42歳で脳卒中を経験後、弁護士、ミュージシャンとして復活――AHAニュース
米国マサチューセッツ州のValerie Giglioさんは、弁護士として最終弁論をする時も、プロのミュージシャンとしてステージに立つ時も、人々の反応を把握している。「人は誰でもそれぞれの役割を演じている」と同氏は語る。
しかし彼女は42歳のとき、弁護士として法廷に立つ能力と、ミュージシャンとして歌う能力の両方を失った。すべては突然の脳卒中のためだった。
Giglioさんはある日、首に鋭い痛みを感じ、それは数日間続いた。耐えられなくなり病院を受診すると、医師は、「恐らく筋肉が引っ張られて痛んでいるのだろう」と告げ、彼女を診察室から送り出した。
翌朝、Giglioさんはめまいを感じ、物が二重に見えはじめた。目の前の世界が回転し出していた。
夫が911番に電話。到着した救急車が彼女を乗せ、向かった先は、前日Giglioさんが受診したのと同じ病院だった。
医師は症状の原因を突き止めることができず、他院への転送を手配した。転送先の病院での検査により、脳卒中が起きていることが初めて明らかになった。
Giglioさんがまだ42歳と若かったこと、そして健康状態が良好だったことから、脳卒中の可能性が想起されず、診断の遅れにつながったと考えられた。
「脳卒中の6~7回に1回は非高齢者に起きている。ただしこの事実は、医師の間でさえ、広く認識されているとは言い難い。その結果、救命治療の機会を逸することもある」と、その夜、彼女の治療を担当した脳神経内科医のAneesh Singhal氏は語る。
脳卒中では治療開始に手間取るほど、その後の身体的な問題の解決に、より多くの時間を要するようになる。Giglioさんの場合、1週間は飲食物を飲み込むことすらできなかった。はっきりと話すことも難しく、歌うことは不可能だった。
「誰かがペンを使って私の体の真ん中に線を引いたようなものだった」と彼女は振り返る。彼女の左半身は麻痺していた。「私はほとんどすべてを奪われた。しかし、幸運なことに、自分の心を失うことはなかった」。
Giglioさんはその病院に1週間入院した後、リハビリ施設へ転院して2ヵ月間過ごした。彼女が負った障害の大きさは、音楽療法の最中に明確になった。ドラムを叩くまねをすることさえ、ままならないことを知り、彼女は泣きはらした。
しかし、週ごとに改善していった。杖を持って歩くことは、彼女の最初の大きな目標のひとつだった。1人で歩くことは、さらに大きな目標だった。
単に左手を広げることができるようになった時、彼女は大きな勝利を得たように感じた。「私は自分の人生を取り戻したかった。リハビリスタッフに言われたことはすべてやり遂げた」と彼女は言う。
さらに、歌声を取り戻すことを決意したGiglioさんは、ボイスコーチと協力して呼吸方法から再度トレーニングし始めた。「私には音楽のトーンもなければ、ビブラートもなかった。プロの歌手に必要なもののすべてがなかった」。
Giglioさんの脳卒中は2014年に発生した。そして2016年までに彼女は、ボストンにあるバークリー音楽大学のボーカル主要メンバーとしてのオーディションを受けるほど、十分な自信を獲得していた。オーディションの結果、彼女の参加が認められた。「私は勝利を確信した」と彼女は言う。
オーディション合格は、脳卒中後にGiglioさんが達成した多くの業績のひとつに過ぎない。彼女は脳卒中の体験について本を出版したほか、脳卒中患者の救命救急医療体制を改善するための立法を働きかけている。
さらに音楽大学での経験を生かして、音楽プロデュース会社を設立。昔ながらのクラシックとシンセサイザーなどを融合した楽曲をリリースしている。
Giglioさんは今年の初め、米国心臓協会(AHA)の招聘を受け、ボストンで行われたナショナルホッケーリーグ(NHL)の試合で国歌を独唱した。中継を通じて何百万人もの人々が彼女の姿を目にした。
その聴衆は、彼女がそれまでに経験したステージの中で最大の規模だった。「高音で国歌を歌い終えると、人々の歓声が沸き上がってきた。素晴らしい体験だった。うまくいけば、私は脳卒中後の人々の可能性について、これまでの固定観念を打ち砕くことができるかもしれない」。
[American Heart Association News 2022年7月15日]
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Photo Credit: Valerie Giglioさん(Photo courtesy of Valerie Giglio)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所