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2021年12月10日

肥満は糖尿病の人にとって大敵 体重をコントロールして糖尿病を改善 成功するためのコツは?

 食べ過ぎや運動不足、ストレスなどが原因で起こる肥満は、体にとって緊急事態だ。

 肥満は、2型糖尿病や高血圧、脂質異常症などの大きな要因であるだけでなく、がんのリスクも高める。

 肥満の人が新型コロナに感染すると、重症化しやすいことも知られている。

 肥満が糖尿病の人の死亡リスクを高めるという調査結果も発表されている。

 肥満の人が体重を減らすと、血糖を下げるインスリンの感受性が回復し、血糖コントロールも改善しやすい。

 糖尿病とともに生きる人が、体重と血糖のコントロールを良好に維持すると、がんを予防できることも分かってきた。

肥満は糖尿病の重大な危険因子 体重コントロールが大切

 肥満は、2型糖尿病を発症するリスクを6倍以上に高めることが、デンマークのコペンハーゲン大学の研究で明らかになっている。

 「肥満は、遺伝的な原因に関係なく、2型糖尿病の重大な危険因子となります。肥満の人は、食事や運動などの生活スタイルを見直して、体重を健康的にコントロールすることが、糖尿病のリスクを低下させることにもつながります」と、同大学保健医療科学部のテレジア ・シュナー氏らは言う。

 研究グループは、「デンマーク食事・がん・健康研究」に参加した、平均年齢56.1歳の男女のデータを解析した。14.7年の追跡期間に4,729人の参加者が2型糖尿病を発症した。糖尿病を発症しなかった5,402人の対照群と比較して解析した。

 その結果、肥満の人は標準体重の人に比べ、2型糖尿病を発症するリスクが6倍高く、過体重の人でもリスクが2.4倍高いことが明らかになった。

 遺伝的リスクスコアも調べた結果、糖尿病の遺伝的なリスクをもっている人では、健康的な生活スタイルを続けていれば、糖尿病の発症リスクの上昇はわずか18%に抑えられることが示された。

 もっとも糖尿病リスクが高かったのは、肥満があり・遺伝的なリスクがあり・生活スタイルが不健康という人だった。そういう人は、体重が正常・遺伝的なリスクが低く・生活スタイルが健康的な人に比べ、2型糖尿病を発症するリスクは14.5倍高くなった。

日本人も糖尿病があり肥満や太り過ぎだと死亡リスクは上昇

 日本人を対象とした調査でも、糖尿病のある人は、肥満や太り過ぎであると、死亡リスクが上昇することが示されている。調査では、糖尿病の既往歴のある日本人4,600人以上を20年間追跡した。

 日本人は欧米人と比べ肥満度が低い傾向があり、さらには軽度の肥満でも糖尿病を発症しやすいことが知られている。日本人を含むアジア人の糖尿病の特徴は欧米人と異なると報告されているが、日本人を対象に糖尿病と肥満度について調べた研究は少ない。

 そこで、国立がん研究センターや群馬大学などの研究グループは、40~69歳の男女約4,647人を18.5年間、追跡して調査した。

 その結果、糖尿病の人では、とくに男性で、肥満(BMIが30以上)、太り過ぎ(BMIが25以上)であると、死亡リスクが増加することが明らかになった(日本ではBMIが25以上を"肥満"と判定するが、この研究では欧米の基準で肥満を判定している)。

 BMIが30以上の肥満のグループで、全死亡のリスクは1.36倍に増加した。死亡原因ごとにみると、がんによる死亡リスクは、BMIが25以上で1.42倍に、30以上で1.66倍に増加した。心疾患による死亡リスクも、BMIが30以上で1.86倍に上昇した。

 この研究では、肥満や太り過ぎだけでなく、やせ過ぎ(BMIが19未満)の人でも、死亡リスクは上昇するという結果になった。糖尿病とともに生きる人は、適正体重の維持が重要であることが示された。

糖尿病がありBMIが30以上の肥満だとがんの死亡リスクが1.36倍に増加

出典:国立がん研究センター 社会と健康研究センター、2020年

良好な血糖と体重のコントロールが、がんリスクを大幅に低下

 一方、2型糖尿病や肥満のある人は、良好な血糖コントロールと健康的な体重を維持することで、がんのリスクを大幅に低下できることが、スウェーデンのヨーテボリ大学で明らかになった。

