生活の中にどう生かす
血糖自己測定

『生活エンジョイ物語 Vol.6-No.2(平成7年1月31日発行)』より

「血糖値を自分で測って自分でみること。
それが、患者さんをかえる原動力になります」

 血糖自己測定は、日常生活の中で患者さん自身が必要に応じて、小型の簡易測定器で血糖の日内変動を測定し、その情報を治療に生かすもので、現在、全国で約30〜40万人が行っているといわれます。そのほとんどが、健康保険が適用になるインスリン療法の患者さんです。しかし、ここ数年の簡易測定器の性能は画期的な進歩や価格の低下とともに、インスリンを使っていない患者さんの間でも、血糖自己測定を行う動きが広がり始めています。インスリン療法の有無に関係なく、積極的に血糖自己測定を導入し、成果をあげている松葉医院(神奈川県川崎市)を取材しました。
※血糖自己測定ついては6. 血糖自己測定とはのページでも詳しく解説していますので、ご参照ください。

積極的に治療に生かす動きが
どんな患者さんにもメリットがある
こんな便利なものがあるのか
毎日が発見の連続だった
食事だけでなく生活もコントロール
月1回しか測定しない不安
3カ月の体験で目安がつかめる
オーダーメイドの治療を実現する手段
可能性はまだ無限


積極的に治療に生かす動きが

 糖尿病の治療は、血糖のコントロールがなにより大切ですが、血糖の変動は自覚しにくいため、検査で調べるとしか方法がありません。加えて個人差もあるのて、的確な治療をするには、その患者さんの血糖の動きをいかに正確につかむかが、重要なポイントになります。
 しかし、一般的には月に1、2回の通院時に採血して得た血糖値をもとに、治療が行われています。従って、病状によっては月に1、2回のデータだけでは、血糖のコントロールが難しい患者さんが出てくるため、そうした場合に、血糖自己測定が行われています。しかし、血糖自己測定が健康保険の適用になるのは、インスリン療法者に限られるので、それ以外の患者さんへの血糖自己測定は、特別な場合を除いて、今まではあまり行われてこなかったというのが現状です。
 しかし、最近の簡易測定器の、操作の簡便化や採血時の痛みの軽減など、性能のめざましい進歩と価格の低下によって、血糖自己測定のもつメリットを積極的に治療に生かす医療者たちが出てきました。松葉医院の院長、松葉育郎先生もその一人です。

どんな患者さんにもメリットがある

 松葉医院では、希望者には全員、簡易測定器を貸し出して、血糖自己測定を治療に取り入れています。現在、32人が実施中ですが、うち20人はインスリン療法以外の人たちです。血糖自己測定をインスリン療法以外の患者さんが行う場合、どんなメリットがあるのでしょうか。
「血糖自己測定は、インスリン療法をしている、いないにかかわらず、どの患者身さんにもそれぞれにメリットをもたらしてくれるものなんです。なかでも私が一番効果的だと思うのは、糖尿病の初期で、病気についてまだわかっていない段階の患者さんです。そういう方々が血糖自己測定をすると、実生活の中で、自分の行動が血糖に及ぼす影響を目の当たりにすることができるので、治療に対する患者さんの姿勢がガラッと変わるんですよ」。松葉先生はこう語ります。
「たとえば、バナナは1本でも血糖値を急激に上げるとか、宴会の後はびっくりするほどの高値になるとか、運動が期待したほど血糖値を下げないといった、その患者さんがよく食べる食品の影響や行動の評価が、即座にできてしまうわけです。
 ですから、いちいち私から細かく注意しなくても、患者さんが自分でどんどん節制するようになるし、自己管理も自然と身につくようになります」。

