糖尿病「ねほり はほり」

2006年10月05日

早期糖尿病の進展抑制に関する
無作為比較臨床試験(JEDIS試験)(1)

日本糖尿病進展抑制研究会(JEDIS)設立について



「JEDIS」のシンボルマーク

 今回の試験計画は、日本糖尿病財団(平成3年設立)が十周年を迎え、この節目に世の中に役立つ研究事業を始めようと関係者で考えたのが発端でした。

 IGT(境界型、糖尿病になる前)患者を集めて発症予防の大規模研究をしたものには、DPP(アメリカ)、STOPNIDDM(カナダ)などがあり、いずれも糖尿病と診断されていないが、代謝異常の少しある対象者からの糖尿病発症を予防しようというものでした。しかし、IGT状態の対象者のなかには糖尿病になる人とならない人がいます。糖尿病になる人は遺伝子素因に加え生活習慣の問題などからなるべくして糖尿病になっていくようで、複雑な構成のIGT状態者全体と糖尿病になる人の間に線引きすることは困難です。このような複雑な対象を観察することはなかなか難しく、結果の意味づけも難しいことになります。

 今回のプロジェクトは、「糖尿病と診断されても、初めからHbA1c値を6から6.5%未満の間に長い間維持すれば、糖尿病の合併症を起こさない」という長年の臨床経験仮説に基づいています。

 そこで、糖尿病と診断された患者さんの代謝状態をこの範囲内でずっと維持することができないだろうか? 医療者としては生活習慣指導や薬剤を用いて、どうしたらその範囲内に押さえられるかというテーマを考え、このような進展抑制研究ついての大規模試験はまだ国内外で行われておらず、是非キチンと実証する必要があるということで、当時の小坂樹徳財団理事長を中心にした会合で話し合われました。

 このように糖尿病を初期状態に抑え込むことができれば、糖尿病合併症が激減し、患者さんが合併症に苦しむことも少なく、普通の健康者と同様に健やかな長寿を全うできるようになると思われます。

糖尿病進展経過とJEDIS研究


 その後、糖尿病財団関係者の間で検討を進めておりましたが、糖尿病財団の行う研究事業には一定の財政的な枠が定められていて、この計画が少なくとも十数億円の資金を必要とすることから、糖尿病財団自体が直接行うことができないという結論に達しました。そのため、糖尿病財団の外に財団の目指す研究目的を達成する研究組織をつくることになり、葛谷健研究統括としてその元に識者をあつめ「日本糖尿病進展抑制研究会」を立ち上げ、先ず最初に「早期糖尿病の進展抑制試験」を取り上げた次第です。


 この試験計画では、過去に糖尿病と診断されたことがなく、HbA1cが5.5〜6.9%、空腹時血糖(FPG)が100〜125mg/dLあるいは随時血糖値(CPG)が140〜199mg/dLの範囲にある30〜69歳の方々に広く参加をお願いして、参加の文書同意を得られた方に75g経口糖負荷試験(75gOGTT)を施行または過去3ヵ月以内に75gOGTTのデータを持つ方はそれを代用して、2時間血糖値(2-hPG)が200mg/dL以上を示す患者(IPHパターン型の糖尿病型)を仮登録します。そして、本登録までの3ヵ月以内の間、その施設で行われている通常の生活改善指導を開始します。

 その後75gOGTT、HbA1cなどの再検査を経て新規糖尿病と診断され、対象基準や除外基準に適合する人を被験者として本登録します。

 登録された被験者の方々に、既に糖尿病治療薬として定評を得ており初期糖尿病の進展抑制が期待される薬剤を少量投与する3つのグループと体重、血圧、運動消費カロリー(精密歩数計による)を駆使した生活習慣改善指導をうけるグループを比較検討いたします。さらに、これらの各グループを肥満グループ群と非肥満グループ群ごとに比較をします。即ち、群間非盲験無作為化比較試験(PROBE法)で2010年12月まで試験治療介入を行うというものです。

 副次的に一部対象者には自己血糖測定をしていただき、血糖の自己管理をする比較試験の挿入も行われます。

 実施にあたっては全国を11ブロックに分け、各々のブロックで中心になっていただく先生方がその地域の糖尿病の専門医、非専門医、専門施設などをとりまとめ、質の高い糖尿病治療管理で、この試験計画をフォローしていただくことになりました。是非、多くの患者さんの参加と医療関係者方々の協力を得て成功させたいと念じています。

 この試験計画が、糖尿病初期治療の有効性を裏付けるとともに、糖尿病重症化を阻止し糖尿病の患者さんの多くが糖尿病合併症に苦しむことからを解放し、合併症の医療費ひいては我国の総医療費抑制につながることを期待するものです。

 次回は、試験計画の内容を更に詳しく説明いたします。

[ DM-NET ]

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

Copyright ©1996-2024 soshinsha. 掲載記事・図表の無断転用を禁じます。
治療や療養についてかかりつけの医師や医療スタッフにご相談ください。

このページの
TOPへ ▲