夏の暑さが本格化している。日中は35℃、夜間でも25℃を超えることが珍しくなくなった日本の夏。ウォーキングなどの運動を中断しようと考える人も少なくないだろう。暑い日に安全に運動をするためのポイントをまとめた。
暑さ対策をすれば運動を続けられる
「運動は継続することが大切です。1年を通じて活発に体を動かすことは、あなたの体と心にとって有益です」と、米バージニア大学の教育大学院運動学部のアーサー ウェルトマン教授は言う。
「しかし、最高気温が30℃を超える日には、簡単な予防措置を講じることを忘れないでください。夏に増える熱中症はひどい場合は生命に関わる疾患です。大量の汗をかき、体内からわずか2%の水分が失われただけで、あなたのパフォーマンスに悪影響が出てきます」としている。
「運動の前後の水分補給に加えて、1日を通してこまめに水分補給することも大切です。水やお茶を飲み、食事もしっかりとり、睡眠などの休養の不足がないよう調整することが大切です」。
これまで運動をする習慣がなく、とくに高血圧や糖尿病、腎臓病などのある人は、運動を始める前に主治医に相談し、どのような運動が勧められるかアドバイスをもらうことも勧められるという。
ウェルトマン教授は、暑い日に安全に運動するために、次のことをアドバイスしている。
■ 暑いときは水分補給が欠かせない
汗は体から熱を奪い、体温が上昇しすぎるのを防いでくれる。しかし、失われた水分を補わないと脱水になり、体温調節能力や運動能力が低下する。そのため暑いときにはこまめな水分補給が必要となる。
水分の摂り方としては、基本的には出た分を補うことが良いが、実際に運動中にその量を完全に補うことは難しい。汗をかいていてないと感じる場合でも、適切に水分補給をすることが大切だ。
まず運動をする20〜30分前ぐらいにコップ1杯程度の水分を補給し、あとは、運動中もコップ半分ぐらいの水分を補給する。
■ 運動の前後に体重をはかる
運動前後に体重をはかることで、失われた水分量を知ることができる。水分補給量の目安として、運動による体重減少が2%を超えないように注意する。運動の前後に、また毎朝起床時に体重をはかる習慣を身に付け、体調管理に役立てよう。
肥満の人は標準体重の人に比べて、同じ運動量でも熱の産生量が多い。体脂肪が増えすぎると、熱が外へ逃げるのをブロックするので、体温が上昇する原因となる。
血圧が上がりやすい、血糖値が上がりやすいといった体質は変えられないが、肥満は改善が可能だ。肥満を解消することは、健康維持のためにも重要となる。
■ 塩分(ナトリウム)の補給が効率的
汗からは水分と同時にナトリウム(塩分)も失われる。ナトリウムが不足すると熱疲労からの回復が遅れるので、適度に補う必要がある。
身体には約0.9%の食塩水と同じ浸透圧の血液が循環している。汗にはナトリウムが含まれており、大量に汗をかいてナトリウムが失われると、水だけを飲むと血液のナトリウム濃度が薄まり、水を飲む欲求がなくなることがある。この状態になると、汗をかく前の体液の量を回復できなくなり、熱中症の原因になる。
体の状態や運動の内容によって必要な対応は変わってくるが、暑さがひどいときは、0.1~0.2%の食塩(ナトリウム40~80mg/100mL)を含む補水液などを飲む。補水液は1Lの水にティースプーン半分の食塩(2g)を溶かして、自分で作ることもできる。
■ スポーツドリンクに注意
水分補給にスポーツドリンクを利用する人も多いが、エネルギー補給の目的で糖質を含んでいるものが多いので、減量や血糖コントロールを目的としたウォーキングなどでは効果が減じてしまう。
スポーツドリンクの特徴は、発汗などで失われるナトリウム、カリウムなどの電解質を含んでおり、吸収を早めるために体液に近付けた浸透圧にしてあること。必要な場合は、糖質を含まない低カロリーのものを利用する方法もある。
■ 運動する時間帯に注意
日中の暑い時間は避け、朝や夕方の涼しい時間帯を利用すると効果的だ。天気予報をみて、気温が上昇したり湿度の高い日には、午前11時から午後3時の運動は避ける。
気温が上がると心拍数が増えるので、特に運動中に心拍数がいつもより高い場合には注意が必要となる。木陰で休憩を挟みながらウォーキングなどの運動を行うと安全だ。
■ 準備は十分に 服装に注意
運動をするときは、休憩を頻繁にとって、水分を十分に補給することが大切だが、服装にも注意が必要だ。
熱中症を予防するための服装のポイントは、(1)体の熱をスムーズに放射させる機能のあるもの、(2)外気からの熱の吸収を抑えるもの。
暑い時には服装は軽装にし、吸湿性や通気性の良い素材を使ったものを使用する。屋外で直射日光がある場合には、色の濃いものを身に付けるのを避けて、帽子を着用しよう。
