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2020年12月16日

「運動を増やして、座りがちの時間は少なく」 糖尿病の人も積極的に運動を WHOの新しい「運動ガイドライン」

 世界保健機関(WHO)が、「運動・身体活動と座りがちな行動に関するWHOガイドライン」を発表した。
 新しいWHOガイドラインでは、子供・若者・成人・高齢者をターゲットに、それぞれ推奨される運動量(頻度、強度、時間)を示し、妊娠中・産後の女性、糖尿病などの慢性疾患のある人に向けても、運動の目安をはじめて示した。
すべての運動・身体活動は有益
 世界保健機関(WHO)が、「運動・身体活動と座りがちな行動に関するWHOガイドライン」(WHO Guidelines On Physical Activity And Sedentary Behaviour)を発表した。

 WHOの調査によると、成人の4人に1人、若者の5人に4人は十分な運動・身体活動を行っていない。運動不足により、世界で5.2兆円(540億米ドル)の直接医療費が失われ、1.5兆円(140億米ドル)の生産性低下が引き起こされている。

 「世界中で運動不足を解消すれば、年間で最大500万人の死を防ぐことができます」と、WHOでは強調している。

 とくに2020年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、多くの人が外出を自粛したり、ロックダウン(都市封鎖)が行われ、家に閉じこもり運動不足になっている。

 運動や身体活動を行い、体を活発に動かすことは、あらゆる年代の人にとって有益だ。すべて種類の身体活動が勧められている。

▼エレベーターよりも階段を使う、
▼外出には車よりも徒歩で行く、
▼デスクワークでは1時間ごとに休憩をとり体を動かす、
▼テレビのコマーシャルの時間には立ち上がる、
▼余暇時間にウォーキング、サイクリング、ダンスなどに取り組む、
▼休日にはガーデニングやドゥ イット ユアセルフ(DIY)の大工仕事などを行う
――といった身体活動を継続することで恩恵を得られる。
座ったまま過ごす生活スタイルは危険
 逆に、テレビの視聴時間が長いなど、座ったまま過ごすことの多い生活スタイルは、運動不足におちいりやすく、肥満やメタボ、高血圧、2型糖尿病などのリスクを高める。

 運動を習慣として続ければ、全原因の死亡リスクが低下し、心疾患、脳卒中、がんなどの予防と治療に役立つだけでなく、うつ病や不安症の症状を軽減し、認知機能の低下を軽減し、記憶を改善し、脳の健康を高めるためにも役立つ。

 高齢者では、運動をすることで筋肉が改善し、将来の介護や寝たきり予防につながり、内臓脂肪を減らすことができ、体の代謝を改善することにもつながる。
高血圧や糖尿病などの慢性疾患のある人に運動はとくに必要
より良く年齢を重ねるために、運動を続ける意義は大きい
 今回の新しいガイドラインでは、▼18~64歳の成人、▼65歳以上の高齢者、▼高血圧や2型糖尿病、がんなどの慢性疾患にある人、▼妊娠中・産後の女性などについても、運動の目安が示されている。

 子供や若者には、1日に60分の運動をすることを勧め、成人にはウォーキングなどの有酸素運動を週に150~300分以上行うことを勧めている。

 65歳以上高齢者にとって、運動は転倒を防ぎ、健康を改善し、バランスと調整を良くし、筋肉を強くするために必要になる。

 高血圧や2型糖尿病、腎臓病、がんなどの慢性疾患のある人も、必要に応じて医師などのアドバイスを得ながら、安全・効果的に運動を続けることができる。
2030年までに身体不活発を15%減少
 「活発に体を動かす生活スタイルを定着させることは、健康と幸福を実現するために必要です。良好に年齢を重ねるために、運動や身体活動を続ける意義はますます大きいといえます」と、WHO局長のテドロス アダノム氏は言う。

 「とくに2020年は、新型コロナウイルスの世界的な拡大の影響で、行動の制約を受け、運動不足におちいっている人が増えています。私たちすべてが毎日、安全で創造的に行動することを心がけるべきです」としている。

