「第58回日本糖尿病学会年次学術集会」が5月21日~24日に下関市で開催された。糖尿病の発症リスクを高める食事スタイルについて、日本人を対象とした大規模調査の結果が紹介された。
日本人が対象のコホート研究
「JPHC Study」は、「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」として、全国の11の保健所と国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などとの共同研究として行われている「コホート研究」。コホート研究は、特定の集団を追跡して調査することを意味する。
どのような生活習慣をもつ人が、がん・脳卒中・心筋梗塞・糖尿病などを発症しやすいかを明らかにするために、これまで約10万人の地域住民から生活習慣や健康に関する情報と血液を提供してもらい、10年以上にわたる長期追跡を行う多目的コホート研究として継続されている。
「JPHC Study」の糖尿病に関する研究は、国立国際医療研究センターなどが中心となり行われている。どのような人が糖尿病を発症しやすいかを、食習慣・運動・喫煙・飲酒などの生活習慣を調査し明らかにしている。日本人を対象としたの糖尿病の大規模調査として、さまざまな成果が報告されている。
アルコールを飲み過ぎると糖尿病リスクは上昇
膵臓から分泌されるインスリンは、ブドウ糖などの細胞への取り込みをコントロールしている。インスリンが十分に働かなかったり不足したりすると、高血糖が生じる。アルコールは、適量を摂取するとインスリンへの反応(感受性)が改善するが、一方で飲酒を長期間続けるとインスリンの分泌量が低下することも報告されている。
「JPHC Study」では、やせた男性では、飲酒による2型糖尿病リスクが上昇することが明らかになった。BMI(体格指数)が22以下の男性は、飲酒量が増えるにつれて糖尿病リスクが上昇し、お酒を飲まないグループにくらべ、エタノール摂取が1日当り23.1~46.0g(日本酒換算で1~2合)のグループで1.9倍、46.1g以上摂取するグループでは2.9倍まで高くなった。
やせている男性は、もともとインスリンの分泌能力が低くて太れないために、飲酒によるインスリン感受性の改善というメリットよりもインスリン分泌量の低下というデメリットの方が強まると考えられている。
大豆を摂取すると糖尿病リスクは低下 肥満や閉経後の女性で効果が高い
大豆に含まれるイソフラボンには、体がブドウ糖を処理する能力を示す耐糖能が改善し、糖尿病を改善する効果があると考えられており、大豆などの摂取により糖尿病リスクが低下したり、イソフラボンを多く摂取している人は空腹時と食後のインスリン濃度が低下することなどが、過去の研究で確かめられている。
「JPHC Study」では、特に糖尿病リスクの高い肥満や閉経後の女性で、大豆を摂取することが糖尿病の予防につながる可能性が示唆された。大豆を摂取していた女性では、糖尿病の発症リスクが最大で23%低下した。
大豆製品やイソフラボンは、インスリン感受性(インスリンの効きやすさ)を改善するので、インスリン感受性が低下している肥満者に予防的に働く可能性がある。また、女性ホルモン(エストロゲン)には糖の代謝や脂肪細胞の調節、脂質生成の阻害などの作用があり、それと構造が似ているイソフラボンにも弱いながら同様の作用があると考えられる。
魚を食べると糖尿病リスクは低下 魚に含まれる脂肪酸がインスリン感受性を改善
魚に豊富に含まれる「n-3系多価不飽和脂肪酸」であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)をふだんからよく摂取していると、心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患の発症が減少することが知られる。糖代謝に関しては、インスリン分泌やインスリン抵抗性が、n-3系脂肪酸によって改善するという研究結果も発表されている。
「JPHC Study」では、魚を食べることで糖尿病リスクが低下することが確かめられた。男性では魚介類摂取が多いほど糖尿病発症のリスクが低下する傾向がみられ、摂取量が最も少ない群に比べ最も多い群では糖尿病のリスクが約3割低下した。
