糖尿病と妊娠

2011年07月07日

奇形は予防できる

インスリン発見以前は

 インスリンが発見されて不可能が可能になってから90年、非常に使いやすく便利な超速効型インスリンが出来て15年、日本で使えるようになって10年が経ちました。不可能が可能にという意味は、インスリンの無かった時代、糖尿病があって生き延びて妊娠することはあっても、妊娠によって母体は結核その他の感染症が悪化し糖尿病昏睡に陥り、胎児は子宮内死亡となり、母兒共に命を失う不幸に見舞われていました。

インスリン発見によって

 インスリンの発見、インスリン製剤の改良進歩のお陰で、今は糖尿病があっても血糖コントロールが良ければ、糖尿病の無い人と同じように妊娠出産が可能になったのです。

 しかし、お母さんの糖尿病がきちんとコントロールされていないと、また母親に腎症や網膜症があると妊娠によってその合併症は著しく悪くなるばかりでなく、胎児にも影響があります。

血糖コントロールが悪いと

 母親の血糖コントロールが悪く、例えばグルコヘモグロビンが7%を超えているような場合、赤ちゃんが直接影響を受けておきる合併症は、生まれた時、低血糖や呼吸障害、低カルシウム血症、黄疸、多血症、巨大児、奇形、といったものがあります。

 奇形と巨大兒を除くほかの合併症は,妊娠中の母体のコントロールを、血糖正常化に保つことによって解消することが出来るようになりました。

 残された大きな問題は奇形で、ついで巨大兒を減少させることであるといわれています。

本人や家族のために奇形は避けたい

 奇形児が生まれると本人のみならず、家族を含めて皆さんに大きな悲嘆をもたらします。そればかりか1970年代までは奇形を持つ赤ちゃんは、死亡率が高く新生児死亡の大きな原因となっていました。

 医療を行うものとしては、糖尿病があるだけでも負担を感じているのに、お子さんの奇形で負担がより大きくなることは、なんとしても避けてあげるべきだと思うばかりです。

奇形は妊娠7週までに決まる

 現在奇形に関する研究はかなり進んでいます。妊娠してから血糖コントロールを良くしても奇形をなくすことが出来なかった理由が分かりました。

 アメリカ糖尿病学会から出版している医師向けの月刊誌に「Diabetes 」(糖尿病)という有名な雑誌がありますが、ミルス先生は1979年に、奇形の研究の結果として「糖尿病母体から生まれる子供の奇形は妊娠7週前に決定されている」という論文を発表しています。つまり糖尿病の母親から生まれる兒の奇形は、受胎してから7週前を器官形成期といって、手足や、内蔵などの出来上がる時期に血糖値が高いと発生するのです。

奇形の研究も進んでいる

 多くの研究者達の努力によって奇形の原因は、難しい医学用語ですから理解は難しいかもしれませんが、「ポリオール経路の活性化」と説明されています。

 ポリオール経路とは、通常食物として食べた栄養素がブドウ糖になって細胞の中に入り、エネルギーとして使われる過程の代謝のひとつですが、血糖が高いと活性化して異常状態になりソルビトールという還元糖質を蓄積するようになります。そして、ミオイノシトールという物質が少なくなるとか、フリーラジカルが出来すぎることなどがあって、赤ちゃんの正常細胞の発育が障害され奇形が形成されると説明されているわけです。

妊娠前から血糖コントロールを守る

 7月3日日曜日の毎日新聞朝刊に出ていた健康記事の中に「人の体は細胞によって構成されています。人が活動をするためには細胞がきちんと保たれていなくてはなりません。此のためには食う、寝る、出す、が順調でなければなりません」と書かれていました。

 胎児の細胞が正常に発育するためには母親の血糖が高すぎてはいけないのです。受胎して7週目というと、女性はやっとご自分が妊娠していることに気づく時期ですから、奇形を予防するためには、妊娠前から血糖コントロールをきちんと守っておくことが大切です。

計画妊娠をしましょう

 奇形の仕組みを解説したので話が難しくなったかもしれませんが、要は計画妊娠をすることによって奇形は予防出来る、ということです。

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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