糖尿病と妊娠
2011年06月24日
糖尿病女性の妊娠に関する不安
まだ大きな爪痕を残している東日本大震災の被災者の皆様、お亡くなりになった方々に心からなるお見舞とお悔やみを申し上げます。
看護師さん向けの本ですが
今年の始め頃、ある大学の看護学部教職の方から糖尿病患者さんの妊娠に関する本を執筆したので校閲して頂きたいという依頼を受けました。
その著作原稿は患者さん用のものではなく、直接医療・介護に当たる看護師達がどのような支援を行うべきかを主題にしたもので、その上糖尿病に関する細かい生理学から、妊娠と糖尿病の生理など優しく書かれているので、患者さんが読まれてもとてもためになるのではないかと思われました。
理論に誤りがないか、常識を逸していないかなど、チェックしてあげながら私自身にもとてもためになりました。
不安になりやすいはじめての妊娠
それは糖尿病を持つ患者さんが思いもよらないほどいろいろの不安を抱えていることを知ったからです。糖尿病を持っていなくても妊娠は不安いっぱいなものです。ましてや妊娠が初めての体験では、食べ物一つにしても、「子供に悪い影響があるのではないか」「もっと食べるべきか、控えた方が良いか」など私自身医者でありながら、とても不安に苛なまされたことを思い出しました。糖尿病患者さんは、糖尿病を持つ分だけ不安が倍加されていることも強く再認識させられました。
相談しやすい看護師さん
この教職スタッフの方達は若い1型糖尿病の患者さん達と語り合い、議論し合える会合やシンポジウムなどを何回も設けて患者さんが妊娠に関してどんな不安を持ち、医療者に何を求め、何が問題なのかをしっかり把握していることも判りました。
不安は個人や個人の家庭、またそれを取り巻く環境によって各々異なるので、気軽に相談できるための医療者の関わり方や、相談し易い窓口の設置が必要であろうというような提言まで書かれていました。
患者さん個人にもいろいろのタイプの方がいますので、一様にはいえませんが、病院の中で一番良く話を聞いてもらえて、相談し易いのは、看護師だといわれています。従って、看護師の経験、知識、学習も大変重要な意義を持ってきます。
血糖コントロールと計画妊娠を
しかし、妊娠に限らず何事をするにも不安の伴わない日常行動はあり得ないものです。
私は糖尿病患者さんの妊娠に関する最大の不安は「奇形」の問題ではないかと思っています。妊娠をする前には常にHbA1cを7%以下に抑え、妊娠中は正常域の5%台のコントロールを保つことが、一つの不安解消の鍵になります。もう一つ計画妊娠を実施することは不安を和らげる大きな力になります。
計画妊娠とは、網膜症や腎症がないか合併症のチェックを受け、兒の奇形を予防するために血糖コントロールを良くした上で、主治医から「妊娠してよし」という許可を得てから妊娠することです。
糖尿病のある若い女性の方へ
病院牧師チャプレン斉藤武先生は講演会で次のようなことを紹介しています。
1975年、ジョンズ・ホプキンス大学医学部のジェローム・フランク先生は卒業していく若い医師たちに「どんな病気の治療でも、それがその人の魂まで手当するのでなければ、はなはだ不完全である」と述べたということです。患者さんの不安を理解し、出来る限り支援しようとする看護師の方々の行為もまさにこのジェローム・フランク先生の哲学を具現しようとするものです。
このように素敵な看護師や医師は沢山います。患者の皆様、どうか良い医療をうけてください。
※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。
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