ニュース

2008年09月29日

膵臓細胞からβ細胞の再生に成功 1型糖尿病の根治に期待

キーワード
医療の進歩
 膵臓でインスリンをつくるβ細胞を、膵臓の外分泌細胞から生成するのに成功したと発表された。
 さまざまな細胞に分化できる胚性幹細胞を使ったり、細胞の遺伝的プログラミングをやりなおす再生医療の方法に依存せずに、治療に役立つ細胞を作製したとしている。将来の糖尿病治療への応用が期待される。

 この研究は、米ハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)の研究チームによるマウスを使った動物実験の成果で、科学誌「ネイチャー」のオンライン版に8月27日付けで発表された。

 膵臓には消化液を生産する外分泌細胞と、インスリンを生産するβ細胞がある。なんらかの原因でβ細胞が死滅したり機能が低下すると、1型糖尿病を発症する。HHMIの研究者でハーバード大学幹細胞研究所を率いるダグラス メルトン教授らは、膵臓で働く遺伝子のうち、β細胞の生成にかかわるとみられる遺伝子に着目した。9つの遺伝子のうちの3つをウイルスの転写因子と組み合わせ、糖尿病のマウスの膵臓の外分泌細胞に注入した。

 すると、外分泌腺細胞のおよそ20%がインスリンを生産するβ細胞に変化し、血糖値も半分以下に下がった。あらたに生成したβ細胞は、見た目も遺伝子レベルでも通常のβ細胞とよく似ていたという。メルトン教授は「成体の1つのタイプの細胞から別のタイプの細胞を直接つくりだしたということです」と説明している。「細胞のはじまりに戻らないで実現したことは、いってみれば、幼稚園に戻ることなしに科学者を弁護士に変えるのに成功したようなものです」。

 膵臓のβ細胞をあらたに生成する治療法の開発が世界で進められている。日本では山中伸弥・京都大学再生医科学研究所教授らが、さまざまな細胞に分化する能力をもつ万能細胞と呼ばれる「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」をつくりだすのに成功している。山中教授はヒトの皮膚などの体細胞から、まず4つの遺伝子を使ってiPS細胞をつくった。

 細胞に複数の遺伝子を入れることで別の細胞に変換する点では共通しているが、メルトン教授らの研究は膵臓の95%を占めるという外分泌細胞からβ細胞を直接つくった点が画期的で、今後はウイルスを使わないより安全な方法を開発し臨床応用につなげることが期待されている。

成体の膵臓細胞からインスリンを分泌する細胞を生成(ハワード・ヒューズ医学研究所、英文)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