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2025年12月11日
WHOが妊娠中の糖尿病に関する初の国際ガイドラインを発表
世界では糖尿病患者数が急速に増え続けており、その数は8億人以上にのぼる。糖尿病は子供から高齢者まで、ライフステージを問わずに発症する病気だが、今回のWHOの発表で特に注目すべきなのは、妊娠中の女性の約「6人に1人(年間2,100万人)」が高血糖を経験しているという事実である。妊娠期の高血糖は、母体と胎児の健康や命にかかわり、その影響は妊娠期間だけでなく、生涯におよぶ場合もある。
世界保健機関(WHO)は、2025年11月の世界糖尿病デーに、妊娠中の糖尿病の管理に関する国際ガイドラインを発表1)。 このガイドラインは、妊娠中の糖尿病による合併症を防ぎ、母子の将来の健康を守るための具体的なケア基準となる。
妊娠中の高血糖は母子の健康や命にかかわる
妊娠中の糖尿病には、妊娠前からの「1型糖尿病」「2型糖尿病」に加え、妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病には至っていない糖代謝異常である「妊娠糖尿病」が含まれる。
実は、妊娠中は胎盤から出るホルモンの影響でインスリンが効きにくくなるため、もともと糖尿病がない人でも高血糖になりやすい。もし適切なケアを行わずに高血糖の状態が続くと、以下のようなリスクが高まるとされている2)。
- 妊娠高血圧症候群(母子ともに命にかかわる血圧上昇)
- 巨大児(赤ちゃんが大きく育ちすぎることによる、肩甲難産や分娩時のケガのリスク)
- 早産や帝王切開
- 生まれた直後の赤ちゃんの低血糖、呼吸障害、黄疸など
また、妊娠前から血糖値が高いままの場合には、流産や胎児の先天的異常、出生前後に亡くなるリスクが高まる2)。
将来の影響にも留意したい。まず母親自身については、日本の診療ガイドラインによれば、妊娠糖尿病になった女性は産後1~5年で8%、5年以上で19%が2型糖尿病を発症したというデータがある2)。
また、生まれた赤ちゃんも将来的に糖尿病や肥満になりやすいことが知られている。女児の場合は、将来自分が妊娠した際に母親と同じように妊娠中の糖尿病を経験する懸念もあり、病気のリスクが世代を超えてくり返される恐れがある2)。
新ガイドラインは、深刻な合併症を防ぐための「重要な道筋(ロードマップ)」を提供するものだ。WHOは今回の発表で「妊娠中の糖尿病の影響は、世代を超える」と警鐘を鳴らしており、次世代への病気の連鎖を断ち切るためにも、産後のフォローアップを含めた長期的なケアを求めている。
1型・2型・妊娠糖尿病、それぞれにどんなケアが必要? WHOの新基準
今回WHOが示した国際ガイドラインでは、世界中のすべての女性が妊娠中の糖尿病に対する質の高いケアを受けられるよう、計27項目の推奨事項が示されている3)。
1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病のそれぞれに適した内容が盛り込まれており、個々の状態に合わせた食事、運動、適切な血糖モニタリングの方法、必要な場合の薬物療法、胎児の超音波検査など、妊娠中から出産、産後に至るまで母体と赤ちゃんを総合的に支えるためのケアを網羅しているのが特徴だ。
ガイドラインでは、こうしたケアを確実に提供するために、多職種が連携する「総合的なサポート体制」も重要だとしている。
WHO事務局長のテドロス博士は今回の発表に際して次のように述べ、その意義を強調した。
「WHOは長年にわたり糖尿病と妊娠に関するガイダンスを提供してきましたが、妊娠中の糖尿病管理に関する具体的なケア基準を策定したのは今回が初めてです。このガイドラインは、女性の生活の現実(realities of women's lives)と健康上のニーズに基づいており、すべての女性に質の高いケアを提供するための、明確で科学的根拠に基づいた戦略となるでしょう」1)。
■参考
- 1)WHO launches global guidelines on diabetes during pregnancy on World Diabetes Day(WHO)
- 2)糖尿病診療ガイドライン2024(日本糖尿病学会)
- 3)WHO recommendations on care for women with diabetes during pregnancy
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