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2022年06月06日

夫が48歳で脳卒中を発症 ニューノーマルな生活に取り組んだ夫婦の物語

夫が48歳で脳卒中になった夫婦のニューノーマルな生活――AHAニュース

 米国ケンタッキー州に住むJohn Catheyさんの自宅では、その日、浄化槽の工事が行われていた。Johnさんはしばらく狭いスペースに潜り作業を手伝っていたが、そろそろ終わりにしようと足を踏み出した。しかし、彼の足はうまく動かなかった。

 妻のPaulaさんはバスルームを掃除していた。少し高い位置にある窓越しに、誰かの叫び声が聞こえ、間もなく工事の作業員がドアをノックした。作業員によると、Johnさんの姿が見えないという。Paulaさんは家を飛び出し周囲を探した。

 夫は草の上に横たわり、体の左側を動かすことができない状態だった。会話はできたが言葉が不明瞭だった。「脳卒中のようだ。911番に電話を」と作業員が促した。

 Johnさんの家系には心臓病が多かったため、Paulaさんは夫に心臓発作が起きる可能性については心構えができていた。しかし脳卒中は念頭になかった。

 「脳卒中は高齢者の病気ではないか」と彼女は思った。彼女にとって48歳の夫は、高校時代に出会ったままの"かっこいいセクシーな存在"だった。

 ふだんから体調管理に気を使い、体力に自信のあったJohnさん自身も、救急救命士から「脳卒中を起こしている」と言われたとき、「いや、足をひねっただけだ」と答えた。

 Johnさんは、テネシー州の病院にヘリで搬送され、血栓摘出術が施行された。血栓が詰まるタイプの脳卒中は、その3分の1近くが原因を特定できない。Johnさんもそれに該当した。

 急性期治療が終わると、会話は問題なくできるようになった。ただし、嚥下と左側の手足の動きに障害が生じた。それでもリハビリテーションによりやや改善したため、Paulaさんは夫が退院し自宅で生活できることを期待した。

 しかし、医師の勧めに従いJohnさんはリハビリ専門施設へ転院することになった。1カ月で、左側の感覚と動きが回復したが、歩行は難しかった。その後は外来でリハビリを続けることになった。

 Catheyさん夫婦には2人の息子がいたが、2人とも成人し遠方で暮らしていたため、介護に駆けつけることはできなかった。一方、教会で知り合った友人たちが、Catheyさん宅にスロープを付けるなどの協力を惜しまなかった。

 Johnさんが脳卒中に見舞われたのは2013年のことだった。それから1年が過ぎ、彼は歩行器と装具を使い一人で歩くことを始めた。そして昨年になると、一点杖で歩けるまでに回復した。ただし、左手足の不自由さは続いた。

 この間、2017年に夫婦は自宅を売却し、介護サービス付き施設の中の自立生活セクションに転居した。2人は自宅での生活を続けたかったが、Johnさんは常に介護者を必要としており、介護者の雇用は経済的に困難だった。妻のPaulaさんにとって、転居は安堵であり、悲哀でもあった。

 施設に暮らすほかの人たちに比べてCatheyさん夫婦は、はるかに若かった。それにもかかわらず、2人は新しいコミュニティーで友達を増やしていった。施設の人々は、脳卒中後の後遺症のある人を支え合ったり、教会での活動などによって、友情とパワーを生み出していた。

 「夫が脳卒中を起こしたとき、私は46歳だった。そのころ私たち夫婦は、子ども2人が自立した後の"空の巣症候群"の状態だった。いろいろなことが立て続けに起きた。ずいぶん昔のことのように感じる」とPaulaさんは振り返る。

 Johnさんは現在も週に1、2回、リハビリを続けている。歩行は少しずつ改善している。自分で服を着られるようにもなった。しかし、靴紐を結ぶなど、両手が欠かせない作業にはPaulaさんの手助けが必要だ。

 「一生努力の継続だ。リハビリをやめて座っていたら、残りの人生はそのまま過ごすことになるだろう」とJohnさんは語る。

 Johnさんは、自分が人々から注目されがちな存在であることを理解している。しかし彼は、脳卒中による人生の変転を、自分一人で受け止めて生きているわけではない。Paulaさんの人生も大きく変わった。

 「私に妻のような介護者がいることは、とても恵まれたことだ。彼女なしでは、脳卒中後の人生を歩み続けることはできなかった」。

 Johnさんの脳卒中から間もなく10年がたつ。Paulaさんは彼女の「ニューノーマル」な生活を享受している。「幸せの訪れを待っていても人生は変わらない。私はいま何よりも、夫と自分が互いに欠かせない存在であることに感謝している。つまり、私たち2人は、まだ恋をしているということだ」。

[American Heart Association News 2022年5月2日]

American Heart Association News covers heart and brain health. Not all views expressed in this story reflect the official position of the American Heart Association. Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.
Photo Credit: John Catheyさん(左)と妻のPaulaさん(ご家族提供)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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