糖尿病セミナー

5. インスリン療法(2型糖尿病)

2015年9月 改訂

監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
順天堂大学大学院教授 河盛隆造先生


インスリン療法は特殊な治療法ではありません

 糖尿病は、インスリンという、膵〈すい〉臓から分泌〈ぶんぴつ〉され血糖値を調節するホルモンの作用が不足して、高血糖になる病気です。この状態に対して、インスリンを注射して補い、血糖値をコントロールするのがインスリン療法です。
 膵臓のインスリン分泌がほとんどなくなる1型糖尿病では、インスリン療法が治療の基本となり、生きるためにもそれが欠かせません。一方、2型糖尿病では、膵臓のインスリン分泌はいくらかは残っているので、インスリン療法をしなくても、すぐに命〈いのち〉にかかわるわけではありません。しかし、食事・運動療法や飲み薬による治療では血糖値を管理できない場合、また血糖値がとくに高い場合には、インスリン療法を行います。
 2型糖尿病でも、インスリン療法が必要なことは珍しいことではありません。国内でインスリン療法を行っている約100万人の患者さんのほとんどは2型糖尿病です。インスリン療法のことを、重症の糖尿病の人のための、最後の治療手段だと悲観的にとらえたり、わずらわしそうだと敬遠する患者さんがいますが、治療が進歩し、注射器具の改良が著しい現在では、そのような考え方はあてはまりません。

インスリン療法のめざすもの


インスリンは、分泌のしかたで基礎分泌と
追加分泌に分けて考えると、わかりやすい

 インスリン療法は、糖尿病のタイプや病状によって、治療の内容が異なります。
 膵臓からのインスリン分泌は、24時間ほぼ一定量が出続ける基礎分泌、食事などの血糖値の上昇に対応してタイミングよく出る追加分泌に分けられます。
 1型糖尿病では追加分泌も基礎分泌もほとんどなくなっていますが、2型糖尿病の場合、インスリン分泌力自体は比較的保たれていることが多いのです。しかし、分泌量が少なかったり、分泌のタイミングが悪い(食後に血糖値が上昇しても、少し間を置いてから分泌され始める)ため、高血糖になるのです。
 2型糖尿病のインスリン療法は、この残っているインスリン分泌力を効率よく活用し長持ちさせ、よりよい血糖コントロールを保ち続けることが目標です。

こんなときには、インスリン療法
◇飲み薬を服用しているのに血糖コントロールがよくない
◇薬の副作用・相互作用や内臓の病気で、飲み薬を服用できない
◇著しい高血糖で、すぐに血糖値を下げる必要がある
◇糖尿病以外の病気にかかったとき
(手術の前後や感染症にかかったときなど)
◇妊娠中(または妊娠希望時)・授乳中

インスリン療法の実際

 飲み薬のことを「飲むインスリン」と思っている人がいますが、それは違います。飲み薬は、膵臓に働きインスリン分泌を刺激したり、肝臓、筋肉などに働きかけインスリンの作用をよくします。血糖値がどのように変化するかは、病気の状態などによる個人差が大きく、同一人でも治療により変化します。
 それに比べてインスリンを直接補給するインスリン療法は、作用の強さやその効果をとらえやすく、血糖管理が容易です。飲み薬が効かなくて苦労を重ねた2型糖尿病の患者さんがインスリン療法に変えると、コントロールが良好になります。
 実際に、どんなインスリン製剤を用いて、どの程度の量をいつ注射するかなどは、主治医がその人の病状にあわせてきめ細かく指導します。したがって、ここでの治療内容の解説は、基礎的知識にとどめます。

インスリン療法の効果

●2型糖尿病の場合

追加分泌は低いが、基礎分泌はある程度保たれている2型糖尿病の場合、追加分泌の部分を超速効型や速効型で補うと、健康な人のインスリン分泌に近づけることができ、血糖値が改善します。

●1型糖尿病の場合

追加分泌も基礎分泌もほとんどなくなっている1型糖尿病の場合、その両方をインスリン注射で補う必要があります。追加分泌を補うのには超速効型や速効型、基礎分泌を補うのには中間型や持効型溶解インスリンを注射することで、健康な人のインスリン分泌に近づけることができます。

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