糖尿病セミナー

19. 糖尿病の検査

2014年4月 改訂

血糖コントロールに関する検査

 糖尿病の治療は、血糖値の管理がすべての基本で最も重要です。血糖コントロール状態をより正確に把握するための、さまざまな検査があります。ひとつずつ具体的にみていきましょう。検査の基準値などはにまとめました。

尿糖検査

 まずは尿糖検査です。血液中のブドウ糖は多過ぎると尿に排泄されますから、尿を検査することで血糖の状態を間接的に知ることができます。
 ブドウ糖は体にとって大切な栄養分ですから、健康な人の場合、尿に糖があらわれることはありません。しかし、糖尿病になると血液中に使われずにいるブドウ糖が多くなり、その分が尿糖として排泄されるのです。
 尿糖検査は市販の試験紙を使って、だれでも手軽に測れるので、一番身近な検査となっています。ただ、尿糖は通常、血糖値が約170mg/dL 以上にならないと検出されません。空腹時には糖尿病でも170 mg/dL 未満になっていることがあり、とくに高齢者の場合は腎機能の低下で、170mg/dL よりさらに高くなっても尿糖が出ないケースもあります。
 このため尿糖が出ていないことだけで、糖尿病がよくなったとか、血糖コントロールがうまくできている、などの判断はできません。

表 血糖コントロールに関する主な検査


*1:適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合の目標
*2:低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しい場合の目標
*3:心臓や脳などの血管の病気があり、低血糖傾向がある血液透析患者さんは24.0未満が目標
:その他、尿糖や尿ケトン体は陰性、1,5-AGは14μg/mL以上が基準値
〔日本糖尿病学会「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013」他より一部改編〕

血糖検査

 採血して血糖値を測る、糖尿病の検査の基本です。

わかるのは血糖の瞬間値

 血糖検査でわかるのは、検査をした時点での血糖値です。この後で解説する HbA1cなどが、ある一定期間の血糖コントロール状態を反映するのに対し、血糖値は血糖レベルの瞬間値といえます。血糖値は食事や運動、ストレスなどによって大きく変動します。理想的な血糖コントロールとは、できるだけ健康な人と同じ血糖変動に近づけることです。

血糖自己測定が効果的です

 血糖値は病院に行かなくても、簡易型の測定器を使えば自分で測定できます。食事や運動の影響が一目瞭然にわかりますし、体調を崩して血糖値が乱れやすいときに対処方法を判断する目安として使えます。
 なお、血糖自己測定には測定器本体のほかに、試験紙(センサー)や穿刺針などを使います。インスリン療法等の自己注射をしている患者さんの場合、医師が指示した測定回数に応じて、これらが保険で給付されます。自己注射をしていない患者さんは、医療機関によっては病状がよくない場合に年に一度、保険が適用されます。なお、より良い血糖コントロールのために、費用自己負担で血糖自己測定をしている患者さんもいます。いつ、どのように測り治療に生かすか、医師と相談してください。

HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)検査

 血糖コントロールの善し悪しを判断する指標として、最も注目される検査です。

ヘモグロビンとは

 ヘモグロビンは赤血球内のタンパク質の一種で、酸素と結合し全身の細胞に酸素を送る働きをしています。血糖値が高いと、血液中のブドウ糖がヘモグロビンに結合し、グリコヘモグロビン(HbA1c)というものにかわります。
 ヘモグロビンをクロマトグラフィーで調べると、AI(A1)、AII(A0)に分かれ、このうちA1はa、b、c、d、eに分かれます。ブドウ糖が結合するのはA1cの部分です。
 HbA1c検査は、ヘモグロビンのうちグリコヘモグロビンに変わっているのがどのくらいあるか、その割合を調べる検査です。

