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2015年06月25日

腎障害バイオマーカーL-FABPとAKI

L-FABPが15μg/gCr以上なら造影剤腎症に注意が求められる

 基礎の話が続いたのでここからは臨床に目を向けてみる。AKIにおけるL-FABPの有用性は、我々が2008年に海外のグループと共同で報告したものが嚆矢であろう。小児人工心肺手術39症例について、手術前、術後4時間、12時間の尿を用いL-FABPとAKI発症の関連を検討したものだ。結果は、AKIを発症した群は術後4時時点で既にL-FABPがAKI非発症群より有意に高値であり(図6)、AKI診断予測能をROC解析したところAUC0.81を示した。

図6 術後AKIを来した症例のL-FABPの変動

小児心肺バイパス術後にAKIを来した患者群は、術後のL-FABPが有意に高値だった。

図6 術後AKIを来した症例のL-FABPの変動

〔Portilla D,et al.Kidney Int 73:465-472,2008〕

 ところで循環器の先生方にとってより身近な懸念はCIN(造影剤腎症)だろう。図7は新松戸中央総合病院の中村先生らの報告だが、CINを来した群は投与24時間後L-FABPが有意に高値であり、非CIN群との差は一目瞭然である。

 さらにこのデータから見逃せないことは、CIN群は検査の前日の時点で既にL-FABPが高値であり、群間に有意差があるという点である。このことから、L-FABPが10あるいは15μg/gCrを越えているような症例では、造影剤使用に際し相当注意すべきと言えるだろう。

図7 造影剤腎症を発症した症例のL-FABPの変動

造影剤腎症(CIN)を発症した群は、投与後のL-FABPが有意に高値だった。

図7 造影剤腎症を発症した症例のL-FABPの変動

〔Nakamura T,et al.Am J Kidney Dis 47(3):439-444,2006〕

L-FABPは敗血症性AKIの生命予後予測にも用いられる

 以上、腎機能マーカーとしてのL-FABPのデータを紹介してきたが、少し視点を変え他のエンドポイントでの検討にも触れてみたい。

 東大病院と新松戸中央総合病院に敗血症性AKIでICUに入室した患者145症例を前向きにエントリーし、ICU入室時のラボデータから死亡予測が可能か否かを検討してみた。多くの検査値の中から敗血症と腎機能の双方に関係の強い5項目を抽出し、図8に示す。これらの5項目に、年齢、性別、平均血圧を加え多変量解析を行ったところ、CRPやエンドトキシンなどいかにも上昇しそうなパラメータは意外にも生存と死亡を予測することができず、L-FABPのみが死亡予測可能因子であった。

 また各パラメータの死亡予測能をROC解析により比較したところ、驚いたことにL-FABPのAUCは0.994であり、ICUでの重症度評価指標として繁用されるAPACHE?(0.927)やSOFA(0.813)より高いことが示された。ICUという時間に追われる状況において、1回測定するのみで直ちに予後を予測できるL-FABPは極めて有用なマーカーと言える。

図8 敗血症性AKI患者のICU入室時点の各種パラメータと予後との関係

敗血症性AKI患者のICU入室時ラボデータのうち、敗血症と腎機能の双方に関係の強い5項目を抽出し、生存群と非生存群に分けて比較したところ、L-FABPのみが死亡予測因子だった。

図8 敗血症性AKI患者のICU入室時点の各種パラメータと予後との関係

〔Doi k,Noiri E,et al.Crit Care Med 38(10):2037-2042,2010〕

次は...AKIによるCKD発症・進展を唯一、L-FABPにより予測可能

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日本医療・健康情報研究所

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