 「座りがちな行動は有害な影響をもたらします。それに対抗するために、職場でも学校でもどこでも、身体活動をより多く行う必要があります」と、WHOのヘルス プロモーション ディレクターであるリュディガー クレッチ氏は言う。

 「ガイドラインでは、体をアクティブに使うことが、私たちの体と心にとってどれだけ重要であるか、すべての年代の人にとってどれだけ役立つかを強調しています」。

 WHOは、2030年までに身体不活発を15%減少することを目標に、「身体活動に関する世界行動計画2018-2030」を推進している。

「運動・身体活動と座りがちな行動に関するWHOガイドライン」の概要

【高血圧や2型糖尿病、がんなどの慢性疾患にある人】
高血圧や2型糖尿病、がんなどの慢性疾患にある人も、ウォーキングなどの運動や身体活動を習慣として行うべき。
慢性疾患のある人は、運動をすることで、それぞれの病状の改善も期待できる。

ウォーキングなどの適度な強度の有酸素運動を週に150~300分以上、より強度の強い有酸素運動であれば週に75~150分、あるいは中強度の運動と活発な運動を組み合わせて行うことが勧められている。適度な筋力トレーニングも勧められる。

<< ポイント >>
運動の推奨量を満たすことできなくても、とにかく少しでも良いから運動や身体活動をしていた方が、何もしないでいるよりはずっと良いのです。
軽めの運動を短時間行うことからはじめて、少しずつ強度や時間を上げていくと、続けやすくなります。
ストレッチなどで準備体操やウォームアップも行い、運動後もクールダウンを行うと、ケガや疲労、筋肉痛を防げます。
高血圧のある人は、虚血性心疾患や心不全などの心血管合併症などがないか、医師などのメディカルチェックを受けることが勧められます。
糖尿病の人は運動を開始する前に、進行した合併症がないかなど、医師などによるメディカルチェックを受けることが勧められます。血糖値を下げる薬を服用している人は、低血糖について注意点がないかなど、医師にアドバイスをしてもらうことも大切です。
合併症や他の病気をもっている人にも適した運動方法はあります。医師や理学療法士に相談してみましょう。

 ウォーキングなどの運動や身体活動は、高血圧や2型糖尿病、がんなどの慢性疾患のある人にも有益だ。そうした病気のある人こそ、運動に積極的に取り組む必要がある。

 高血圧のある人が運動をすることで、血圧のコントロールや、心血管疾患、身体の機能低下を防ぐことにつながる。2型糖尿病のある人にとっては、運動は血糖コントロールの改善、心血管疾患の予防、死亡リスクの低下につながる。運動をすることで、生活の質を改善することもできる。

 がんを経験したがらんサバイバーにとっても、運動により死亡リスクの低下、がんの再発予防、生活の質の改善を期待できる。

 慢性疾患のある人は、運動を開始する前に、医師などのメディカルチェックを受けることが勧められる。安全に行える運動の強度や種類、時間、限界などを教えてもらえる。注意しなければならない点はあるかもしれないが、ほとんどの人は安全に運動を行うことが可能だ。

 座ったまま過ごす時間が長いと、健康が悪化しやすいことが知られている。全原因の死亡リスクや、心血管疾患やがんのリスクが上昇し、2型糖尿病のリスクも高くなる。メンタルヘルスにも悪い影響が出て、不眠や不安症、うつ病のリスクが上昇する。

 そうした健康リスクを少しでも減らすために、座ったまま過ごす時間なるべく減らして、運動をする時間に置き換えることが大切だ。

【成人】 18~64歳
すべての成人は、運動や身体活動を習慣として行うべき

ウォーキングなどの適度な強度の有酸素運動を週に150~300分以上、より強度の強い有酸素運動であれば週に75~150分、あるいは中強度の運動と活発な運動を組み合わせて行うことが勧められている。適度な筋力トレーニングを週に2日以上続けることも勧められる。

