糖尿病「ねほり はほり」
2006年03月15日
初診は「ねほり はほり」
私の糖尿病の初診とそれにまつわる話を思いつくままに話してみましょう。
私の糖尿病外来での初診患者さんは、検診で糖尿病が疑われた方は少なく、大部分が主治医の先生から紹介されて来られる方です。
初診で患者さんとのコンタクトが十分とれたかどうかが、その後の診療に大きく影響します。そこで、患者さんのご機嫌がいいか悪いかなどようすをみながら、できるだけ「ねほりはほり」聞いているうちに結局30分位はかかってしまいます。紹介状から血糖値が少し高いか、とても高いかを確認して診察をはじめます。
糖尿病といわれてからどの位になるか聞く
身体所見をとる
- 肥満度のチェック:
体重、身長を聞きBMIを計算します。2型はやや小太りの方が多く、1型は太っている方も居ますが一般的にやせている方が多いです。 - 年 齢:
私の外来では中年の方がもっとも多く、高齢者の方も少なくありません。40代50代の仕事が忙しい男性は治療が難しいケースがとても多いです。 - 性 別:
一般に女性の方が食事を作るケースが多いので、食事療法の指導に性別による違いがでてきます。男性の高齢者の方の場合は女性の同伴受診が多く、予後の好結果に結びつきやすいです。独身の高齢男性もよくやる方が案外多いです。ちょっと意外かもしれませんが、いわゆるおばあちゃん、高齢女性の方の治療がなかなか難しいことが多いです。 - 病 歴:
20歳頃の体重と一番太った時期は何歳でどの位の体重であったかを聞きます。糖尿病はどうやって見つかりましたか? 家族に糖尿病の方はいますか? 酒は飲みますか? たばこは? そして職業などを聞きます。
糖尿病の治療は継続が要
なかには、定年になった人で時間が有り余まっていて、奥様にもなにか運動でもしたらといわれていた。糖尿病治療が本人ともども喜ばれ、2、3カ月食事を見直して、運動を増やしただけで血糖が正常化してしまうというようなケースもありますが、いずれにしても糖尿病の初診は大切です。念入りに、そして初診時に患者さんをずっと糖尿病の治療に引き留めておくようにしなければいけません。よくなっても糖尿病はすぐまた頭をもたげてきますから、糖尿病の治療は必ず継続しなければならないことを話します。私は「糖尿病を甘く見てはいけません。糖尿病を悪くして血液透析(人工透析)を受けるようになる人が年間1万4000人おられるし、その増加分の医療費だけで700億円になっています。合併症が起こって糖尿病の医療費がどんどん増える原因とならないように是非協力してください」などとお話することもあります。
再診日を必ず確認する
私は初診でこられた方は、できるだけ2週間後にきていただくようにしています。あまり短くすると初診後の成果がでてこないという欠点もあります。
試験紙の利用
開業医の場合は初診料に入ってしまいますが、タンパクが見られる試験紙で尿を必ず調べておくといいですね。微量アルブミンでなくてもタンパクの有無がわかればいい。
タンパクが+になっていれば尿中アルブミンの排泄量は100mgアルブミン/gクレアチニン位になっているし、+−くらい、でたり引っ込んだりしている場合は微量アルブミン状態で、−であれば尿中アルブミン排泄量はかなり低いと見なします。
初診でケトン体を測っておくと、治療の参考になります。ケトンが(1+)位出ていても「それ、ケト・アシドーシス」と取り立てて慌てる必要はありません。太っている人では尿ケトン+あるいは血液中ケトン値上昇は体脂肪が原因です。しかし痩せて体脂肪が少なそうな人でケトンがでている場合、その原因がインスリン分泌がかなり少なくなっていること(1型糖尿病)を考える必要があります。
できれば、胸部写真、心電図は取っておいた方がいいでしょう
診 察
一般的には頚動脈音を聞き、甲状腺をふれてみて心臓の聴診をして問題なければ、次に血圧をはかります。あとはお腹で肝臓を触れて診ます。そして、少なくとも神経反射を診ます。できれば知覚異常にも注意したいですね。アキレス腱反射がいいですが、膝蓋反射もだいたい同じでしょう。両方診るといいですね。反射が出なければ罹病期間が長いと考えていいでしょう。
