糖尿病「ねほり はほり」
2009年03月09日
腎臓専門医との連携とCKDステージ
糖尿病腎症も進行抑制や改善が不可能ではない
糖尿病腎症が透析導入の原因疾患のトップに躍りでただけでなく依然増え続けていますが、糖尿病腎症の治療に関しては決して悲観的な材料だけではありません。たとえば、顕性腎症期であっても集学的治療を行うことによって進行抑制、なかには寛解も起こるという腎臓専門医の治療実績がどんどんでてくるようなりました。
私自身の臨床経験でも血圧管理を厳重にすることで進行抑制や病状改善をみることが少なくありません。常々申しあげていますが、糖尿病患者さんに家庭血圧、特に起床時の血圧を測ってもらい日本高血圧学会の家庭血圧基準値*まで降圧治療しておくことが慢性腎臓病(CKD)予防に必須だと思います。そして、診療時には毎回検尿(尿蛋白測定)を行い、少なくとも2、3カ月に1回血清クレアチニンを測定します。ときどき、尿蛋白(−)のまま血清クレアチニン値が上昇することがありますが、これは腎血管性の別の障害が考えられ、その方向から腎臓専門医と連携した検査・治療が必要です。
糖尿病腎症の病状進行は「つるべ落とし」だといわれた時代はもう終わっています。
*若年者/中年者125/80mmHg未満、糖尿病・CKD・心筋梗塞後患者125/75mmHg未満、脳血管障害患者135/85mmHg 未満、高齢者135/85mmHg 未満(早朝起床時を含め1日中これらの血圧値以下であることが望ましい)
微量アルブミン尿をみたら腎臓専門医との連携を開始
現段階では腎臓専門医の治療実績をとりいれ透析導入を長期間遅らせるということだけでも大きな成果が期待できますが、この成果をさらに高めるとすれば全体に治療計画の前倒しをはかることでしょう。そのためには3カ月から半年に1回微量アルブミンを測定しアルブミン尿の早期発見に努めます。
アルブミン尿を認めたら、多くの場合その患者さんに糖尿病腎症の存在が考えられ、末期腎不全(ESRD)に至る可能性、心筋梗塞や脳梗塞などのCVD(心血管疾患)が発症するリスクが上昇する**可能性もあるので、腎臓専門医との連携(紹介にはじまる)による積極治療を開始します。また、血清クレアチニン値と年齢から糸球体濾過量推算値eGFRを求め、CKDステージに当てはめて、病期にあわせた治療と専門医との連携の取り方を確認します。
**血糖正常者に比べ、リスクが糖尿病で3倍、腎不全期(CKDステージ4)で10数倍とされます。
日本腎臓学会「日本人のGFR推算式(成人の場合)」
日本腎臓学会の糸球体濾過率(GFR)による「CKDのステージ分類」と「CKD診療ガイド」は、専門以外の医師にとっても歓迎すべきもので今後の普及が期待されます。
しかし、糸球体濾過率(GFR)による病期判定は腎臓の専門医ならごく普通に扱えるものの、専門外の医師にとっては測定に手がかかりすぎるし患者の負担も大きく、保険適用のこともあるので勢い血清クレアチニン値で済まさざるをえません。しかし、性差はともかくとして、肝心の高齢者の評価が、筋肉量などが反映されないことからうまくいかず苦労したものです。そこで、血清クレアチニン値にMDRDのGFR推算式を使いGFRを代用することが多くなりました。さらに2008年3月には「日本国内の医療機関での計測にもとずく日本腎臓学会「日本人のGFR推算式(成人の場合)」が公表され、信頼度の高いツールになりました。
eGFR(女)=eGFR(男)×0.739
eGFR:糸球体濾過量推算値
Scr:クレアチニン値
age:年齢
ただ、推算式そのものはルーチンでは使いにくいので、血清クレアチニン値からのGFR推算用「腎機能推定ノモグラフ」と「eGFR男女・年齢別早見表」が日本腎臓学会によって公開されていますから糖尿病診療には常備しておきましょう。
日本腎臓学会 腎機能推定ノモグラムと早見表(新式)
医療者と患者が協力し透析導入を遅らせる
微量アルブミンがある患者さんは一度腎臓専門医の外来受診してもらい、腎臓専門医と連携を取り合うようにすべきです。専門医による患者の病状の把握によってかかりつけ医の行う役割をより明確なものにします。早い時期から腎臓専門医の治療ノウハウを診療に生かすことで糖尿病腎症の進行をとめたり、透析導入を遅らせることにつなげることが出来ます。
