日本を含む西太平洋地域の途上国で、糖尿病患者数が急増している。世界保健機関(WHO)は、この地域の感染症以外の糖尿病などの疾患で亡くなる人は全体の7割に上ると概算している。糖尿病は日本だけでなくアジアの全域で重要な課題になっている。
糖尿病をめぐるアジアの現状を報告する。
予想の2倍の糖尿病有病数
カンボジアはインドシナ半島にある、ベトナム、タイ、ラオスに接する東南アジアの国。以前は、蚊が媒介する「デング熱」「マラリア」「日本脳炎」といった感染症が医療上の脅威となっていたが、現在では2型糖尿病など生活習慣病が急増している。カンボジアで初めて実施された糖尿病の全国調査の結果が2005年に発表され、糖尿病有病数は
予想の2倍の25万人以上と推定された。これは成人人口760万の国としては驚くべき数字だ。
欧米諸国や日本のような豊かな国と違い、途上国の糖尿病患者は十分な治療を受けられない。オーストラリアを拠点に世界規模で途上国の糖尿病患者を支援する活動を展開している「
インスリン・フォー・ライフ(IFL)」の理事長であるロン ラーブ氏は、「インスリン療法を必要とするカンボジアの2型糖尿病患者は1万5000人程度とみられるが、糖尿病有病者の90%以上は検診を受けておらず、ほとんどが糖尿病と診断されていない」と話す。
「カンボジアには適切な治療を受けずに早く亡くなってしまう患者さんが大勢いる。また、1型糖尿病の子供は、ほとんどの場合で生き続けることができない」。
ロン ラーブ氏は2000年から06年まで国際糖尿病連合(IDF)の副理事長を務め、現在はインスリンや試験紙などの糖尿病の医療資材の途上国への支援を行うプロジェクトチームの委員になっている。自身が1型糖尿病患者であるラーブ氏は1999年にIFLを設立し、高価なインスリンを得られず十分な医療を行えない途上国を中心に国際的な支援活動を展開してい
る。
活動内容は、先進国で廃棄される予定のインスリンや糖尿病の医療資材を集め、途上国に送付すること。オーストラリアに本部をおき、オーストリア、ドイツ、ニュージーランド、英国、米国などに集配センターを設けた。「最小のコストで途上国の糖尿病患者さんの命を救うことができる」とラーブ氏は話
す。
アジアの糖尿病患者は肥満が少ない
カンボジアの2型糖尿病患者の特徴は、欧米のような裕福な国と異なる。欧米では過体重や肥満が増加し、糖尿病の要因になっているが、カンボジアでは肥満の人は少ない。カンボジアの2型糖尿病の人のうち過体重のみられるのはおよそ半数で、5人に1人は低体重。カンボジアを含め多くのアジア系の人ではインスリン分泌能が低い傾向がみられ、少し太っただけでも2型糖尿病を発症しやすいのが特徴となる。
カンボジアでは、インスリンを含む糖尿病の医薬品、その他の医療資材の供給を、政府の医療保険や補助金で支援する体制はできていない。糖尿病患者は自費で診療を受けなければならない。政府の医療に対する支援の多くは、エイズなどの感染症に費やされ、糖尿病などの慢性疾患はおろそかになりがちだ。
ロン ラーブ氏は「糖尿病は、薬物療法を含むさまざまな治療を行えば、健康の人と同じように生きられる病気だが、そのためには医療費が必要となる。カンボジアの貧しい人々は糖尿病についての適切な知識ももっておらず、効果のない民間療法を頼り、わずかな資産を費やしてしまう例も多い」と話す。
1人1日当たり2米ドル(約190円)未満の医療費があれば、カンボジア人のほとんどが最小限の医療を受けることができるが、実際には糖尿病の医療体制の整備はようやく着手されはじめた段階だ。カンボジア政府は最近になり糖尿病対策に乗りだしたが、現状では患者は公立病院や保健所で糖尿病の治療を受けることができない。
非政府系のクリニックがいくつか開設され、糖尿病専門のクリニックもある。プノンペンのシアヌーク病院ホープ医療センターでは、外来診療と入院診療を受けることができ、糖尿病腎症や心血管疾患といった糖尿病合併症の長期的な医療も提供しているが、それは緊急の場合が多い。多くの患者は、外来で2ヵ月や3ヵ月ごとに糖尿病の治療を受けている。世界糖尿病財団は5つの州で、地域の基幹となる糖尿病クリニックを支援してい
る。
日本の「
国際糖尿病支援基金」はIFLやインドのドリームトラストなど、糖尿病患者を支援するために国際的に活動する組織を支援している。広く募金や支援を募っている。
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所