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2010年09月02日

インスリン産生するβ細胞が再生 1型糖尿病の新たな治療法に期待

 1型糖尿病患者には、発症してから数十年のあいだ、インスリンを分泌するβ細胞が再生されている症例が含まれる可能性があるとの知見が、ジョスリン糖尿病センターの研究者によって発表された。β細胞を保護する新たな治療法の開発が期待されている。
インスリン療法を50年続けられる秘密をさぐる研究
 1型糖尿病は免疫機能が自分の体に対して働いてしまう「自己免疫疾患」によって、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が破壊されて発病すると考えられている。日本人に多い2型糖尿病と異なり、生活習慣と関係なく、小児・若年期に発病することが多い。

 ジョスリン糖尿病センターでは1972年から、インスリン療法を50年続けている1型糖尿病患者を対象に、長年の治療を称え表彰する「インスリン50年賞」を実施しメダルを贈呈している。研究者らは、50年賞を受賞したメダリストを対象に、長生きの秘訣をさぐるために「ジョスリン50年メダル研究」を実施した。結果は、米国糖尿病学会(ADA)の医学誌「Diabetes」オンライン版に8月10日付けで発表された。

 研究では、50年賞のメダリスト411人に協力してもらい、また9人のメダリストの臓器提供を受け、膵臓の機能などが調べられた。平均年齢は67.2歳で、1型糖尿病の罹病期間は平均56.2年間だった。

 血液サンプルからは、インスリン分泌能の指標となるCペプチド値や血糖値から、ほとんどの患者の体内でインスリン不足と自己免疫反応の徴候が示された。しかし、67.4%では最小限あるいは持続したCペプチド値が示され、患者の体内でインスリンが産生されていることがわかった。

 また、提供された膵臓でもインスリンを産生するβ細胞があることを確認できたが、自己免疫による攻撃を受けβ細胞が細胞死している徴候がみられた。

β細胞を保存し自己免疫を抑える治療法の開発
 「多くの1型糖尿病患者の膵臓で、Cペプチドが陽性となる能力があるという結果が得られた。まだ機能的なβ細胞があることが示された」とジョスリン糖尿病センターのHillary Keenan博士は話す。同センターのGeorge L. King博士は「インスリンを分泌するβ細胞を成長させ、自己免疫を抑えて細胞死を減らすことができれば、効果的な治療につながるだろう」と述べている。

 研究のもうひとつの大きな目標は、糖尿病合併症を長期的に予防するために有効な方法をさぐること。1型糖尿病患者は、インスリン療法により体外からインスリンを補わないと生命を維持できない状態にある。研究では、1型糖尿病患者での良好な血糖値コントロールが、β細胞の機能保存を助けることも示唆された。

 研究者らは「糖尿病はコントロールできる。良好な血糖コントロールにより、正常、あるいは正常に近い生活ができ、充実した一生をすごすことができる」と強調している。

 この研究は、若年糖尿病研究財団(JDRF)、米国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所、Beatson財団、Brehm財団、イーライリリー社によって資金提供され行われた。

Ultimate Diabetes Survivors, the Joslin 50-Year Medalists, Give Clues to Cures(ジョスリン糖尿病センター、2010年8月11日)
Residual Insulin Production and Pancreatic β Cell Turnover after 50 Years of Diabetes: Joslin Medalist Study
diabetes, Published online before print August 10, 2010, doi: 10.2337/db10-0676

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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