一昔前まで糖尿病腎症はなかなかとまらないと思っていたものですが、ACE阻害薬やARBさらには長時間作用型のカルシウム拮抗薬など多剤併用による血圧管理、病期にあわせた経口薬治療、インスリン治療などによって糖尿病腎症の進行抑制・改善だけでなく、蛋白尿の消失というご褒美をもらうことも起きるようになりました。患者さんのモチベーションを高め、血圧・血糖の管理、そして食事療法をよく相談しながら、病態を改善し、透析導入を遅らせるということができるようになります。
病期ステージ | GFR(mL/min/1.72m2) | 重症度の説明 | 治療の目的(腎臓専門医との連携) |
90以上(CKDのリスクファクター有する状態で) | ハイリスク群 | ||
ステージ1 | 90以上 | GFRは正常または亢進 | 専門医と協力して治療(一般医>専門医) |
ステージ2 | 60〜89 | GFR軽度低下 | 専門医と協力して治療(専門医>一般医) |
ステージ3 | 30〜59 | GFR中等度低下 | 専門医と協調した治療(専門医>一般医) |
ステージ4 | 15〜29 | GFR高度低下 | 原則として専門医での治療 |
ステージ5 | 15以下 | 腎不全 | 専門医による治療 |
血圧:130/80mmHg未満(蛋白尿1g/day以上は125/75mmHg未満)
減塩:ステージ2まで高血圧がある場合6g/day以下、ステージ3以降6g/day以下
HbA1c:6.5%以下 □BMI:25以下 □禁煙:全ステージ
日本腎臓学会CKD診療ガイド、「CKD診療ガイドー治療のまとめ」「CKDのステージ分類」より抜粋
病期 | GFR (mL/min) | 尿蛋白 | ミクロアルブミン (mg/gCr) | 血清クレアチニン値 (mg/dL)* | 治療法 | |
第1期 | 腎症前期(2期以降を除く全ての糖尿病患者) | 正常-高値 (>90) | (−) | <20 | 男性<0.9 女性<0.7 | 代謝コントロール 血圧を正常化する (減塩食) |
第2期 | 早期腎症 | 正常-高値 (>90) | (+−〜+) | 20〜300 | 1.2>男性≧0.9 0.9>女性≧0.7 | 代謝コントロール 血圧を正常化 (血圧自己測定、減塩食) |
第3期A | 顕性腎症前期 | 60〜89 | (+〜++) 蛋白尿 <1.0g/日 | >300 | 1.4>男性≧1.2 1.0>女性≧0.9 | 代謝コントロール 血圧の正常化 (血圧自己測定、減塩食、減蛋白) |
第3期B | 顕性腎症後期 | 30〜59 | (+++) 蛋白尿 ≧1.0g/日 | 2.0>男性≧1.2 1.6>女性≧1.0 | 代謝コントロール 血圧の正常化 (血圧自己測定、減塩食、蛋白制限) |
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第4期 | 腎不全期 | 15〜29 | (+++) | 3.9>男性≧2.0 3.0>女性≧1.6 | 代謝コントロール 血圧の正常化 (血圧自己測定、減塩食、蛋白制限) |
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第5期 | 透析期 | <14 | 男性>4.0 女性>3.1 | 血液透析 (準備期を含む) |
糖尿病学会と腎臓学会との連携から
1990年代前半だったと思いますが、当時腎臓学会の理事長をしておられた長澤俊彦先生に、「腎臓の先生は糸球体腎炎中心の診療でなかなか糖尿病腎症を診てくれない」とお話したところ、「糖尿病の先生は糖尿病腎症の患者さんをあまり紹介してこない」というご返事でした。これはまずいということになり、その後「日本糖尿病学会・日本腎臓学会糖尿病性腎症合同委員会」を設け、定期的に話し合うようになり腎臓専門の先生との連携も大いに進展することになりました。微量アルブミン尿の注目する「糖尿病性腎症の早期診断基準」や「糖尿病腎症生活指導基準」が取りまとめられるなど成果も大きかったと思います。
そして、日本腎臓学会の慢性腎臓病(Chronic kidney Disease, CKD)の概念で病期の判定を統一した「CKD診療ガイド(2007年)」ができて、糖尿病医あるいは一般かかりつけ医と腎臓専門医の連携がさらに進むと思います。上記「糖尿病腎症生活指導基準」など糖尿病腎症との細部にわたるすり合わせが更に進むことを期待したいものです。
※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。
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