糖尿病セミナー

24. 動脈硬化と糖尿病 メタボリック シンドローム(内臓脂肪症候群)

2017年9月 改訂

監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
住友病院院長 松澤佑次先生


糖尿病のもうひとつの合併症

 糖尿病の合併症といえば、網膜症、腎症、神経障害の、いわゆる三大合併症がよく知られています。これらは高血糖により、細い血管が傷められることが大きな原因です。しかし、高血糖の影響は細い血管だけではなく、太い血管にも、動脈硬化というかたちで現れます。
 動脈硬化の原因は、高血糖のほかに、高血圧や脂質異常症(高脂血症)などがありますが、糖尿病の人はこれらの病気を併発することが多く、動脈硬化がより進行しやすくなっています。動脈硬化は、糖尿病のもうひとつの合併症なのです。

動脈硬化という病気

日本人の死因

厚生労働省「平成28年 人口動態統計」より

 動脈硬化は、血管の壁が硬く変化して血管が細くなり、血液が流れにくくなる病気です。血流が途絶えると、そこから先へは酸素や栄養が行き渡らず、細胞が活動できなくなり、ついには細胞が壊死します。狭心症や心筋梗塞などの心臓病や脳梗塞は、動脈硬化が原因で、心臓や脳の細胞が働かなくなることから発症します。
 日本人の死因の第1位はがんですが、2位と4位は心疾患、脳血管疾患が占めています。動脈硬化が人の命を左右する、大変重要な病気であることがわかります。また、糖尿病の合併症のひとつに足の壊疽がありますが、この発症にも動脈硬化が関係しています。

動脈硬化の危険因子

 動脈硬化を引き起こす要因を危険因子といいます。危険因子には、糖尿病のほかに、高血圧、脂質異常症、肥満、喫煙、ストレス、性差(男性)、加齢などがあります。このうち、糖尿病、高血圧、脂質異常症は、互いに絡み合って動脈硬化を進行させます。これらはいずれも自覚症状がないまま進行する病気で、治療をせず放置してしまうことが少なくありません。気付かないうちに突然、生命を脅かすような状態を招きかねないため、サイレントキラー(静なる殺人者)と呼ばれることもあります。
 糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満が動脈硬化の進行にどの程度影響しているかを調べた調査研究の結果から、これらが単独で発症した場合でも、動脈硬化の発症率は5〜6倍になり、四つの条件が揃っている場合、発症率は35倍にも高まることがわかりました。糖尿病の人は、高血圧や脂質異常症にも注意しないと、動脈硬化が加速度的に進行してしまうことが示されているのです。

内臓につく脂肪が大敵

 糖尿病と高血圧、脂質異常症、肥満が、互いに関連し合い動脈硬化を進展させる「マルチプル リスク ファクター(多重危険因子)症候群」は、これまで"死の四重奏"、"シンドロームX"などと表現されていましたが、今では「メタボリック シンドローム」という名称に統一されています(下の表参照)。
 この症候群のキープレイヤーとしては、インスリンに対するからだの反応が悪くなる、いわゆるインスリン抵抗性が重要視されてきましたが、今ではインスリン抵抗性の上流にある内臓脂肪の蓄積が重視されていて、「内臓脂肪症候群」と呼ばれることもあります。
 では、内臓脂肪とは一体何なのでしょう。

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