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2010年08月06日

患者と医師が電子メールでやりとり:糖尿病の治療を向上 米研究

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 糖尿病や高血圧症の患者と医師のあいだの電子メールのやりとりが、医療の質を向上するとの研究結果が米国で発表された。
インターネットを患者指導に活用
 この研究は、米国の保健維持機構(HMO)である大手医療保険カイザーパーマネンテ(カリフォルニア州)の研究者らによって、糖尿病や高血圧症、あるいは両方を合併する患者3万5423人を対象に実施された。結果は、医療政策の専門誌「Health Affairs」7月号に発表された。

 研究では、医師と患者のあいだで2ヵ月間、電子メールをやりとりすることで、医療の質にどれだけ影響があらわれるかを調べた。その結果、HbA1cなどの血糖コントロールやコレステロール値、血圧値などが2.0%から6.5%改善したという。米国の医療機能の第三者評価機関であるHEDIS(ヘルスケアの有効性データ情報セット)が、患者と医療機関での医療データをもとに中立的に評価した。

 米国では経済の再生に焦点をあてた「米国再生・再投資法(ARRA)」が2009年に成立。米国は世界でもっとも多くの医療費を費やしている国だが、日本のような国民医療保障制度がなく医療格差は大きい。また、糖尿病など生活習慣病の医療費増大や高齢化などが米国の財政を圧迫している。

 そこで、米政府は医療の効率化を促すために、2013年までに電子医療記録を導入することを決めた。その一環として、患者と医師のあいだでインターネットを利用した「安全な(セキュア)メッセージング」を提唱している。

患者からの質問は「病状の変化、新しい薬剤の服用」など
 カイザーパーマネンテの研究者らは、患者と医師の間でやりとりされた63万通以上の電子メールを分析。うち85%は患者から送信された。患者が医師に連絡をとる主な理由は、健康状態の変化、検査結果、病状の変化、新しい薬剤の服用や服用量などが多かった。75%は現在受けている治療についての質問や治療プランに関する実際的なもので、世間話のような内容は少なかったという。

 医師に電子メールを出した患者では、HbA1c値、コレステロール値、網膜症、腎症の検診で2.0%から6.5%改善した。また高血圧のある患者では降圧目標である140/90mmHgを達成できた患者が多かった。電子メールのやりとりが多いほど、治療結果が良くなる傾向もみられた。

 研究者らは「特に糖尿病患者で、服薬指導を守るようになるなどの効果があった。電子メールやインターネットの利用は、医師と患者の双方に大きな便益をもたらす」と指摘している。

 米国の800万人以上が加入する医療保険であるカイザーパーマネンテでは、電子メールによるコミュニケーションを全国規模で2004年から段階的に導入している。カイザーパーマネンテのTerhilda Garrido氏は「臨床医のもとへ毎月、87万通以上の安全性情報を送信している。米国の医師は新しい通信ツールを活用するようになっている。今年の1月から4月にかけて、患者に350万のメッセージを送信し、患者の治療向上やエンパワーメントもたらしている」と述べている。

ウェブサイトの利用が適正体重の維持にも有用
 適正体重を維持するために専用のウェブサイトの利用が有用との知見も発表された。この研究は、米国立衛生研究所(NIH)の資金提供を受け行われたもので、医学誌「Journal of Medical Internet Research(インターネット医学研究)」オンライン版に7月27日掲載された。

 対象となったのは、体格指数(BMI)が25以上*で、降圧薬かコレステロール降下薬を服用しており心血管疾患リスクが高いと判定された348人の男女。専用ウェブサイトにログインし、毎月1回以上、2.5年間にわたり自分の体重を記録してもらった。

 「体重コントロールにおいて重要なのは、継続できることと、それを行う能力があること。インターネットを利用した体重管理は、いつでもどこでも利用できるという利点がある」とカイザーパーマネンテのKristine L. Funk氏は話す。

 この適正体重を維持するための介入研究は、全米の1600人以上を対象に3年実施された大規模研究の一環として行われた。最初の6ヵ月は、参加者に減量のためのグループミーティングに毎週参加してもらった。参加者を無作為に、非介在群、減量のための指導を毎月受ける群、専用ウェブサイトの減量プログラムを利用する群に分けた。

ウェブサイトの利用頻度が高いと効果的
 ウェブサイトを利用する群では、運動をした時間やその日の食事の記録をしてもらい、運動療法や食事療法に関する情報を提供した。体重記録が週1回以上ない場合は、電子メールを送信し励ます仕組みになっていた。

 その結果、2年半にわたり月1回以上体重や食事を記録していた人は、平均約8.6kg(19ポンド)の減量のうち約4kg(9ポンド)を維持することができた。一方で、減量の維持は、期間中14ヵ月しか定期的にログインしなかった人では約2.3kg(5ポンド)、ログイン頻度がさらに低かった人では約1.4kg(3ポンド)にとどまった。

 研究が終了しても、対象者の65%は積極的にログインしていた。研究者らは「ウェブサイトの利用頻度が高いほど、体重維持の効果があることが示された。今回の研究で用意したウェブサイトは期間限定で公開するものだが、体重コントロールに役立つサイトは他にもある。そうしたサイトを上手に活用することが有用ではないか」と述べている。

* 米国ではBMI25〜30が過体重、30以上が肥満。日本では25以上が肥満

Improved Quality At Kaiser Permanente Through E-Mail Between Physicians And Patients
Health Affairs, 29, no. 7 (2010): 1370-1375, doi: 10.1377/hlthaff.2010.0048
Use of Health Information Technology Leads to Improved Care Quality(カイザーパーマネンテ、2010年7月7日)
Associations of Internet Website Use With Weight Change in a Long-term Weight Loss Maintenance Program
Journal of Medical Internet Research, 2010 (Jul 27); 12(3):e29
The More Frequently You Log On, the More Weight You Can Keep Off(カイザーパーマネンテ、2010年7月27日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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