糖尿病セミナー

18. 糖尿病による神経障害

2011年8月 改訂

検査と治療

(1) 症状に応じた検査が必要です

 神経障害にならないようにするには予防が一番です。そのために定期的に検査を受けることが大切です。また、具体的な症状があらわれた場合、その症状が本当に神経障害によるものなのか、あるいは別の病気によるものなのかを確定するため、詳しい検査を受けることになります。
 神経障害の検査で手軽にできるものとしては、膝やアキレス腱の反射をみる方法があります。これは神経による刺激の伝達能力を確かめるためのものです。そのほか、機械を使って神経伝導速度を測ったり、あるいは心臓の動きに異常がないか確かめるため心電図をとったり、膀胱機能をみるために超音波診断装置で残尿を測定したりと、障害が出る可能性のある多くの項目について検査を受ける必要があります。

(2) 血糖コントロールの改善が第一

 神経障害が起きていると診断されたらどのような治療法があるのでしょう。
 神経障害の治療の基本は、神経細胞内に蓄積したソルビトールを取り除くこと、血液の流れをよくして神経細胞へ酸素や栄養が行くようにすることのふたつです。そのためには、血糖コントロールを改善することが第一となります。コントロールを厳格にすれば重症でない限り、神経障害は改善します。

(3) 薬物療法

 血糖コントロールに加え、神経障害に対する薬物療法が行われます。神経障害を起こしている原因を取り除く薬には、ソルビトールが細胞内に溜まって(ポリオール代謝異常)神経細胞の働きが損われるのを防ぐ アルドース還元酵素阻害薬(ari)とか、神経細胞に栄養や酸素を運んでいる血管の血液の流れをよくする薬があります。
 このほかそれぞれの症状の改善を目的に、病状に応じて鎮痛薬や抗うつ薬、血圧を上げる薬、胃腸の活動を整える薬などが用いられます。

(4) 治療を受ける際に

 神経障害ではさまざまな症状があらわれますので、症状に応じてその分野の専門医のもとでの治療も必要になります。主治医の先生と相談して、それぞれの症状に合った治療を早めに受けるようにしましょう。
 また、神経障害の治療では、血糖コントロールを改善する段階で痛みが悪化することがあります。治療後神経障害といわれるものですが、この詳しい理由はまだわかっていません。神経の働きが復活することで、それまで感じていなかった痛みを感じるようになることも一因と考えられています。
 治療の過程で一時的に症状が悪化することもある点を理解し、痛みがひどくなったからと一方的に治療を中断することのないようにしましょう。反対に、神経障害が進行して痛みを感じなくなったのを、治ったものと勘違いすることもありますので注意しましょう。

病気について、よく理解しましょう

 神経障害があると前記の表のにように、さまざまな症状があらわれます。しかし、このような症状があったとしても、糖尿病による神経障害ではないこともあります。
 女性では更年期障害の症状と似たものも多くありますし、神経障害による痛みだと思っていたのが実は癌であったり、あるいは骨の病気だったりします。反対に神経障害に気付かず、痛みを年のせいだと思い込み、市販の鎮痛剤を用い続け、神経障害そのものを悪化させてしまうこともあるので気をつけましょう。
 このように、神経障害はいろいろな要因が複雑に関連してくる病気です。糖尿病と神経障害の関連をよく理解し、日頃の血糖コントロールを良好に維持するように励むことが大事です。同時に、症状を早めにみつけて適切な検査・治療を受けるように心掛けましょう。

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