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2009年12月04日

糖尿病への誤った思い込み「糖尿病は深刻な病気ではない?」 米調査

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 米国で糖尿病有病数が爆発的に増えており、「糖尿病と診断される人は20秒に1人」という事態になっているにもかかわらず、多くの人は糖尿病について適正な知識をもっていないことが、米国糖尿病学会(ADA)の調査であきらかになった。

 調査は、ADAの依頼で米調査会社のハリス・インタラクティブ社が行ったもので、対象となったのは全米の男女2081人。平均年齢は46歳で、285人が糖尿病と診断されていた。調査全体の正答率は51%と低く、糖尿病に対する思い込みや誤解が多くみられた。
糖尿病は深刻な病気ではない?
 米国人の死因となる深刻な病気のランクを聞いた質問では、「糖尿病、乳がん、エイズ」の中から糖尿病を選んだ人は42%にとどまった。しかし実際は、米国では毎年、乳がんとエイズを合わせた死亡者数よりも多くの人が糖尿病が原因で亡くなっている。糖尿病のある人の3人に2人が心臓病や脳卒中などが死因となっている。

 「今回の研究により、糖尿病を深刻な病気と受けとめていない人が多いことが分かった」とADA委員長のGeorge Huntley氏は話す。「糖尿病をもっていても自覚症状を感じていないことが多い。そのため深刻なものではないだろうと思い込んでしまう。私たちが糖尿病を“適正な治療を受けていないと、死につながることもある深刻な病気です”と説明しても、信じようとしない人が多かった」。

 糖尿病であることを自覚しにくく、病人扱いされたくないと精神的な負担を感じる人も多い。Huntley氏は「より積極的にアプローチが必要だ。糖尿病に対する闘いにより多くの人々に参加してもらう必要がある」と述べている。

2型糖尿病を発症するのは過体重や肥満の人だけ?
 2型糖尿病は一般的に、遺伝的な要因と環境的な要因の両方が重なり発症する。過体重や肥満は糖尿病の危険因子になるが、糖尿病の家族歴や民族、年齢などの因子も大きく関わっている。質問では、過半数が肥満だけが危険因子と思い込んでいる一方で、他の危険因子については無視している傾向がみられた。53%は加齢の影響も大きいことを知らなかった。

 調査では他にも次のような誤解が多くみられた。

  • 「砂糖のとりすぎが糖尿病の原因ではない」と正しく認識している人は3分の1に過ぎなかった。
  • 糖尿病の食事療法が勧めるのは健康的な食事で、一般の人に推奨される以上の制限食ではないことを知っている人は、糖尿病患者でも12%に過ぎなかった。
  • 1型糖尿病と2型糖尿病の違いを正確に答えられた人は60%未満だった。
  • 約20%が「糖尿病が原因となり亡くなる人の割合は低下している」と誤った思い込みをもっていた。
 ADAのヘルスケア・教育部のSue McLaughlin氏は「これでは落第レベル。多くの人が糖尿病について適正に理解していないことが分かった。この病気により健康が脅かされる危険があることも十分に知られていない。糖尿病に対する恐れが誤った“神話”がはびこらせ、科学的根拠に基づく事実を知ることを難しくさせている。糖尿病の否定と、ステレオタイプとスチグマに満ちた誤った情報を広めることは、誰のためにも良くない」と述べている。

 糖尿病は適正な治療と自己管理を続けていれば、健康な人と同じように暮らしていける病気。そこでADAは今年11月の糖尿病月間に、糖尿病についての正しい知識を共有し、糖尿病と糖尿病合併症の予防を促すためのキャンペーン「ストップ糖尿病(Stop Diabetes)」を開始した。McLaughlin氏は「キャンペーンによって多くの人が糖尿病について正しい知識をもつことの必要を認識し、リスクの高い患者の検診も促すことができる」と期待している。

 「ストップ糖尿病」では、糖尿病療養に取り組む患者の実像も紹介している。その1人、マサチューセッツ州ロックランドのFrank Timmons氏は2008年に検査を受け、血糖値が350mg/dLで2型糖尿病と診断された。医療スタッフや家族の支援を得て、毎日45分の活発なウォーキングを1年間続け、約157?sだった体重を約63?sまで落とした。血糖値は140mg/dL未満の正常範囲にまで改善した。しかし、医療機関の受診をやめてしまうと、また血糖値が高くなるおそれもある。

 Timmons氏は自分の体験について「糖尿病への取り組みは、必ず成果をもたらす。良くするために自分が決心しなければならない。実行が難しくても継続して取り組めば、その成果に驚くはずだ」と述べている。

糖尿病の爆発的な増加は「予測を大きく上回っている」
 米国の糖尿病有病数は今後25年で2倍になるという予測が発表された。米シカゴ大の研究者らが、米国糖尿病学会(ADA)が発行する医学誌「Diabetes Care」12月号に発表した研究によると、糖尿病とともに生きる人の数は2009年の2370万人から、2034年に4410万人とほぼ倍増するという。

 それに合わせて、より多くの糖尿病の医療負担が国民や社会にのしかかることになると、研究者らは警鐘を鳴らしている。肥満率が増加しない場合でも、糖尿病の医療費は1130億ドル(約10兆円)から3360億ドル(約30兆円)へと、約3倍に膨れ上がると予測。さらに、「メディケア」(米国が運営する公的な医療保険)に加入し医療サービスを受ける糖尿病患者の数は820万人から1460万人までに上昇し、メディケアの支出は450億ドル(約4兆円)から1710億ドル(約15兆円)に跳ね上がるという。

 「食事と運動など生活習慣を変えるか、より効果的でそれほど費用のかからない予防法や治療法を見つけないかぎり、人口増加に合わせて、我々はより多くの困難を抱えることになる」とシカゴ大学医学部のElbert Huang氏は話す。

 過去に発表された研究でも、糖尿病有病数の増加は指摘されていたが、現状はそれらの予測を大きく上回っており「糖尿病は爆発的に増えている」という。

  • 1991年の研究では、米国の糖尿病有病数は1987年の650万から、2030年までに1160万と2倍に増えると予測されていた。しかし実際は、2009年時点ですでに予測の2倍以上に増加した。「このことは“糖尿病の予防と教育”が重要であることを強力に示唆している」と論文の著者は強調する。「たとえ薬物療法が進歩したとしても、生活習慣、運動、食生活を改善することは依然として困難なままだ」。

  • 1998年の研究では、米国の糖尿病有病数は2025年までに2200万人に増加すると予測された。「糖尿病のサーベイランス(監視)を世界的に行うことは、予防とコントロールに向けて最初の一歩を踏み出すものとして必要だったが、現在では緊急に最優先するべき事項になった」。

  • 2001年の研究では、2050年までに2900万人に増えると予測された。研究者は「以前に考えていた以上に増加しており驚いている。糖尿病はすでに経済的な脅威になっている」と述べている。

  • 糖尿病と診断された米国人の数は1994年の1000万から、2000年には1400万に、2007年には1900万に増えた。年間の医療費は薬剤費に限っても、2001年は67億ドルだったのが、2007年には125億ドルと6年で2倍になった。
 この研究はノボ ノルディスク社の「The National Changing Diabetes Program」から資金提供された。中心となった米シカゴ大学の研究者は米国立糖尿病・消化器病・腎疾患研究所(NIDDK)の共同研究者でもある。

As America Earns Failing Grade, American Diabetes Association Launches Movement to Stop Diabetes(米国糖尿病学会)
Diabetes cases to double and costs to triple by 2034(シカゴ大学)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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