2型糖尿病患者に生じる骨格筋の筋力低下は、高齢になってからの寝たきりの原因になると注目されている。順天堂大学の研究グループは、細胞内カルシウムイオンの調節障害が筋力低下に関与していることを確かめた。
さらに、運動療法によって、筋力低下を改善できるだけでなく、細胞内カルシウムイオンの調節障害も改善できることも明らかにした。2型糖尿病患者の筋力低下の予防法および治療薬の開発につながる可能性がある。
研究は、順天堂大学大学院医学研究科・スポートロジーセンターの江島弘晃研究員(現ユタ大学)、田村好史准教授、河盛隆造センター長、代謝内分泌内科学の綿田裕孝教授らの研究グループによるもの。詳細は米国生理学会雑誌「Journal of Applied Physiology」オンライン版で公開された。
糖尿病は筋力を低下させる
骨格筋は、腕や脚の筋肉、腹筋、背筋などで、体を支え動かす役割を担っている。骨格筋は日常生活をおくる上で欠かすことができない。
しかし、高齢により筋力が低下すると、徐々に身体を動かせなくなり、寝たきりのリスクが高まる。さらに、2型糖尿病患者ではその多くに筋力低下が生じやすく、深刻な影響をもたらす。
これまで、糖尿病により筋力の低下が生じる原因は、筋量の減少だと考えられてきたが、最近では、糖尿病患者では同じ筋量でも筋力が低く、筋肉の質の低下が起こることが分かってきた。
この筋肉の質の低下が糖尿病患者でどのように生じているのか、その分子メカニズムを明らかにするため、研究グループは、筋肉の質の指標となる筋力と筋収縮に関わる細胞内カルシウムイオンの濃度変化に着目し、分子メカニズム解明の研究を実施した。
カルシウムイオンは、骨格筋での収縮と弛緩という役割を担っている。骨格筋が収縮と弛緩を繰り返すことで体を動かすことができ、このときにカルシウムイオンが細胞内に放出されることで筋の収縮が開始される。
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運動療法で筋力低下を防げる
研究グループは、2型糖尿病モデル動物(db/dbマウス)を用いて実験を実施。2型糖尿病のマウスでは、運動前に健康なマウスに比べ、電気刺激による筋肉の収縮時の細胞内カルシウムイオン(Ca
2+)濃度が低下していた。
画像はマウスの骨格筋を酵素処理によって一本の筋線維にしたもので、蛍光イメージング法により細胞内カルシウムイオンの濃度を測定可能にしたもの。
蛍光イメージングは、目的となるカルシウムイオンだけを蛍光で光らせ、その蛍光をとらえる専用の顕微鏡を用いてその変化を観察する手法。研究では、マウスから摘出した骨格筋を一本の筋線維にし、カルシウムイオン特異的な蛍光プローブを導入することで、電気刺激による筋肉の収縮時の蛍光強度がカルシウムイオンの濃度として測定された。
さらに、2型糖尿病のマウスの細胞内カルシウムイオン放出の低下が継続的な運動トレーニングにより改善することを確かめた。運動前に、2型糖尿病のマウスは健康なマウスに比べ、筋力と細胞内カルシウムイオン放出濃度が低下していたが、継続的な運動トレーニングを行うことで、これらの障害が改善されることを明らかにした。
今回の研究では、2型糖尿病における筋力低下と細胞内カルシウムイオンの調節障害を改善するために、運動療法が重要であることが明らかになった。さらに、カルシウムイオンを調節することで、2型糖尿病の筋力低下を予防・治療できる可能性が示された。
研究グループは「今後は、2型糖尿病において細胞内カルシウムイオンの調節障害がどのような分子メカニズムを介して生じているのかを詳細に明らかにし、カルシウムイオンを調節する新たな予防介入法や治療薬の開発につなげたい」と述べている。
順天堂大学大学院医学研究科・スポートロジーセンター
Dysfunction of muscle contraction with impaired intracellular Ca2+ handling in skeletal muscle and the effect of exercise training in male db/db mice(Journal of Applied Physiology 2018年11月15日)
[ Terahata ]