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2012年08月10日

救急救命士の業務拡大 低血糖患者の血糖測定など

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 低血糖発作を起こした患者への血糖測定やブドウ糖投与など、国が目指す救急救命士の医療行為の範囲拡大に向け、厚生労働省研究班が今秋から全国で実証研究をはじめる。

 糖尿病の治療では、血糖降下薬(SU薬)やインスリンが使われることが多い。これらが効きすぎて血糖が下がりすぎるのが低血糖。血糖値が下がってきた時に、通常ならあらわれる発汗・手足のふるえ・空腹感・動悸などの警告症状を欠くために適切な対処がとれず、さらに血糖値が低下していきなり意識障害に至ることがある。

 こうした低血糖は早期に発見し診断し、ブドウ糖を投与すれば劇的に回復する。厳格な血糖コントロールを目指す強化インスリン療法を行っている患者が増えており、低血糖は医療機関や患者だけでなく、社会でも対処すべき問題と考えられるようになってきた。

低血糖に迅速に対処 全国39ヵ所で実証研究
 救急救命の現場では、意識障害を起こした患者について、糖尿病による低血糖発作と脳卒中などの脳血管障害を鑑別することは、迅速に医療機関に搬入し適切な治療を行うために重要となる。

 この鑑別には血糖測定が有効だが、第三者が採血することは医療行為とされるため、救急救命士は血糖測定を行うことができない。そのため、低血糖発作が疑われる患者であっても、救急隊は脳血管障害にも対応が可能な医療施設へ搬送しなければならず、結果として搬送が遅れるケースがあった。

 そこで救急救命士が、糖尿病患者の低血糖に対処できることを実証する研究が、全国39ヵ所のモデル地域で行われる。処置の効果や安全性などについて検証するのが目的。早ければ10月から開始され、来年1月末まで続けられる。

 研究に参加するのは、東京都や神戸市、北九州市など27都道府県の計39地域。救命救急センターと消防などの連携体制が整った地域に限定されている。研究班がつくった教育研修に参加した救急救命士が処置にあたる。

 具体的には、救急救命の現場で、救急救命士が医師の指示を電話や無線で受けて、血糖測定とブドウ糖溶液の投与を行う。処置を行う前に、救急救命士が、患者や家族に説明し、書面による同意を得た上で処置を実施する。

 血糖測定には、糖尿病の治療で普及している血糖自己測定器を使う。血糖自己測定器は、糖尿病患者だけでなく医学知識のほとんどない患者家族であっても、外来での短時間の練習のみで支障なく行えるとされている。

 血糖測定に必要な血液量は、直径1ミリの半球程度と少ない。救急救命で使われる採血用穿刺器具(穿刺針)は使い捨てのものに限定されており、使い回しによる感染症など人体に影響を及ぼす可能性は低い。

 救急振興財団は平成21年度に、救急に関する調査研究事業助成を受け、消防庁と医療機関が協力し、医師の指導のもと救急現場における血糖測定と低血糖発作症例に対するブドウ糖溶液の投与までを想定した救急救命士の研修プログラムを実施した。

 研修では血糖測定の手技だけでなく、講義や筆記試験も重視されている。手技自体は、研修を受けた救急救命士にとって難しいものではないとされた。糖尿病の定義から薬物療法まで専門的な知識をもつ必要があるので、研修は慎重に行われたという。

 実証研究では、救命率や患者の予後に与える効果、搬送時間の変化、合併症の有無などを分析し、今年度中に厚労省に結果を報告する。その後、国の検討会で全国的な導入の可否を判断する方針。

 研究班では「患者さんやご家族の方が、今回拡大される救急救命士による処置を断ったとしても、今までどおりの救急搬送などがなされ、不利益を受けることはありません。問診や既往歴から低血糖が疑われ、かつ測定値が提示されれば、施設で対応可能な症例が増えます。血糖値異常の誘因が重篤な場合もあるが、血糖値の補正だけでも早急に行える施設が増えれば、救急医療の大きな進歩になります」と述べている。

メモ:IDカードの携帯も忘れずに
 糖尿病患者が外出先で、周囲に自分が糖尿病であることを知っている人が誰もいないときに、低血糖で意識障害を起こすこともある。自分が糖尿病であることや氏名、自宅・病院の連絡先がわかるようなメモを携帯すると、そうしたケースに備えられる。(社)日本糖尿病協会では、専用のIDカードを発行しているので、主治医に相談しよう。

救急救命士の処置範囲に係る研究
「救急救命士の処置範囲に係る実証研究」に関する本学会における検討結果(日本救急医学会)
血糖値異常をめぐる救急搬送の実態調査および病院前医療活動拡大に向けた試み(救急振興財団)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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