■ 体を熱さに慣れさせる
高温多湿の環境での体温調節能力に、暑さへの慣れ(暑熱順化)が関係する。急に暑くなったときは運動を軽減し、暑さになれるまでの数日間は、短時間の軽い運動から徐々に増やしていくようにする。
■ 暑いときや体調不良のときは無理な運動をしない
気温が高いときほど、また同じ気温でも湿度が高いときほど、熱中症の危険性は高くなる。また、運動強度が高いほど熱の産生が多くなり、やはり熱中症の危険性は高くなる。
暑い環境でスポーツをするように鍛えられたアスリートと違い、普通の人が暑い時期に無理して運動するのは危険がともなう。暑いときに無理な運動をしても効果は上がらない。環境条件に応じて運動強度を調節し、休憩を適宜とり、適切な水分補給を心がけることが重要だ。
また、体調が悪いと体温調節機能も低下し、熱中症につながりやすい。疲労、睡眠不足、発熱、かぜ、下痢など、体調の悪いときには無理に運動をしないことだ。
体力の低い人や、糖尿病の人、暑さに慣れていない人、熱中症を起こしたことのある人などは注意が必要だ。
■ アルコールを避ける
アルコールは水分補給の代わりにならないので注意が必要。運動中や運動前にアルコール飲料を飲むと、体の脱水が促される。
アルコールを飲むと、十分に水分補給したと思っていても、実際には体から水分が失われており、熱中症やケガを起こしやすくなる。
■ 薬を飲んでいる人は要注意
利尿剤やSGLT2阻害薬など尿の量が増える薬を飲んでいる人は熱中症になりやすい傾向がある。このような薬を飲んでいる人は、暑い中で運動をする前に医師に相談しよう。
マスクをはずして休憩をとることも大切
今年は新型コロナウイルスへの対策を行う必要もあり、とくに注意が必要となる。夏期の気温・湿度が高い中でマスクを着用すると、熱中症のリスクが高くなる。
ヒトは、気温が高くなり体内に熱がこもるようになると汗をかき、呼吸をして冷えた空気を体内に取り込むことで熱を発散し、体温調節を行っている。
しかし、マスクをしていると自分の呼吸により温められた空気しか入ってこないため、呼吸で身体を冷やすことが難しくなる。また、顔の半分ほどがマスクで覆われることで、熱がこもりやすくなる。
さらに、マスクによる加湿で口の渇きを感じにくくなるため、熱中症に気づくのが遅くなり、とくに高齢者では熱中症になるリスクは高まると考えられている。
マスクを着用している場合には、強い負荷の作業や運動は避け、のどが渇いていなくてもこまめな水分補給をこころがけることが大切だ。また、周囲の人との距離を十分にとれる場所で、適宜、マスクをはずして休憩することも必要。
暑さ指数を意識した熱中症対策が必要
環境省は今年から、熱中症予防に関する情報「熱中症警戒アラート」を新たに全国で開始した。熱中症警戒アラートは、熱中症の危険性が極めて高い暑熱環境になると予想される日の前日夕方、または当日早朝に、都道府県ごとに発表される。
「発表されている日には、外出を控える、エアコンを使用するなどの、熱中症の予防行動を積極的にとりましょう」と注意を呼びかけている。
新型コロナウイルス感染症を予防するためには、冷房時でも換気扇や窓開放によって換気を確保する必要がある。そうすると室内温度が高くなるので、「熱中症予防のためにエアコンの温度設定をこまめに調整する」ことを呼びかけている。
また、日本救急医学会の熱中症に関する委員会は、暑さ指数(WBGT)を意識した生活を心がけるよう呼びかけている。
WBGTとは、熱中症が起きやすい外的環境を知るための指標で、気温だけでなく、湿度や輻射熱を考慮した判断が可能になる。その内訳は気温:湿度:輻射熱が1:7:2であることから、気温だけでなく、湿度や輻射熱をも考慮した判断が可能になる。
気温だけでなく、この暑さ指数を意識した生活指導が必須であり、これを用いた屋外活動の可否判断が重要だ。
WBGTが21度以上では熱中症による死亡事故が発生する可能性があり、運動の合間に積極的に水分補給が必要。28度以上では、激しい運動や持久走などの体温が上昇しやすい運動は避け、31度以上では、運動は原則中止するのが望ましいとしている。小児の場合は、さらに厳格な対応が必要となる。
屋外活動や運動をする場合は、20~30分程度の間隔での頻繁な水分・塩分補給と休憩を行った上で実施するべきだとしている。
How To Safely Resume Exercise In The Summer Heat - Amid A Global Pandemic(バージニア大学 2020年7月27日)
熱中症環境保健マニュアル(環境省「熱中症予防情報サイト」)
熱中症を発症したときの対処法を解説している。
[ Terahata ]