糖尿病と妊娠

2014年07月24日

知っているようで知らない事 ―胎児の成長―

 この連載14回において私は、大阪で開催されている大変有名で、熱心なVOXという1型糖尿病患者会の講演に招かれた時の経験を書かせて頂いた。

 そこで行われている活動の様子や、糖尿病患者さんの抱えている妊娠に関する問題の中で、議論や質問を受けた事項のうち、血糖自己測定、分食、血糖コントロール目標などについてお書きした。

 今回はその続きとして「知っているようで知らない事の一つに、胎児の成長がある」と伺ったのでその事を中心に書かせて頂こうと思っている。

 VOX活動を支えている中心人物の一人飯田智恵さんが、多くの患者さんに伺ってまとめて下さったテーマである。

受胎と妊娠

 受胎というのは,女性の一個の卵子と男性の2〜3億個の中から選ばれた一個の精子が結合して受精卵が出来ることから始まる。

 受精卵は細胞分裂を繰り返しながら、排卵の3日後に子宮腔に達すると言われている。

 この受精卵が子宮の内面に着床してようやく妊娠がが確立する事になる。

受胎から胎児への素晴らしい成長

 受胎後のお子様の成長は非常に早い。妊娠8週までのお子様の状態は胎芽とよばれ英語ではEmbryoという。それ以後は胎児と名が改められ、胎児は英語でFetusである。もちろんEmbryoとFetusは大きさも成長の度合いも違う。

 胎芽が分裂を繰り返し胎児となり人の形が形成されて行く過程を,教科書を読みなおしてみると、これほどまでに医学は進歩していながら、なお神秘に満ち、驚異的であることに感動で胸が熱くなる。

 例えば胎児の成長速度を重さで表すと、妊娠15週では1日に5g大きくなり、妊娠16週末では既に体重が約110g、妊娠20週末では300gほどに成長する。

 24週では1日15gから20g, 34週に達すると1日30〜35g大きくなって妊娠40週になると体重は3000g以上になると調査されている。

 骨については、妊娠12週末に既に全身の骨の大部分が固い骨の形成つまり骨化が始まり、上肢,下肢の指が分かれ,皮膚、爪が形成される。その上外観上男女の性別が解るようになって子宮内で自発的運動が始まる。

 胎児身長と頭部の比率を見てみると、大人では8等身といわれているが、妊娠2ヵ月末では頭部が大きく体の半分を占め、つまり2等身であるが、妊娠5ヵ月末には3等身、妊娠40週にはもう4等身になる事が記載されている。

奇形が起こりやすい器官形成期(妊娠4週から10週)

 ここで私が皆様にお伝えしたい最も大切な事は、妊娠4週から10週の時期が器官形成期と呼ばれ、受精卵から体の内蔵や手足など構造のすべての基礎ができて来る時期である。

 そして妊娠が正常満期産になるまで持続すると、ヒトとしての形が完成するわけで、生まれてから更に環境に即して大きく成長し続け特に脳は更に、更に成長,発展していくのである。

 この器官形成期は奇形をおこしやすい

 この時期は物質例えばある種の薬剤や放射能に対する感受性が非常に高い時期である。この時期にそれらの物質が、異常な量で作用すると奇形が形成されるわけである。

 糖尿病で母体の血糖コントロールが悪い場合高血糖が存在すると器官形成期には、特に奇形が発生しやすくなる。

 この時期以降は胎児成長期となるので形態異常は起こりにくくなるといわれている。

糖尿病母体から生まれる奇形は妊娠7週以前に発生する--ミルス--

 糖尿病の母体から生まれてくる子供の奇形に関するミルスの書いた有名な論文がある。彼はWHOの431764症例の中から7124例の奇形児を解析し、糖尿病母体から生まれる奇形は妊娠7週以前に発生する事を1979年Diabetes(糖尿病)という雑誌に報告している。

奇形を予防するには計画妊娠を!

 現在糖尿病と妊娠の分野で最も問題になっている奇形を予防するには、計画妊娠をして血糖コントロールを良くしてから妊娠するようにしましょうと、私が大声で叫んでいるのは,これらの論拠に基づいているのである。

献血で糖尿病の有無を知ることができる

 さらに日赤の献血事業を通して妊娠前に,糖尿病または糖代謝異常が無いかどうか調べた上で妊娠するようにしましょうというのもこの奇形予防を遂行するためである。

 折角生まれてくるお子様が健常である事を祈念して、この事実を脳裏に焼き付けて頂きたいと思っている。

参考文献 助産学診断・技術学II[1]妊娠期<助産学講座6>、医学書院、2013

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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