 「2型糖尿病の患者さんの多くは、がんの発症を予防できることが示されました。今回の研究は、血糖と体重のコントロールを改善することが、がんの予防にどうつながるかを解明したものです」と、同大学サルグレンスカ アカデミー分子医学科のカイサ シェーホルム氏は言う。

 研究グループは、肥満手術を受け肥満症を治療した2型糖尿病患者393人を、同じ臨床的特徴をもつ(重度の肥満だが手術を受けていない)308人の対照群と比較し、21年追跡して調査した

 その結果、肥満症を治療した群では、がんになるリスクが37%低いことが示された。肥満症の治療を受けた群では17%ががんを発症したが、治療を受けなかった群の24%よりも、がんリスクは低かった。

血糖と体重のコントロールが良好だと、がんリスクは60%減少

 さらに、良好な血糖コントロールを10年間にわたり維持していた患者では、がんの発症リスクが60%減少することが明らかになった。血糖コントロールが良好でない患者のがんリスクは22%だったが、良好な患者では12%に抑えられていた。

 「肥満と糖尿病の両方が、世界的に急速に増えており、がんリスクの上昇と、早死のリスクの上昇につながっています。今後10~15年のあいだに、肥満は喫煙よりも多いがんの症例を引き起こすだろうと推定されています」と、アカデミー分子医学科のマグダレナ タウベ氏は言う。

 「肥満のある2型糖尿病の患者さんにとって、肥満と糖尿病が進展するのを防ぎ、がんを予防するための戦略が必要です」としている。

何が体重増加につながっているかに気付くと
ダイエットは成功しやすい

 フィンランドのヘルシンキ大学の研究によると、「体重コントロールに成功する秘訣は、自分の生活スタイルをありのままに観察し、何が体重増加を促しているかという原因を見極めること」だという。

 健康的な食生活と運動が基本であることには間違いはない。しかし、長期にわたるポピュレーション研究によると、体重コントロールを成功させるためにより重要なことは、毎日の食生活をよく観察し、肥満につながる生活スタイルを徐々に変えていく工夫を長期にわたり維持することだという。

 体重を増やしやすい要因は、不規則な食生活、高カロリーの食品の摂取、間食ダイエットの失敗経験、運動不足、生活満足度が低い、ストレスが多いなどさまざまだ。

 自分の生活スタイルを見直し、何が体重増加につながっているかに気付くことが、ダイエットの成功につながる。食事や運動の日誌などをつけるとさらに効果的だという。スマートフォンのヘルスケア・フィットネスのアプリを利用するのが効果的な場合もある。

 「体重の増減の原因が分かったら、短期間に解決しようとするのではなく、長期的な視野をもって、実現可能な範囲内で少しずつ改善していくことが成功に結びつきます」と、同大学の栄養セラピストであるウア カーキンナン氏は述べている。

Obesity is a critical risk factor for type 2 diabetes, regardless of genetics(Diabetologia 2020年4月15日)
Obesity, unfavourable lifestyle and genetic risk of type 2 diabetes: a case-cohort study(Diabetologia 2020年4月15日)
多目的コホート研究(JPHC Study) 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ
Body Mass Index and Mortality Among Middle-Aged Japanese Individuals With Diagnosed Diabetes: The Japan Public Health Center-based Prospective Study (JPHC Study)(Diabetes Research and Clinical Practice 2020年6月)
Glucose control is a key factor for reduced cancer risk in obesity and type 2 diabetes(ヨーテボリ大学 2021年12月3日)
Association of Bariatric Surgery With Cancer Incidence in Patients With Obesity and Diabetes: Long-Term Results From the Swedish Obese Subjects Study(Diabetes Care 2021年11月)
Searching for long-term suc­cess in weight management? Forget dieting and eat regularly(ヘルシンキ大学 2018年3月20日)
Successful weight maintainers among young adults--A ten-year prospective population study(Eating Behaviors 2018年4月)
Researchers call for a focus on fitness over weight loss for obesity-related health conditions(Cell Press 2021年9月20日)
Obesity treatment: Weight loss versus increasing fitness and physical activity for reducing health risks(iScience 2021年9月20日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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