私の糖尿病50年-糖尿病医療の歩み

26.糖尿病と肥満

1. 理想体重と標準体重
 1960年以前は欧米では理想体重という言葉が用いられていた。現実にはどれが理想か決めようがないこと、また米国は民族が多様で大柄の人や華奢な人もいるので当時引用されたメトロポリタン生命保険会社の体重表はlarge frame, medium frame, small frameの3つに分けて身長はフィート、体重はポンドで示されていた。わが国では理想体重より標準体重という言葉が用いられ、一部では生命保険会社で使用していた体重表が用いられていた。
 筆者らは標準体重を求める1つの方法として胃集団検診を行っていた長谷川昭衛博士、五味朝男博士に受検者の身長、体重計測値を利用させていただいた。図1はその体重と身長をプロットした図で、身長を1cm刻みにして体重の平均値を求めたのが図2である。

図1 胃集団検診受検者の身長・体重の分布
    (30歳以上男性)
  
図2 図1で身長1cm毎に体重の平均値を
    求めその分布を示したもの


 図2をみるとy=ax+bの式になりそうなので、生命保険の体重表からそれを求めてみた。2歳から2歳刻みに求めたが表1には20歳以後の式を記した。この式で得られる体重は現在からすればわずかに少ないのではないかと思われる。これらの式から体重を求めてみると、31〜35歳の165cmの男性では59.35kg(BMI 21.8)、155cmの女性では52.2kg(21.7)、56〜60歳の165cm男性では60.2kg(22.1)、155cmの女性では54.6kg(22.7)という体重が得られる(当時BMIという指標はなかったが得られた数値のBMIを求め括弧内に示した)。

表1 標準体重を求める式
年齢
男性
女性
20
0.59x-38
0.44x-17
21〜25
0.58x-37
0.44x-16
26〜30
0.59x-38
0.44x-16
31〜35
0.59x-38
0.44x-16
36〜40
0.60x-39
0.44x-16
41〜45
0.61x-41
0.45x-17
46〜50
0.63x-43
0.47x-20
51〜55
0.65x-47
0.49x-24
56〜60
0.68x-52
0.52x-26
2. 体重が20%オーバーならやせと思う人はいない
 このようにして標準体重表を作り、これをもとに体重指数を求めた。さて体重がどれ位になると「肥っている」「やせている」と思うようになるか、これを知るために入院および外来患者について、現在自分はやせていると思うか、肥っていると思うか、あるいは普通と思うかなど5段階に分けて487名に質問し本人の体重指数とを比較してみた。その結果は表2のように、体重指数0.9以下でも肥っていると思っている人もいるが、1.20以上になるとすべて肥っていると思っている。したがって20%以上重い場合には肥満といえる。

表2 肥満およびやせ感と体重指数の関係 (487例)
0.70
以下
0.71
〜0.80
0.81
〜0.90
0.91
〜1.00
1.01
〜1.10
1.11
〜1.20
12.0
以上
肥っている
 
 
 
1
11
11
17
やや肥っている
 
 
3
28
28
18
1
普通
 
 
31
90
47
4
 
やややせている
2
12
79
43
2
 
 
やせている
6
19
33
1
 
 
 

表3 糖尿病者の体重 (男 268名)
初診空腹時血糖
140mg%以下   141〜200   200〜300   300以上
(150名)    (73名)   (39名)   (6名)
現在の体重指数
1.06±0.01    1.09±0.02    1.07±0.03    0.90±0.01
最大体重指数
1.19±0.03    1.25±0.02    1.28±0.04    1.08±0.04
最大体重時より
糖尿病発見までの期間(年)
  13±1      14±2       12±2       15±6
この期間の体重の差(kg)
  7±1       11±1       13±1       12±1
3. 体重が10kg減少して糖尿病に気づく
 糖尿病の人達に既往最大体重とそのときの年齢を聞いてみると表3のような結果であった。この調査は健診も行われていなかった1961年に行われたものである。この表をみると、血糖値が高い人達ほど最大体重からの減少が大きいことがわかる。当時は血糖検査の機会もなく、糖尿病が進行して多尿、多飲、多食となり体重が減少し三多一少の高血糖症状が顕著になり、だるい、疲れやすいなどの症状があって受診する人が大部分であった。現在のように無症状、軽症のうちに健診で発見される人はなく、自然経過で症状を訴えて医療機関を訪れたわけである。これらから見ると、最大体重になってから糖尿病がはじまり、やせはじめ、およそ10kg減少した頃に異常を自覚する例が多いということができる。
 来院時の体重と既往最大体重指数との関係をみると図3のようになる。来院時には体重が減少しているのが明瞭に現れている。

図3 糖尿病者の既往最大体重時ならびに初診時の体重分布
4. 肥満と代謝
 1969年に日本糖尿病学会で「肥満者の糖尿病」というシンポジウムが開かれわれわれも参加した。体重別にブドウ糖負荷試験をやると図4のように肥満しているほど2時間値が高く、またインスリン分泌が多いことなどがわかった。

図4 体重別にみた100gGTT時の血糖、血漿 IRI、FFAの変化
%はGTTが糖尿病型のものの頻度を示す
5. りんご型と洋梨型
 フランスのJ. Vagueは1950年代から、肥満してもすべて糖尿病になるのではなく、糖尿病や粥状動脈硬化症になりやすいのは上体部の肥満であることを指摘している。図5はVagueの著書の図であり男性肥満、女性肥満としている。わが国ではりんご型肥満、洋梨型肥満と言うのがポピュラーである。近年になり脂肪細胞からTNFαなどが放出されて高血糖になることや、肥満を是正する目的であるかのようにレプチンはじめ多くの物質が放出されていることが見出されている。

図5 糖尿病になりにくい女性型肥満(左)となりやすい男性型肥満(右)
J. Vagueによる
6. 肥満人口の爆発
 現在わが国も含め全世界で肥満が急増している。わが国の男性の20歳以後のBMIの変化を生まれた年代別にみると図6のように、後から生まれた人ほど肥りやすくなっている。このために糖尿病も急増し、そしてやがて各種の動脈硬化性疾患や高血糖による失明、腎透析者の増加が予測される。現代人は肥満しないように知恵をしぼることが求められている。

図6 出生時の年代別にみた成人後の肥満度の変化(後藤原図)
厚生省「国民栄養調査」により公表される性、年齢階級別平均身長、体重を用いて、20歳、30〜39歳(30歳代、以下同じ)、40〜49歳、50〜59歳、60〜69歳のBMIを計算した。1920年代生まれの場合は、20歳のBMIは1947〜49年の3年の平均、30歳代のものは1950〜59年の10年の平均(ほぼ全例が1920年代生まれとなるのは1959年のみで、他は1910年代や1930年代生まれの数値も混入している)、40歳代は1960〜69年の平均、50歳代は1970〜79年の平均、60歳代は1980〜89年の数値の平均値で示した。1930年代生まれなど各年代についてもこれに準じて平均値を求め作図した。

(2005年02月03日更新)

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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