米国心臓病学会(AHA)が心臓病や脳卒中を予防するために推奨している「7つの生活習慣」(ライフ シンプル 7)を実行している患者は、心臓病や脳卒中の発症リスクが減少し、医療費も削減できるという調査結果が発表された。
米国心臓病学会(AHA)は、心臓病や脳卒中を予防するために、「7つの生活習慣」(ライフ シンプル 7)を推奨している。これは、さまざまな疫学研究の結果をもとに作成されたものだ。
心臓病を防ぐ7つの簡単な方法(ライフ シンプル 7)
(1)血糖値を下げる
糖尿病のある人が、血糖値が高い状態を放置していると、心臓病や脳卒中の危険性が4倍以上に高まる。血糖値をコントロールすれば、これらの合併症を防ぐことができる。
過食や運動不足により肥満になると、糖を筋肉細胞に取り込ませるインスリンの働きが阻害されて、インスリン抵抗性になりやすい。食後に上がった血糖値が下がりにくくなってしまう。
糖尿病は食事や運動の影響を受けやすい病気なので、生活習慣を少しずつでも改善していき、医師から処方された薬をしっかり飲むことが重要。
(2)血圧を管理する
高血圧はもっとも多い病気で、20歳以上の3人に1人以上が高血圧で、うち20%の人が、自分が高血圧であることを知らないという調査結果がある。高血圧は自覚症状が乏しく自分では分からないので、定期的に検査をすることが重要となる。家庭用血圧計を入手して、朝と夜寝る前に血圧を測ってみよう。
健康な体重を維持すること、塩分の摂取量を減らすこと、医師に処方してもらった薬をきちんと飲むことが大切だ。
(3)コレステロールを管理する
コレステロールの異常は、死因の上位を占める狭心症や心筋梗塞などの心臓病や、脳出血や脳梗塞などの脳卒中の原因になる。運動を習慣化し、加工肉などの動物性の食品を控え、低脂肪の乳製品や体に良い植物油を選び、食生活を改善すれば、コレステロール値を改善できる。
動物性脂質の多い食事を多く摂ると、食事の後に血液中の中性脂肪が異常に増えやすく、心臓病や脳卒中の原因になる。食事や運動でコントロールすることが重要だ。
コレステロール値が高い場合は薬物療法が必要になる。コレステロール値が気になるときは医師に相談しよう。
(4)運動をする
運動を習慣として続ければ、血糖値・血圧値が下がり、善玉のHDLコレステロールが増え、骨が丈夫になり骨粗鬆症の予防になる。がんの発症リスクも下げられる。ストレス解消にもつながり、夜はよく眠れるようになる。
長時間座ったまま過ごすことが健康に悪影響をもたらす。立ち上がってウォーキングをすれば、どんな薬よりも費用対効果の優れる治療法になる。
1日30分のウォーキングなどの運動を週に5日以上続けて、週に合計2.5時間行うのが目標。1回10分の運動を3回に分けて行っても効果がある。
(5)健康的な食事
健康的な食事を続ければ、体重や血圧値、血糖値、コレステロール値を改善できる。カロリーの摂り過ぎを防ぎながら、必要な栄養素をバランス良く摂ることが大切だ。
そのために、1日3食をしっかりと食べ、野菜や果物、海藻、大豆食品、魚類などを増やすことが勧められる。
野菜を1日に4皿以上、魚を週に2回以上食べるのが目標だ。ごはんやパンは玄米や雑穀、全粒粉を選べば、食物繊維の摂取量が増え体重コントロールにも役立つ。
飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、塩分、動物性食品、高カロリーのお菓子や清涼飲料を制限しよう。
塩分は1日3gに抑えるのが理想的だが、それが無理な場合は6g以下を目指そう。清涼飲料や缶コーヒーを飲むときは、糖分の摂り過ぎに注意する。コップ1杯のコーラのカロリーは90kcalぐらいだ。
(6)標準体重を維持する
肥満は体にとって異常な状態で、特に内臓脂肪が一定以上に多くなると心臓の負担が増える。肥満に脂質異常や、高血圧、高血糖などが重なると、心臓の負担はさらに増える。体重を減しただけでも、これらの検査値が改善することが多い。
1日の食事で必要なカロリーを確かめて、それを超えて食べ過ぎないようにし、ウォーキングなどの運動を続ければ、体重を減らすことができる。食べ過ぎを防ぐには、体重を朝晩はかることが効果的だ。体重が大きく変化する場合は、食生活に何か問題点がないか、点検をして改善しよう。
(7)たばこを吸わない
喫煙は心臓病や脳卒中だけでなく、がんや、慢性肺疾患、呼吸器疾患などの発症率を高める。たばこをやめるだけでこれらの病気のリスクを減らせる。たばこを吸う人はいますぐ禁煙しよう。そうすれば、数年で心臓病や脳卒中の発症リスクを、非喫煙者と同程度に下げることができる。
「ライフ シンプル 7」を実行すると医療費を削減
「ライフ シンプル 7」のうち5~7項目を実行している人は、年間の医療費を平均57万円(5,016ドル)減らせることが、米国のアラバマ大学などの研究チームにより明らかになった。
研究の対象となったのは、米国の健康保険「メディケア」に加入している65歳以上の男女6,262人。参加者は、地域住民を対象に心臓病や脳卒中の危険因子を調べる目的で行っているコホート試験「REGARDS研究」に参加していた。
米国は、日本の国民皆保険制度と異なり、個人が主に民間の健康保険を購入する仕組みになっている。「メディケア」は、連邦政府が管轄している社会保険プログラムで、主に高齢者が対象となる。
「ライフ シンプル 7」のうち5~7項目を実行している人は全体の6.4%だった。これらの人は、心臓病の外来診療と入院診療を受ける割合が低かった。一方、実行数の少ない人は、低所得者層に多かった。
研究チームは、「メディケア」に加入している全員が「ライフ シンプル 7」を実行した場合、医療費を4兆7,000億円(410億ドル)以上も節減できると試算している。
「健康的な生活は、患者の生活の質(QOL)を向上させるだけでなく、健康寿命を延長させ、医療費の削減にもつながります。削減できる医療費が4兆7,000億円というのは控えめな数値です。医師や医療従事者、保健指導に携わるプロフェッショナルは、患者の生活スタイルを改善するために、チームを作り生活スタイルの指導に取り組む必要があります」と、アラバマ大学公衆衛生学部のクリスタル アーロン氏は説明している。
Seven heart-healthy habits could save billions in Medicare costs(米国心臓学会 2017年2月1日)
Cardiovascular Health and Healthcare Utilization and Expenditures Among Medicare Beneficiaries: The REasons for Geographic And Racial Differences in Stroke (REGARDS) Study(Journal of the American Heart Association 2017年2月1日)
[ Terahata ]