小児・若年期に適切なレベルのビタミンDを維持していれば、1型糖尿病の発症を半分に減らせる可能性があることが、ハーバード公衆衛生大学院の研究であきらかになった。
自己免疫疾患にビタミンDが有効である可能性
ビタミンDは、腸管でのカルシウムの吸収を促進し、骨の形成を助ける栄養素としてよく知られている。ビタミンDをカルシウムといっしょに摂取すると、カルシウムが体内へ吸収されやすくなる。
ビタミンDの作用は骨の形成だけにとどまらない。この10年でビタミンDの研究は大きく変わっており、最近の研究では、ビタミンDに免疫系が体の組織を攻撃するのを防ぐ作用があることが示唆されている。
ハーバード公衆衛生大学院(HSPH)の研究者によると、小児・若年期に適切なレベルのビタミンDを維持していれば、1型糖尿病の発症を半分に減らせる可能性がある。この研究は、医学誌「American Journal of Epidemiology」オンライン版に2月3日付けで発表された。
「自己免疫疾患を予防するために、ビタミンDを補充すると効果的であるかもしれません。1型糖尿病のような深刻な疾患を、簡潔で安全な介入により予防できとすれば驚くべきことです」と、カサンドラ ミュンガー氏は話す。
1型糖尿病は、体に備わっている免疫系が膵臓内でインスリンを産生しているβ細胞を攻撃し破壊することで発症すると考えられている。米国糖尿病学会(ADA)によると、米国の糖尿病有病者は2,580万人と推定されているが、うち5%が1型糖尿病だ。若年発症例が多いが、およそ60%は20歳以降に発症するという。
研究チームは、米国防総省が1980年代半ばから800万の軍人から収集した4,000万件以上の血液サンプルをもとに、前向きケースコントロール研究を行った。1997〜2009年に310人が1型糖尿病と診断された。研究チームは発症の前後の血液サンプルを調べて、613人の対照群と比較した。
その結果、ビタミンDの血清レベルが75nmol/Lを超える人では、75nmol/L未満の人に比べ、1型糖尿病の発症率がおよそ半分に低下することがわかった。
「ビタミンDのレベルが高くなると、1型糖尿病のリスクは低下しました。ビタミンDが1型糖尿病に対して保護的に作用する可能性があることが強く示されました」と、ミュンガー氏は話す。
ビタミンは通常は体内では合成できない微量栄養素をさすが、ビタミンDは体内で作ることができる。ビタミンDは皮膚で作られ、皮膚がビタミンDを作るためには、紫外線の力が必要だ。日光に当たらなければ、ビタミンDは作られない。
一般的に、晴れた日に顔と肘から先の腕を15分直射日光に当てるだけで、ビタミンDが合成されると考えられている。日照の少ない北欧の人々が、少ない晴れた日に戸外で日光浴をするのは、生活の知恵といえる。
「ビタミンDと1型糖尿病の発症の関連についてさらに研究が必要ですが、多くの症例で1日1,000〜4,000IUのビタミンD補充により予防できる可能性があることが示された意義は大きいといえます」と、ミュンガー氏は強調している。
ビタミンDが不足しているか、足りているかは、血液濃度を測定すればわかる。世界の10億人は、年齢や民族に関わらず、血中のビタミンDレベルが低すぎると推定されている。骨粗鬆症の患者では、さらに多くの人がビタミンD不足だとの調査結果もある。
この研究は、米国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)によって資金が提供された。
Low vitamin D levels may increase risk of type 1 diabetes(ハーバード公衆衛生大学院 2013年2月3日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所