魚介類、特にアジ・イワシ・サンマ・サバなどの小・中型魚や、脂の多い魚の摂取により、糖尿病の発症リスクが低下するという結果が得られた。その理由は、魚に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸やビタミンDに、インスリン感受性やインスリン分泌を改善する効果があるからだという。
野菜を食べると糖尿病リスクが低下 男性で影響が大きい
野菜をよく食べる人では糖尿病の発症リスクが低下し、野菜摂取がもっとも多いグループで糖尿病リスクが20%ほど低下することが明らかになった。野菜にはカロテノイド、ビタミンC、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物繊維などの栄養素が含まれる。
男性では特に、特にホウレン草や小松菜などの葉野菜や、キャベツや大根などのアブラナ科の野菜を食べると効果的だ。肥満や過体重の男性や、喫煙習慣のある男性で、この傾向は強まるという。
葉野菜には、食後血糖値の上昇を抑える食物繊維に加え、インスリン感受性を高める「ビタミンC」や「カロテノイド」などの抗酸化ビタミンが多く含まれており、これらが糖尿病リスクを低下させることは、他の研究でも確かめられている。また、アブラナ科の野菜に含まれる「イソチオシアネート」には抗酸化作用がある。
清涼飲料水が糖尿病の発症を増やす理由
清涼飲料水によって、余剰なエネルギーを摂取すると、肥満が引き起こされる。また、多量の清涼飲料水の摂取は、急激な血糖・インスリン濃度の上昇をもたらし、耐糖能異常、インスリン抵抗性にもつながる。清涼飲料水の甘味のために使用されているフルクトースは、インスリン抵抗性と関連が強い内臓脂肪を増加させるだけでなく、血中尿酸値も上昇させ、肥満や糖尿病を進展させる可能性がある。
日本人女性でも、清涼飲料水を飲み過ぎると糖尿病の発症リスクが上昇することが判明した。清涼飲料水は、食生活が欧米化・多様化した日本をはじめとするアジア圏内で消費量が増えているので、今後注意が必要な食習慣のひとつだ。
赤身肉を多く食べる男性で糖尿病リスクが上昇 コレステロールや卵は影響なし
男性では肉類全体の摂取量が多い(100g/日以上)グループで糖尿病の発症リスクが1.36倍に上昇することが判明した。特に赤身肉の摂取により糖尿病発症のリスクは上昇するという。
その理由は、肉に多く含まれるヘム鉄や、飽和脂肪酸、調理の過程で生成される焦げた部分に含まれる糖化最終産物(AGEs)やヘテロサイクリックアミンが、酸化ストレスや炎症を引き起こし、インスリン感受性やインスリン分泌に悪影響をもたらすからだという。
一方、コレステロールや卵については、男女ともにコレステロールの摂取量が多いグループ(約400mg/日以上の群)で、糖尿病リスクは上昇しないという結果になった。
特に閉経後女性では、コレステロールの摂取により糖尿病発症リスクが低下する可能性が示された。閉経後女性ではコレステロールの高摂取により血中のエストロゲンレベルが増加するからだと考えられている。
健康診断で空腹時血糖値が100mg/dLを超えた人は要注意
調査開始時に糖尿病と判定されなかった2,207人の男女を対象に、5年間の糖尿病発症について調べた。糖尿病の発症は、自己申告と空腹時血糖値126mg/dL以上で定義した。その結果、125人が糖尿病を発症した。空腹時血糖値が高いほど糖尿病発症率は高くなり、糖尿病発症のリスクは空腹時血糖値が110mg/dLに達する前から上昇していることが判明した。
日本の糖尿病の診断基準での「糖尿病型」の判定には、空腹時血糖値が126mg/dL以上であることが含まれる。空腹時血糖値が110mg/dL未満であると「正常型」、110mg/dL以上126mg/dL未満であると「境界型」とされる。
研究班では、「糖尿病発症のリスクは空腹時血糖値(IFG)が高くなるにつれて連続的に上昇するので、IFGの下限を決めるとした場合にある程度の主観的判断が入ってしまうのは避けられない」としながらも、「糖尿病発症のリスクは空腹時血糖値が100mg/dLあたりから上昇しているので、下限が110mg/dLでは高すぎるように思える」と指摘している。
糖尿病は早期に発見し、治療を開始することが重要な病気だ。健康診断で空腹時血糖値が100mg/dLを超えていた人は、将来に糖尿病を発症する危険性が高いので注意が必要だ。
第58回日本糖尿病学会年次学術集会
多目的コホート研究(JPHC Study)(国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 予防研究グループ)
[ Terahata ]