糖尿病セミナー
18. 糖尿病による神経障害
2011年8月 改訂
監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生
編集
中部ろうさい病院名誉院長 堀田 饒 先生
神経障害とは
神経障害は、腎症、網膜症と並び、高血糖状態が続くことにより起こる糖尿病の三大合併症のひとつです。神経障害の症状は、手足のしびれや痛み、感覚の鈍麻、下痢や便秘を繰り返す、立ちくらみ、味覚が鈍くなる、発汗異常、尿が勢いよくでない、勃起障害など、実にさまざまな形で全身にあらわれます。また、腎症や網膜症が自覚症状のないまま5年、10年と経過し病状がかなり悪化してから気付くことが多いのに比べて、神経障害は手足のしびれなどの自覚症状がごく初期の段階からあらわれてきます。
腎症や網膜症は、人工透析の導入や失明につながり、快適な日常生活を妨げる重大な合併症ですが、神経障害も放置すると服が着られない、シャワーを浴びることができないほどの激痛に進展したり、逆に神経が麻痺したり、足の壊疽や突然死の原因にもなります。症状がしびれや痛み程度だと思って安易な判断をせず、十分に知識をもっていることが必要です。
神経障害は、初期のうちは血糖を厳格にコントロールすることで改善させることが可能です。改善には1年以上かかることもありますが、希望をもって療養を続けましょう。
どうして神経が侵されるのか
(1) 神経のはたらき
それでは、糖尿病では神経のどの部分が障害されるのでしょうか。神経は脳が発する命令を伝えたり、あるいは脳へ情報を送ったりする役目をもっています。大きく分けて、脳、脊髄からなる中枢神経と、そこから枝分かれしてからだの隅々まで張り巡らされている末梢神経がありますが、糖尿病で侵されるのは、より細いつくりの末梢神経のほうです。
末梢神経には感覚神経、運動神経、自律神経があり、それぞれ、冷たい、熱い、痛いなどを感じとる、手足を動かす、話す、内臓の働きや発汗、体温などを無意識のうちに調節する、などの役割を担っています。神経障害があると、これらのコントロールがスムーズにできなくなり、何も触れていないのに痛みを感じる、逆に痛みを感じない、細部の筋肉が動かない、心拍のリズムに変動がなくなったり、胃腸の動きが弱くなるといったことが起きてくるのです。
(2) 高血糖が神経細胞に与えるダメージ
糖尿病による高血糖が続くと、体内の余分なブドウ糖のために細胞の活動メカニズムが狂い、神経細胞の中にソルビトールという物質が蓄積され(ポリオール代謝異常)、やがて神経が障害されてしまいます。さらに、高血糖により細い血管(細小血管)の血流が悪くなり、神経細胞が必要としている酸素や栄養が行きわたらなくなることからも神経障害は起きてきます。
このほか、糖尿病で神経障害が起きる原因としては、神経栄養因子の問題、遺伝的素因などが関連していると考えられています。
コンテンツのトップへ戻る ▶
糖尿病3分間ラーニング 関連動画
糖尿病3分間ラーニングは、糖尿病患者さんがマスターしておきたい糖尿病の知識を、 テーマ別に約3分にまとめた新しいタイプの糖尿病学習用動画です。
- 01. 糖尿病とは「基礎編」
- 02. 食事療法のコツ(1) 基礎
- 03. 運動療法のコツ(1) 基礎
- 04. 高齢者の糖尿病
- 05. インスリン療法(2型糖尿病)
- 06. 血糖自己測定とは
- 06_1. 生活の中にどう生かす血糖自己測定 『生活エンジョイ物語』より
- 07. 肥満と糖尿病
- 08. 小児の糖尿病(1) 基礎
- 09. 薬物療法(経口薬)
- 10. 糖尿病生活Q&A
- 11. 糖尿病用語辞典(より簡潔に)
- 12. 病気になった時の対策 シックデイ・ルール
- 13. 結婚から、妊娠・出産
- 14. 糖尿病による腎臓の病気
- 15. 糖尿病による失明・網膜症
- 15_1. 眼科医からみた失明しないためのアドバイス 『生活エンジョイ物語』より
- 16. 糖尿病と脳梗塞・心筋梗塞
- 17. 足の手入れ
- 18. 糖尿病による神経障害
- 18_1. 糖尿病からの危険信号神経障害 『生活エンジョイ物語』より
- 19. 糖尿病の検査
- 20. 低血糖
- 21. 食事療法のコツ(2) 外食
- 22. 糖尿病の人の性
- 23. 口の中の健康
- 24. 動脈硬化と糖尿病 メタボリック シンドローム(代謝症候群)
- 25. 糖尿病と感染症
- 26. 食事療法のコツ(3) 腎症のある人の食事
- 27. 糖尿病と高血圧
- 28. 小児の糖尿病(2) 日常生活Q&A
- 29. 運動療法のコツ(2) 合併症のある人の運動
- 30. 骨を丈夫に保つには
- 31. 痛風・高尿酸血症と糖尿病
- 32. 糖尿病予備群
- 33. 小児2型糖尿病
- 34. 糖尿病とストレス うつとの関連、QOLの障害