ニュース

2019年07月09日

メンタルヘルスケアが糖尿病患者の寿命を延ばす 血糖コントロールも改善

 糖尿病の人がうつ病の治療を受けることで、寿命を延ばせ、大きなメリットを得られるという研究が発表された。糖尿病のある人はそうでない人に比べ、うつ病を経験する割合が2〜3倍に上昇するという報告がある。
うつ病治療が死亡リスクを3分の1以上減少
 このほど台湾で実施された大規模な調査で、糖尿病の人はうつ病を併発しやすく、うつ病の薬物療法を受けることで、死亡リスクを3分の1以上減少できることが明らかになった。詳細は、米国内分泌学会が発行する医学誌「Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に発表された。

 「台湾のはじめての全国的な集団ベースの研究で、うつ病を発症した糖尿病患者に抗うつ薬を使用した治療を行うことで、死亡リスクを35%低下できることが分かりました」と、台湾の長庚大学医学部のヴィンセント チン-ハング チェン教授は言う。

 米国疾病管理予防センター(CDC)によると、糖尿病患者はそうでない人に比べ、うつ病を経験する割合が2〜3倍高くなる。糖尿病患者のうつ病の多くは未治療のままで、CDCは患者の50~75%がうつ病の治療を受けていないと推定している。

 新しい研究は、2000年以降に新たに糖尿病とうつ病を診断された、1型糖尿病と2型糖尿病を含む5万3,412人の台湾人を対象に行われた。調査は抗うつ治療の成果を調べるため2013年まで続けられた。

 研究に参加した患者の大多数である5万人以上が、抗うつ薬による治療を受けた。その結果、うつ病の治療をすることで、糖尿病患者の死亡率を低下できることが示された。

関連情報
糖尿病の人の半数近くが糖尿病による苦痛を経験
 「糖尿病とうつ病は、それぞれ独立して、総死亡リスクを引き上げることが示されました。うつ病の治療をすることで、気分障害を改善できるだけでなく、糖尿病の血糖コントロールの改善にもつながる可能性があります」と、チェン教授は言う。

 チェン教授によると、糖尿病による死亡リスクに影響を与える因子として、糖尿病以外の疾患、年齢、性別、収入、居住地、糖尿病の重症度などが考えられるという。

 米国糖尿病学会(ADA)によると、糖尿病の治療がうまくいかないことがもたらす「糖尿病による苦痛(diabetes distress)」が、うつ、不安、燃え尽き症候群などを招くことがある。

 糖尿病のある人の半数近くが糖尿病による苦痛を経験している。2型糖尿病の人では過食などの摂食障害、1型糖尿病の人では拒食や過食、体重を減らすためにインスリン注射を制限するなど異常行動が起こることがあるという。
メンタル面の健康を取り戻すと血糖コントロールが改善
 糖尿病の治療は、食事や運動、薬物療法など、長期にわたる自己管理をともない、さらに血糖変動は気分変動にもつながる。糖尿病をコントロールするために、日々の生活でストレスがたまっていき、恐れや非難、怒り、罪悪感といった否定的な感情がつのり、身体・感情的に参ってしまう患者が少なくない。

 「うつ病は、糖尿病の自己管理や、薬の服用やインスリン注射、食事や運動などの運動や健康的な食事などの健康的な生活スタイルを維持するのを妨げるおそれがあります」と、ADAは指摘している。

 「合併症を発症していると新たに診断されたとき、糖尿病のコントロールが面倒だと感じているとき、糖尿病に対する気持ちや考えが仕事や人間関係の妨げになっていると感じたとき、専門家に手を差し伸べてもらう必要があります。糖尿病の治療で変化があるときにも、医療者によるサポートは必要です」。

 うつ病を治療し、メンタル面での健康を取り戻すことで、血糖コントロールが改善し、治療がふたたびうまくいくようになることは、過去の研究でも示されている。
患者の人生に寄り添った治療が必要
 ADAは糖尿病の治療では、医師や看護師、管理栄養士、薬剤師、理学療法士などによるチーム医療に、精神保健の専門家も加えることを提案している。

 「人生は困難なものであり、糖尿病とともに生きることも困難です。治療から利益を得ることを困難に感じ、危機に直面していても、そのことに対策しないで放置しておくことは、誰にとっても利益になりません」と、テキサス大学健康科学センターのステーシー オグバイド氏は言う。

 糖尿病の治療もうつ病の治療も進歩している。「治療には多くの選択肢がありますが、目標はどれも同じで、良好な血糖コントロールを維持することです。糖尿病診療に携わる専門家が、あなたの話によく耳を傾け、行動を変えるのを助けるためにあなたの視点を変えることも必要です」。

 「否定的な思考パターンが発生したときには、それをより役立つパターンに置き換えるため、医療者と患者がよく話し合い、患者の人生に合った行動計画をともに作ることを学ぶべきです」と、オグバイド氏は指摘している。

Antidepressants reduce deaths by more than a third in patients with diabetes(米国内分泌学会 2019年7月2日)
Antidepressants reduced risk of mortality in patients with diabetes mellitus: a population-based cohort study in Taiwan(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism 2019年7月2日)
How to Find Mental Health Help if You Have Diabetes(米国糖尿病学会 2019年7月)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