過去1〜2カ月のコントロール指標です

 グリコヘモグロビンは一度できるとその赤血球が死ぬまで消滅しません。そして赤血球は約4カ月の寿命ですから、HbA1c検査はその平均年齢ともいえる、過去1〜2カ月間の血糖コントロール状態を反映したものとなります。
 病院の検査で糖尿病が悪くなっているといわれるのがいやで、検査前の数日間だけ食事療法を一生懸命やる人がいますが、それは HbA1c検査ですぐにばれてしまいます。

HbA1c検査が重要な理由

 HbA1c検査は血糖コントロールに関する検査の中で、一番長い間のコントロール状態をあらわす指標です。糖尿病は高血糖状態が続くことで起きる合併症が怖い病気ですから、長期間のコントロール状態がわかるということは、治療上、非常に大きな意味をもっています。
 アメリカで行われた調査研究では、HbA1cが1割下がると(例:10%→9%)合併症の一つである網膜症が悪くなる危険が40%以上減るとのことです。HbA1c1%の違いが合併症の進行を大きく左右することがわかります。

HbA1c7.0%未満を目標に

 このように、HbA1cは糖尿病治療の重要な情報源です。糖尿病といわれたら定期的にこの検査を受け、より良い血糖コントロールを続けましょう。目標は、HbA1c7.0%未満です(参照)。

グリコアルブミン検査

 血液中のタンパク質の主要成分のアルブミンが、どのくらいの割合でブドウ糖と結合しているかを調べる検査です。グリコアルブミンの基準値は11〜16%で、これより高ければ、血糖値が高い状態が続いているということです。
 グリコアルブミン値は、タンパク質の寿命から過去約2〜3週間のコントロールをあらわす指標となります。HbA1c検査では把握できない、比較的短期間の血糖の変化をとらえることができますので、例えば低血糖、高血糖を繰り返しやすい人がコントロールの指標にしたり、薬物療法を始める際に薬の効き具合を確かめたりするときに役立ちます。
 また、HbA1cが誤差を生じやすい妊娠中や血液透析をされている患者さんでは、グリコアルブミンを目安にコントロールします。

1,5-AG検査

 1,5-アンヒドログルシトール検査、1,5-AGといわれる検査です。健康ならほぼ一定の値を示し、尿糖の排泄に影響され減少するため、血糖コントロールの検査の中で唯一、値が高いほうがよい検査です。
 血糖コントロールに対しては、グリコアルブミンよりさらに敏感に反応し、それでいて血糖値のように食事や運動には影響されない、過去数日間の指標となります。ですから旅行や宴会シーズンなどの、短期間のコントロールの悪化も見逃しません。また、食事療法や運動療法の効果もすぐに結果にあらわれます。
 1,5-AGは、比較的軽度の高血糖に、より敏感に反応するという特徴があります。なお、尿糖を増やして血糖値を下げる薬(SGLT2阻害薬)を服用している場合、尿糖排泄とともに1,5-AGも低下するので、血糖コントロール状態の把握に適しません。
自分でできる検査もあります
 糖尿病は自己管理が大切な病気です。そのため、病院に行かないときも自分でできる検査を積極的に行えば、よりコントロールがしやすくなります。尿検査では、市販の試験紙を使い、尿糖、ケトン体を手軽に調べられます。簡易型血糖測定器を用いて血糖自己測定も可能です。最も簡単なところでは、体重測定が太り過ぎを防止する意味で役立ちます。
 そして大切なのは、自分で行った検査の結果を記録し、主治医の先生に伝えることです。もちろん病院でも詳しい検査をしますが、日常生活の中で得られる検査値は、医師が治療方法を判断するのに大変参考になる情報なのです。検査値の記録には、日本糖尿病協会発行の糖尿病連携手帳※1や自己管理ノート※2が便利です。

※1 糖尿病連携手帳 血糖値や HbA1c、コレステロール値などの検査結果を表形式で記入でき、療養の経過記録に役立ちます。
※2 自己管理ノート 血糖自己測定(SMBG)の結果を記録するノートです。複写式になっていて、1枚を主治医に渡しコントロール経過を伝えることができます。

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