<< ポイント >>
運動の推奨量を満たすことできなくても、とにかく少しでも良いから運動や身体活動をしていた方が、何もしないでいるよりはずっと良いのです。
運動を開始するときは、軽めの運動を短時間行うことからはじめて、時間とともに段階的に運動の頻度や時間を増やしていくと、続けやすくなります。

 デスクワークが多く、インターネットで買い物や会議などを何でも済ませられるようになった現代ほど、座っている時間が長い時代はないかもしれない。また、仕事で毎日忙しく日々の生活に追われていると、運動を定期的に続けるのはなかなか難しい。

 座ったまま過ごす時間が長い成人は、健康が悪化しやすいことが知られている。全原因の死亡リスクや、心血管疾患やがんのリスクが上昇し、2型糖尿病のリスクも高くなる。メンタルヘルスにも悪い影響が出て、不眠や不安症、うつ病のリスクが上昇する。

 そうした健康リスクを少しでも減らすために、座ったまま過ごす時間なるべく減らして、運動をする時間に置き換えることが大切。運動や身体活動は軽いものでも良く、どんなものでも良い。

 坐ったまま過ごす時間を減らすために、以下のことを提案している――

・ エレベーターやエスカレータを使わず、階段を使う。
・ 家にはテレビのリモコンを近くに置かない。家事は立ったまま行う。
・ 1時間ごとに立ち上がり体操や運動をする。
・ 仕事のミーティングなどは、立ったまま済ます。
・ ランチの時間には10~20分ほど歩く。
・ 休憩時間に歩く。家やオフィスの周りを歩くことを習慣にする。
・ ちょっとした用事があるときは、車でなく徒歩で行く。
・ スーパーマーケットに買い物に行くときや、歩いて行ける一番遠い場所に駐車する。

【高齢者】 65歳以上
すべての高齢者は、運動や身体活動を習慣として行うべき

ウォーキングなどの適度な強度の有酸素運動を週に150~300分以上、より強度の強い有酸素運動であれば週に75~150分、あるいは中強度の運動と活発な運動を組み合わせて行うことが勧められている。
適度な筋力トレーニングを週に2日以上続けることも勧められる。

<< ポイント >>
高齢の人は、運動を開始する前に、医師などのメディカルチェックを受けることが勧められます。安全に行える運動の強度や種類、時間などを教えてもらえます。
とにかく少しでも良いから運動や身体活動をしていた方が、何もしないでいるよりはずっと良いのです。
運動を開始するときは、軽めの運動を短時間行うことからはじめて、時間とともに段階的に運動の頻度や時間を増やしていくと、続けやすくなります。

 高齢者が運動・身体活動を行うことで、全原因の死亡リスクや、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、心血管疾患、がんのそれぞれのリスクが低下する。運動をすることはストレス軽減につながり、メンタル面にも良い影響をもらたし、夜もよく眠れるようになる。

 人間の体は立つことを前提に作られており、座った状態を維持することは体にとって負担になる。座ったまま過ごす時間が長いと、背骨に負荷がかかり、肩こり、背中の痛み、座骨神経痛などが起こりやすくなる。

 また、運動により体力の低下速度や筋肉の低下を抑えられ、認知機能の改善、精力のアップにもつながる。さらに、ウォーキングなどの運動により、骨に衝撃が与えられ、骨の強度・密度が増し、骨折予防になる。

 「転倒」による損傷は命にも関わる深刻な問題で、高齢者では「寝たきり」の原因にもなる。運動は転倒を効果的に防ぐために効果的だ。転倒防止のために、適度なバランス運動や筋力トレーニングを週に2~3日以上続けることも勧められる。

 運動療法は認知症や認知能力の低下を予防するためにも効果的。運動を習慣として毎日続けて、次第に量を増やしていけば、たとえ運動の強度はそれほど高くなくとも、脳を改善し、健康に年齢を重ねられるようになることが分かっている。

WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour(世界保健機関 2020年11月25日)
Every move counts towards better health - says WHO(世界保健機関 2020年11月25日)
Physical inactivity a leading cause of disease and disability, warns WHO(世界保健機関 2020年9月21日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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