

 外出先で、周囲に自分が糖尿病であることを知っている人がだれもいないときに、低血糖で意識障害を起こすこともあります。そんなケースに備え、自分が糖尿病であることや氏名、自宅・病院の連絡先がわかるようなメモを携帯しましょう。専用のIDカードもありますので、主治医の先生に尋ねてみてください。

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