むくみの有無も診ておきます。
初診時は靴下を脱いでもらって足も診ます。C64の音叉で半定量的に振動覚を診ます。フィラメントでの知覚検査も出来ればいいですね。若い女性では靴下が上までつながっていて苦労することもありますが、だいたい皆さん素直に脱いでくれます。
糖尿病の治療
このようなことで患者さんの状態を把握したら、次にこの2週間でどのようなことを患者さんに実行してもらうかを話し合いながら決めていきます。
まず食事です
1日2食だとか、1日3食でおやつを食べている人、柿の季節には柿がおいしいから1日2個位食べている人とか、バナナが大好きな人とかいろんな食事をしている人がいます。
でも、一律に規則を押しつけるようなやり方、たとえば間食をすべてだめといってしまうようなことをすると患者さんはとてもそんなことは出来ないと感じ、この先生は無理難題をいうからと関係が悪くなりがちです。私はとても太っていてかなり特別な食事制限が必要だなと思うとき以外は、まず日常の食事の輪郭を患者さん自身で知ってもらうことから始めます。
どんな食事を摂っていますかということを尋ね、口に入っているものは全て書き出してもらうのがいいですね。気づかないでカロリーの高いものをいかに沢山食べているかということがよくわかってもらえます。
まず油ものが多ければ控えてもらいます。そして、間食は「この程度に」と量を示します。
そして、塩分を控えてもらいます。「ごはんはあまり減らさなくていいですよ」ということが多いですね。だいたいこのごろはあまりごはんを沢山食べていないですね、ごはんだけ減らしているという患者さんが多いんですが、私はどんぶりめし2杯なんていう人以外はあまり減らすようにいいません。
外食ではカレーライスとハヤシライスは油が多いのでやめるようにいいます。家庭でルーを使わないヘルシーなカレーを作るなら別です。フライや天ぷらは今までの半分にします。衣を除いて食べるのは必ずしも現実的でないですね。
そして最後に「1日に食事は3回摂ってください」といいます。
運動についてはともかく体を動かす習慣をつけて貰います
基本的には「日常生活で歩いている他に1日30分歩いてください」といいます。
「30分がだめなら当面15分でもいいです」ということもあります。
そうすると、膝が痛いとか、腰が痛いというようないろいろな話が出てきますが、実際には弱っている筋肉を強くすることを勧めます。「腰痛体操をやりなさい」と「膝の大腿四頭筋を強くする運動をやりなさい」等、関節を支える筋肉のトレーニングを少しずつやってもらうようにいいます。大抵の人がこれでいい状態に戻ります。 腰痛体操は、きわめて軽い腹筋の運動ときわめて軽い背筋の運動です。
膝の大腿四頭筋を強くする運動には、いすに座って足をゆっくり前に上げ下げするものと、何かにつかまって片足で立って、その足で屈伸運動をするものです。家のなかで出来ますから1日片足10回ずつ位からはじめてもらうと膝の痛みの改善に十分効果があります。
歩くときにはスポーツをするような気持ちでなるべく腹をしめ、背をのばし、ひざをのばし、カカトから地面に着くようにします。しかし、自分の体調に無理がない範囲で歩いてもらいます。ご婦人にはショッピング感覚でデパートで歩くアイデアをお教えすることもあります。階段は特に勧めません。お風呂屋さんに歩いていって入浴するのを勧めることもあります。このくらいの運動であれば体調が崩れることはありません。何かおかしなところがあれば負荷心電図などをとるとか、念のためにニトロペン等の亜硝酸薬を持ってもらうといいでしょう。検診で糖尿病がみつかた人は大体このくらいでいいように思います。私は紹介されて来られた人にも、いままでの薬などを継続してもらい、基本的に同じような内容でやります。食事と運動をうまくやると従来の薬でも、HbA1Cなどがどんどん下がること頻々です。
1カ月続けて貰うと大抵血糖値は下がって来ますので、「よくなりましたね」というと「頑張りました」、「ではもう1カ月続けてみましょうか」とつながればとてもいいです。初診後2週間でも効果を確認することはできます。一般的に血糖値のあまり高くない人は改善がわかりにくいですね。もし、血糖値が高いまま推移する場合にはある程度様子をみた時点で、食事より運動量を増やすよう指導します。たとえば、「朝30分歩きましょう、雨でも歩きましょう」というような具体的な課題を加えるように指導します。
