NTT(日本電信電話)と東京大学大学院、東京大学医学部附属病院は共同で、人工知能(AI)を用いて、患者の行動予測するモデルを開発した。
患者の「受診中断」を予測し、医療従事者による効果的な支援につなげることを目指している。
2017年度より複数の病院で評価を開始する予定だ。
糖尿病患者の「受診中断」は病態悪化につながる
糖尿病は一度診断されると、ほとんどの場合は一生の間、医療機関を継続して通院することが必要となる。しかし、2型糖尿病の多くは自覚症状がないため、糖尿病治療への意欲を失う患者が少なくない。
また、医療機関に通院していても、「仕事が忙しい」「医療費の負担が重い」などの理由で通院を続けるのを困難に感じている患者もいる。
620万人と推定されている糖尿病の通院患者のうち、8%が治療を中断する可能性があるという調査報告がある。合併症を発症し、病態が悪化してから受診を再開するケースが多いことが問題となっている。
「受診中断」の要因はさまざま 積極的な支援が必要
厚生労働省研究班(研究代表者:野田光彦氏)により、治療を中断する患者の属性や検査値から特徴を調べ、患者の受診中断の因子を明らかにする研究が行われた。
その結果、▽男性で仕事を持っている人に多い、▽若年者(50歳未満、とくに20?30歳代)で多い――といった特徴が報告されている。治療中断を防ぐための対策は、「糖尿病受診中断対策包括ガイド」として、糖尿病医療に関わる医療従事者に活用されている。
しかし、受診中断にはさまざまな要因が考えられ、医師がさらに積極的に支援すべき患者を個人にまで絞り込み、支援することが求められている。
「受診中断」をAIで予測するモデルを開発
そこでNTTと東京大学は、患者の電子カルテデータをもとに受診中断を予測する人工知能(AI)の構築を目指した。
予測精度を高めるため、東京大学の医療データ分析や臨床での患者への指導に関する知見を参考にして生成した特徴量と、NTTが開発したAI技術「corevo」の機械学習に関する知見をもとにモデルを構築した。
開発したモデルでは、電子カルテのデータなどから、予約不履行(受診が途絶えるきっかけとなりうる予約外来の不受診)と受診中断リスク順位(将来の受診中断日までの日数の長さによる患者の順位付け)の2つを予測する。
「受診中断」を7割の精度で予測
2011~2014年に糖尿病の治療で東京大学医学部附属病院に通院している患者約900人の電子カルテデータを用いて評価したところ、予約不履行ではAUC(Area under the curve)が0.958、F値(陽性的中率と真陽性率の調和平均)が0.704、受診中断リスク順位では正解率0.706という予測性能が確認された。
このことは、このAIを使えば、患者の不受診を7割の精度で予測できることを示している。
その他、受診の予約日の曜日、間隔など、これまで医師が気付かなかった項目が予測に影響を与えていることも分かったという。
予測結果をもとに、受診中断を避けるために積極的に支援すべき患者の絞りこみや、支援を開始すべき時期を見極めたり、支援の度合いを調整することが可能になり、医師の診療支援や、患者の病態の維持・改善につながることが期待できる。
2017年度から複数病院で試験を開始
また、電子カルテデータの標準規格である「SS-MIX2」が普及し、大量の診療情報をAIで利活用できる基盤が整いつつある。SS-MIX2は2015年3月末までに850の病院に導入されている。
このモデルは、このSS-MIX2標準化ストレージに準拠しているため他の病院への展開が可能だ。データの規模を拡大すれば、より正確な予測モデルを構築できるようになる。
2017年度から複数病院でのデータベースを使い、受診の中断リスクを予測し評価する試験を開始するという。
同モデルの構築は、東大COI拠点(自分で守る健康社会 ?Self-Managing Healthy Society COI拠点?)における共同研究として実施。
研究は、東京大学大学院医学系研究科医療情報学分野、東京大学医学部附属病院企画情報運営部の大江和彦教授らの研究グループと、日本電信電話(NTT)の共同で行われた。
日本電信電話(NTT)
東京大学大学院医学系研究科 社会医学専攻 医療情報学分野・公共健康医学専攻(SPH)医療情報システム学分野・東京大学医学部附属病院病院 企画情報運営部
厚生労働科学研究「患者データベースに基づく糖尿病の新規合併症マーカーの探索と均てん化に関する研究―合併症予防と受診中断抑止の視点から」(研究代表者:野田光彦氏)については、国立国際医療研究センターホームページで公開されている。
国立国際医療研究センター 糖尿病研究部
糖尿病受診中断対策マニュアル
糖尿病受診中断対策包括ガイド
[ Terahata ]