こんな便利なものがあるのか

 森尻藪雄さん(63歳)が、血糖自己測定を始めたのは3年前。松葉医院に変わってからです。40歳で糖尿病と診断され、近くの内科に毎月1回通院し、経口剤を飲んできましたが、会社の健診で眼底出血が発見されて以来、治療に不安をもつようになり、60歳で会社を辞めてIE(製造技術)コンサルタントとして独立したのを機に、専門的に糖尿病を診てもらえる松葉医院に移りました。
「この医院にくるまでは、血糖自己測定の存在も知りませんでしたよ。でも、やってみるととてもよくわかるし、こんな便利なものがあるのかと、びっくりしました(森尻さん)」。
 森尻さんは現在、空腹時は110〜130mg/dL、食後2時間値は130〜180mg/dL、HbA1cは7%以下を維持できるようにコントロールしています。日常生活のチェックは血糖自己測定で、全体的なチェックはHbA1cでします。血糖自己測定を定期的に行うのは、月に3日、通院の前日に行っています。
「私の場合は、10日に1度通院するので、その前日の朝食と夕食の前後の計4回測定します。この時間帯には薬を飲むので、その効き目もチェックするためです。測定データの多少の上下はあまり気にしませんが、変動が大きいときや続く場合は、原因をみつけるために自己測定の回数を増やします。おかげでいろいろなことを発見しました」。

毎日が発見の連続だった

 森尻さんの最大の収穫は、血糖を上げる一番の原因が食べ過ぎにあることがわかった点です。「ご飯を一膳余分に食べたときは、血糖値が30mg/dL程度高いことに気づいたので、次はおかわりをせずに測ってみると、今度は30mg/dLぐらい下がっていました。私の場合は、ご飯一膳で30mg/dLほど血糖が上下することがわかりました。また、おかずでは、てんぷらが一番いけません。ふだんは160mg/dLくらいの食後2時間値が、てんぷらの後は300mg/dL近くに上がります。それで今は、てぷらのときは量を半分に減らして食べていす。今までわからなかったんですよね、こういうことが」。
「人間は他人からいくらこうしたらいいよとか、ああしなさいと教えられても、なかなか受け入れないんですね。自分でやって納得して、初めて行動を変えるようになる。ですから私は血糖自己測定を、インスリン療法や妊娠、手術などの特別な場合に使うだけではなくて、もっと拡大して、治療の基本である食事と運動療法を、確実に見につける手段としても活用したほうが効果も大きいと思っているわけです(松葉先生)」。

食事だけでなく生活もコントロール

 森尻さんの発見はまだ続きます。3月のHbA1cが7%を超えた原因は、正月の食べ過ぎにあったこと。去年の9、10月のHbA1cが高かったのは、夏の猛暑で運動不足が原因していたことなど、いろいろです。
「一番驚いたのが、会社を退職した後の血糖値の変化です。それまで200mg/dL台だったのが、100mg/dL台に下がっているんです。食事も減らしていないのになんで下がったんだろうと、先生に聞いてみたら、『それはストレスだったんだよ』という答えが返ってきました。確かにそれ以後は、心配ごとなどがなければ100mg/dL台を維持できているんです」。
 そういうことを知ってから森尻さんは、食事のコントロールだけでなく、仕事の仕方や生活全般まで、思い切って変えるようになりました。「夜遅くならないようにとか、疲れを翌日まで残さないとかね。仕事も生活もコントロールしてますよ。今は自営なので、仕事も自己管理ができますからね」。

月1回しか測定しない不安

「血糖自己測定をしていると、異常を早く発見できるので、適切な対応が素早くとれることも大きなメリットですね。たとえば森尻さんは経口剤療法ですが、とくにはっきりした理由がわからないまま、血糖値が上昇してくる場合があります。
 そんなときは、基本の食事や運動療法に何らかのゆるみがないか、まず生活を点検し、正してもらいますが、それでも改善しない場合は薬の量を増やしたり、別の薬に変えたりします。その場合も、新しい療法が本当に適切かどうかを、患者さんと一緒に自己測定のデータを確認、評価しながら行っています。
 やっぱり合併症を発症させないためには、こうした処置や対応がすぐにとれるかどうかが、カギだと思います(松葉先生)」。
「先生は非常にきめ細かなメンテナンスをしてくださるので、今はうまくコントロールできて、安心して生活しています。やっぱり月1回程度の通院の測定だけでは、ほんの“点”ですからね。それだけでは、先生だって病状がよくつかめなくて、適切な治療ができないんじゃないでしょうか。
 前の内科で網膜症が発症したのは、そんなことが原因じゃなかったのかと、今では思っています。よいコントロールをするには、1、2カ月に一度の測定では、やっぱり情報不足になる場合がありますね(森尻さん)」。