運動は血清脂質改善にも役に立ちます。
血圧の高い方には塩分制限を改めて説明します
そして、高ければ投薬をはじめますが、いつも高いかどうかしばらく様子をみます。血圧は塩分制限だけでなく食事制限でもある程度下がります。
高い場合や尿に蛋白がみつかるような人には、お願いをして自己血圧測定をしてもらいます。最近は腕に巻くタイプの電子血圧計が7,000円位からありますので、家族の皆さんで使えるから投資してくださいとお願いします。来院したときの血圧は薬が効いていることが多く、また一般的に血圧は朝が一番高く薬の影響も少ない毎朝起床時に測ってもらいます。そして、その数値で経過をみます。
血圧の高い人には尿タンパクが出ていることが多いです。実際、尿中アルブミンの濃度の測定値の変化から、血糖が高く血圧の高い方は腎障害が起こっていることがわかります。 そして、治療によって、血圧を下げて、血糖値も下げ、微量アルブミン値も下がってきます。私は将来の糖尿病腎症への移行抑制の期待を込めて、血圧降下薬が必要な場合にはかなり積極的に処方をするようにしています。
検査値について
1カ月ごとにHbA1C(最大1カ月ごと)、その他のものは2週ごとに計れます(コレステロール、TG、血糖など)。今後の励みにしなければいけないからすぐに数値がでるといいですね。血清脂質はとても役に立ちます。
そして、私は検査値としてはGOT、GPTをよく計ります。これはある程度脂肪肝の有無を推定できるからです。正常ではGOTとGPTの値は同じくらいか、GOTがやや高いくらいですが、GPTが明らかに高ければ脂肪肝だろうと考えます。すくなくとの肝臓に追い出すべき脂肪が貯まっていると考えます。お酒を飲んでおられる人はγGPTを計ります。
病状の記録について
糖尿病の治療では、患者さんと生活全体に関わるお付き合いをすることになります。そこで、体重、血圧などが時系列で記録できる糖尿病健康手帳(日本糖尿病協会発行)などを持って貰い、適宜HbA1Cのグラフを作って説明したりして、病状の経過が患者さん自身に理解できるように工夫することが大切です。
糖尿病の合併症について
糖尿病合併症の進行が見られたらそれぞれの専門医に紹介して相談するのが原則的にはいいでしょう。ただ、患者さんの症状と主治医の責任を切り売りするという面もないわけではありません。眼科については初診時に必ず受診しておくようにいいます。紹介された方にも必ず確認します。また、肝硬変から血糖値があがっていると推定される場合などは消化器の特に肝の専門医にゆだねる必要があります。やせ気味で尿中ケトン値が高い場合と血糖値が500mg/dL以上ある場合は緊急に専門病院か専門医に紹介するのが一般的ですが、太っていて明らかに食生活に問題のある患者さんでは、血糖値が400mg/dLとか500mg/dLとか高くも食事療法だけでどんどん血糖値が下がります。
最後に患者さんにいっておきたいこと
ともかく「いちど糖尿病といわれたら絶対医者を離れるな」ということです。それは中断し放っておくと糖尿病は必ずしっぺ返しが来ます。住所が変わるなどして通院がむずかしくなったら必ず新しい主治医を今の主治医から紹介してもらい継続して診療を受けて下さい。薬ものんでなく大変いいですよと言われても通院を止めず、仮に先生に言われなくても3カ月に1回くらいは診て貰うことが大切です。お医者さんも患者さんがよくなったのでうっかり手を緩めるというようなことがないようお願いいたします。
私の患者さんにも代謝コントロールが上手くいかない方もけっして少なくありません。そんなとき、わたしの言い方と患者さんの受け取り方がずれてしまったかなと感じ、じっくり話しあって診療をつづけようと考える日々です。
※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。
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