糖尿病セミナー
29. 運動療法のコツ(2)
合併症のある人の運動
1997年7月 改訂
こんな運動がお薦めです
軽度の合併症がある場合の運動は、血圧や脈拍への影響が少ない軽い運動が基本になります(表の黄色の部分の運動)。どんな運動をどの程度の頻度で行うかは、その人の体力、合併症の程度、全身の状態によって、オーダーメードのメニューが組まれます。主治医の指示に従ってください。一般的には、早めの歩行あるいは自転車を中心とした、軽めの全身運動がよいとされます。こんな症状が現れたら
●動悸がしたり、脈が乱れる
●胸が痛む、締めつけられる
●関節や筋肉に強い痛みが走る
●気分が悪くなる
●目がかすむ
●めまいがする
●いつもと様子が違う(疲れ方が異常など)
●低血糖症状
合併症がより進行している場合、さらに慎重さが求められます(表の赤色の部分の運動)。例えばゆっくりとした散歩などがよいでしょう。脈拍に変化が現れない程度の歩き方でも、継続していけば体力の低下を抑えられますし、ストレス解消に十分効果が上がります。
血糖低下以外の効果も大切です
合併症がある人の運動療法は、軽度の運動を注意深く進めていく必要があるために、血糖コントロールということに限ってみれば、急激な効果は期待できない面もあります。しかし、運動療法の目的は、運動の直接的な血糖降下作用だけではありません。ここで、運動療法の効果を確認しておきましょう。
(1) 運動により体内のブドウ糖を消費し、血糖値が下がる
(2) 筋肉細胞のインスリンに対する感受性が高まり、血糖コントロールが良好になる
(3) 血圧が低下する
(4) 血液の循環が良くなる
(5) 脂肪を消費したり燃焼しやすい体質になり、動脈硬化の進行を防止する
(6) 心臓や肺の機能を高めたり、脳・心臓血管の病気を予防・改善する
(7) 体重が減少する
(8) 足腰が強くなり骨量減少や老化を予防する
(9) ストレスが解消され気分が晴れやかになる
(10)体力がついて身体の動きが楽になり、日常生活が快適になる(QOLの改善)
運動には、このようなメリットがあり、合併症があっても多くの効果を得られます。それらの効果の結果、運動量を少しずつ増やすことができれば、さらに大きな効果が生まれます。寝たきりになるのを防いだり、生命予後(寿命)にもよい影響を与えます。血糖コントロールについては、急激な効果を期待するのではなく、1年あるいは2年といった長い目でみれば、必ずよい影響が現れます。
運動による低血糖・高血糖
運動により低血糖を起こしたり、逆に血糖値が上昇することがあります。運動と血糖値は、表のような関係にあります。血液中のインスリン量が正常なら、筋肉が消費した量と同じ量のブドウ糖が肝臓で作られ、血糖値は正常範囲内の変動に収まります。
ところがインスリン療法をしている人が、血液中のインスリン量が多過ぎる状態で運動すると、筋肉で消費したブドウ糖に見合う量のブドウ糖が作り出されず、低血糖を起こします。これは、インスリンが肝臓のグリコーゲン分解・ブドウ糖生成※を抑制する作用をもっていることと関係しています。逆に血液中のインスリンが少ないと(高血糖状態)、筋肉であまりブドウ糖が消費されません。ところが肝臓は運動量に合わせてブドウ糖を作るため、血糖値がさらに上がってしまいます。
運動と血糖値のこういった関連を理解して、安全に運動療法を続けていってください。
※グリコーゲン分解・ブドウ糖生成
食べたものに含まれる糖分は、消化・吸収されてブドウ糖となり肝臓に送られます。肝臓はブドウ糖をグリコーゲンに作りかえて保存しておきます。身体活動により筋肉でブドウ糖が消費されると、肝臓はグリコーゲンを分解し、再びブドウ糖として血液中に放出します。
運動と血糖値の関係
必ず定期的な検査を
運動が合併症に悪影響を及ぼしていないか、運動の強度が適切かどうかといったことを確認するために、定期的に検査を受けることが大切です。検査の際には医師に、普段どの程度の運動をどのくらいの頻度で行っているのかを伝えてください。運動療法を開始して3カ月ほど経過してから受けた検査で病状が悪化していれば、それは運動療法のマイナス面の影響と考えられますので、運動メニューの変更が必要です。
また、血圧や血糖値の上昇など、運動を始める前にはなかった変化が現れたら、運動を中止してすぐに主治医に相談してください。
まとめ
・合併症がある場合、運動療法が逆効果になることがある・必ず医師の指示を受けて適度の運動強度・量を守る
・定期的な検査を欠かさない
・異常を感じたら運動を中止し、主治医に相談する
・運動療法の意味・目的を広くとらえ、適切な範囲内の運動を気長に続けることが大事
・運動の継続によって、糖尿病の治療に限らず、ほかの病気の予防・改善、老化防止などに多くの効果が生まれる
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