眼科医からみた失明しないためのアドバイス

なんと失明していた目が回復

網膜症の進行に気がつかずに

 今年で糖尿病歴25年になる御代弘次さん(58歳)が、日比野先生のクリニックを訪れたのは去年のことだ。他院で白内障の手術を受けた左目が、手術後もかすんだ状態が続き、困り果てていた。
 御代さんは、NIDDMの患者さんで、糖尿病網膜症(増殖型)と腎症を合併していた。糖尿病の治療は、食事療法のみ(一時期経口剤も使用)だが、11年前からは人工透析も受けている。糖尿病網膜症は44歳のとき眼底出血がきっかけで発見されたが、すでに手遅れで、右目は失明、左目は視力0.3 と宣告された。
 その後、わずかに残った左目の視力をもう少し改善できないものかと、いくつかの病院や医院を回り、何回かのレーザー治療を受け、1年前には白内障の手術も受けた。そうした積み重ねで左目の視力は0.8まで改善したが、今度は白いかすみが出てきたというのが、御代さんの経緯だ。

0.6の視力がよみがえった

 そこで日比野先生は、まず左目にレーザーをし、めがねをあたらしくつくり変える。その結果、視力は1.0にアップし、白いかすみもすっきりと晴れた。喜ぶ御代さんに、日比野先生は、さらに驚くべき提案をする。失明している右目も、白内障の手術をしようというのだ。御代さんはだめでもともとと、手術を受けることにした。ひと月後、期待と不安の交錯する中で、右目の手術が行われた。そして、信じられないような話だが、何と13年ぶりに、失明していた右目に0.6の視力がよみがえったのだ。

血糖の安定で手術が可能に

 なぜ増殖網膜症で失明した目が、白内障の手術で視力を回復させることができたのだろうか。日比野先生の考えはこうだ。
「13年前の御代さんの右目は、新生血管の増殖活動が盛んで、硝子体出血を起こし、失明同然になったと思われます。でもその後、人工透析をしたり、食事療法に気をつける生活に変わったために、まず血糖コントロールが安定し、以前受けたレーザーの効果も加わって、現在の右目の網膜は、損傷はあるものの、網膜症の増殖活動は終息していました」。

白内障の手術の効果にかけた

「ただ白内障があったので、失明の原因が100%網膜症によるものではない可能性も考えられ、その割合を、かりに網膜症7割、白内障3割とすると、網膜の部分は無理でも、白内障の手術をすれば、3割程度の視力は回復できるとみたわけです」。
 そして、その可能性は現実のものとなったのだ。
 では、もう一方の左目は、どんな治療をしたのだろう。「白内障の手術後には、後発白内障というのがよく起きます。御代さんを悩ませた左目の白いもやは、まさにそれで、ヤグレーザーという特殊なレーザーを使って消滅できました。このレーザーは、網膜症の治療に使われるレーザーとはちがう種類で、後発白内障を瞬間的に治せるものです。あとは、レーザー後に変化した度に合わせて、あたらしいメガネをつくったというわけです」。

血糖コントロールのみごとな効果

 御代さんは、糖尿病治療の優等生ではなかった。治療を放置した時期も長く、お酒もたくさん飲んできた。だから、糖尿病網膜症にもなり、視力も大きくダウンした。ただ、透析になってからは、外食をやめ、お酒もやめ、決まった時間に食事をとるようになった。
 そうした努力と透析の効果が、血糖コントロールを安定させ、手術という機会を得て、ここまでの回復を可能にしたのだ。13年間の失明状態に耐えて、御代さんの右目の細胞たちは奇跡の復活をとげた。その回復力のたくましさ、生命力の強じんさは、やはり感動的ですらある。
 日比野先生は言う。「やっぱりあきらめないことですね。治療が成功するかしないかは、個人差もあるし、やってみないとわからない部分がたくさんあるんですよ。みなさんも、希望をもって治療に努めてください」。

もう交通事故とはさよならだ

 両眼が見えるようになった御代さんにとって、なにが一番よくなったのだろうか。「やっぱり視野が広がったことだね。自転車に乗ってもまわりがよく見えるし、交通事故にあう心配がなくなったことですよ」。御代さんは何度も交通事故にあっている。死ななかったのが不思議なくらいだ。右から来る車が直前に来るまで、まったく見えないからである。右目が失明するということは、そういうことなのだ。でも、これからは、そうした心配はもうしなくてよくなった。

ロービジョンケアとは?

 ロービジョン(低視力)とは、糖尿病網膜症などの病気で、ほとんど視力や視野が損失してしまった状態をいうが、完全な失明とはちがう。特別につくられた拡大鏡や拡大読書器、遮光レンズなどの視覚補助具の中から、その人の視力に合ったものを選び、わずかに残る視力や視野を生かせば、あきらめていた本や新聞が読めたり、散歩もできるようになる。そうしたことをできるようにする訓練を、ロービジョンケアという。その訓練をしてくれる医療施設は日本ではまだ少ないが、少しでも能力の残る人にとってはうれしい存在といえよう。不幸にして中途失明になった方も、こうした補助具を上手に使って、あたらしい人生を歩みだしていただきたいものだ。日比野久美子先生も米国でこの分野の勉強をし、外来も開いている。

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(企画・構成 岩村有佑子)

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