2型糖尿病患者における低血糖の発生は、心臓の拍動に危険な変化を与えることが、英シェフィールド大学臨床糖尿病学教授兼客員顧問医師のSimon Heller氏らによる小規模検討で明らかになった。「Diabetes」5月号に掲載された同結果は、2型糖尿病患者に厳格な血糖コントロールを行った大規模試験で想定以上に死亡率が高くなった理由を説明する可能性がある。1型糖尿病以外は健康に問題のない患者が、特に原因もなく就寝中に亡くなる“dead-in-bed”症候群についても説明できる可能性があるという。
糖尿病患者の低血糖エピソードは、薬物による血糖管理が行きすぎ、血糖値が下がりすぎることで起こる。一部経口薬でも発生するが、インスリン注射による治療を行っている患者に多く発生しやすい。ただ、Heller氏によると、インスリン治療を用いる1型糖尿病患者では低血糖リスクは広く認識されているが、2型糖尿病患者ではあまり認識されていない。
研究では、心疾患リスクがあり、インスリン治療を4年以上受けている2型糖尿病患者25例(平均64歳)を対象に、持続的血糖モニタリング(CGM)および12誘導ホルター心電計を5日間装着させた。どちらのデバイスもポータブルタイプとして、通常の生活活動を行ってもらった。
その結果、延べ1,258時間の正常血糖状態、65時間の高血糖状態、134時間の低血糖状態が観察された。低血糖を63mg/dL未満と定義したところ、被験者が低血糖の発生を自覚していないことがしばしばあることがわかった。
Heller氏らが低血糖と心拍の関係を検討したところ、正常血糖時に比べ、夜間低血糖時には徐脈が発生するリスクが8倍高くなっていた。日中の徐脈発生は観察されなかった。夜間低血糖時には、正常血糖時に比べ、他の異常心拍(不整脈)発生リスクも有意に高かった。被験者が低血糖発生を自覚しているときは異常心拍は生じていなかった。
同検討は、2型糖尿病患者における低血糖と異常心拍の関連を見出したが、その因果関係を確認したものではない。
同論文の付随論説を共同執筆した米ワシントン大学(ミズーリ州セントルイス)医学部細胞生物生理学准教授のSimon Fisher氏は、同様の結果は動物実験でも示されていることを挙げ、「これらの結果からは、重症低血糖による不整脈が、インスリン治療中の糖尿病患者に発生する突然死に関与していることが示唆される」と解説している。
一方、米国糖尿病協会(ADA)前会長のJohn Anderson氏は、低血糖の危険性を強調する結果だとして、「厳格な血糖コントロールの重要性は安全性に勝るものではない。特に複数の心疾患リスクがある患者では、重症低血糖の回避は治療の基本ゴールだ。ADAでは2012年に、血糖目標値の個別化を提言している。特にインスリン治療を受けている患者であれば、午前3時の低血糖を避けることは重要だ」と述べている。
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[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所