3カ月の体験で目安がつかめる

 松葉医院で血糖自己測定を初体験した患者さんも、3カ月程度でコントロールの目安がつかめるらしく、大半の人が半年以内で一応、自己測定を終了します。あとは、コントロールが乱れたり、別の療法に変えた場合などに随時再開して、調整の手段に使います。
 ただ、病状が軽い人は、以後は自己測定なしでも十分よいコントロールを維持できるようです。もちろん森尻さんのように、その後も血糖自己測定を続けて万全を期す、意欲的な人もたくさんいます。
 また、経口剤療法からインスリン療法に変わる場合も、血糖自己測定をしていれば、入院せずに外来だけの指導で、移行ができます。その方法で、入院せず普通の生活をしながらインスリン療法に移行した人が現在4人いますが、この人たちも、前に血糖自己測定を経験した人たちです。
 森尻さんはインスリン療法者ではないので、血糖自己測定の費用に健康保険は適用されません。医療費控除の対象にはなりますが、これには年間の医療費が10万円を超えた場合という条件がつくので、ここでは一応自己負担と考えて、その場合の森尻さんの血糖自己測定の費用はどの程度なのでしょう?

オーダーメイドの治療を実現する手段

「私は月にチップ(試験紙)を1セット(25枚入り)使う程度ですね。測定器もそれほど高いものでもないし、2、3年はもつので、かかっても年間数万以内といったところでしょうか。私は、自分の健康管理のための年間予算を組んでるんですよ。大事なのは、衣食住、プラス健康ですから」。
 森尻さんのお兄さんは、60歳でなくなっています。「実は糖尿病の合併症(肺血栓)だったんですよ。車を運転中に、肺血栓を起こして岸壁に激突して…。ですらか、少しくらいお金をかけても、自分の身は自分で守ろうと思っています。
 そういう決意があったから、先生は測定器を貸してくださると言ったけど、測定器も自分で買いました。でも、こんなありがたい器械は、もっと患者さんに広まればよいと、心から思いますね」。
 こうした話を伺っていると、血糖自己測定は、患者さん一人ひとりの病状や生活に合わせた、きめの細かい理想の治療、いわばオーダーメイドの治療を実現する、実に有効な手段だという気がしてきます。

可能性はまだ無限

「血糖自己測定のメリットは、活用の仕方でまだまだたくさんあるようですよ。先にも少しふれましたが、経口剤療法からインスリン療法に変えなければならない場合にも、自己測定している患者さんは自分の現状がわかっていますから、受け入れがスムーズですし、必要な技術も最低限ですむので、入院しなくても外来だけでマスターできます。
 また、どうしても食品交換表になじめない患者さんの場合でも、血糖自己測定ができれば、それだけでコントロールを正せる方法もあります。自己測定をしていると、血糖値を上げる食品は自然とわかるので、それを除いた食品の組み合わせ方やバランスの取り方を指導して、あとは血糖値が200mg/dLを超えると合併症がでますよと注意しておけば、患者さんも気をつけるので、結果としてHbA1cを下げることができるんです。
 もっといえば、毎日注意を守って、コントロールがちゃんとできている人は逆に、月に1回くらいは宴会に参加して、食欲に対するフラストレーションのはけ口をつくることも可能とかね。そんなたくさんの可能性を、これからも患者さんといっしょにみつけていきたいですね」。松葉先生は、そう楽しげに語ってくれました。


血糖自己測定でわかたった血糖値の動き(森尻さんの場合)
森尻さんはこのデータを目安に、生活をコントロールしておられます

森尻さんの一口アドバイス
 私の指示カロリーは1600。でもそれを目安にすると、実際はオーバーすることが多いので、1500を目安に食事します。すると、1600の範囲内におさまりますよ。

(企画・構成 岩村有佑子)

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