糖尿病と妊娠
2011年01月11日
抜群の大使賞(Distinguished Ambassador Award)受賞の栄誉
自分の受賞の事など書くと鼻つまみ物にされそうでいささか躊躇を感じますが、「一般の社会のなかでも、特に患者さんに取って大きな意義あることですからぜひ書いて頂きたい」という編集部のご好意に甘んじて、ここに報告させて頂く事にしました。
この“Distinguished Ambassador Award”は幾人かの人をのぞいて、恐らく誰も知らないと思います。“抜群の大使賞”“選りすぐれた大使賞”とでも訳せば良いのでしょうか。ヨーロッパ糖尿病学会の中にある「糖尿病と妊婦に関するStudy Group」が2010年に創ったものです。
ヨーロッパ糖尿病学会は、アメリカ糖尿病学会に次いで糖尿病に関する世界の権威ある学会であり1920年に作られました。ヨーロッパ糖尿病学会には、糖尿病の中でも殊の外その道の専門家ばかりの集まりの研究会であるStudy Groupというのが15あります。例えば糖尿病腎症に関するもの、糖尿病網膜症、神経症に関するものなどです。私は「糖尿病と妊娠のStudy Group」に属しています。この糖尿病と妊娠のStudy Groupは1969年(昭和44年)に作られ第1回がフランスのモンペリエで開催されました。
この“抜群の大使賞”は糖尿病と妊娠のStudy Groupが作った第1回目の賞であります。従ってこの賞を頂く事は、世界中で初めて選ばれた人になり、日本人でも初めて、女性でもはじめてということになり大変光栄な栄誉であります。ヨーロッパの医師でないと入会する事は出来ず、正会員による推薦によって初めて発表の機会が与えられるシステムになっています。
私が東京女子医科大学を卒業して医師になったばかりの昭和30年代はまだ、糖尿病があると危険だから妊娠をしてはいけないという風潮が社会一般に浸透していました。私は自身の悲しい死産の経験をもとに、糖尿病と妊娠の臨床と研究を樹立しようと決心し、独学でその道を開拓して糖尿病妊婦は年々増えていきました。人には、いろいろの恩師や指導者がいるものです。しかし、日本に糖尿病と妊娠の専門家はいませんでした。その道のリーダーになるためには、誰にも負けない勉強が必要でした。
私はある小冊子でヨーロッパ糖尿病学会の中に糖尿病と妊娠に関するStudy Groupつまり研究会が存在する事を知りました。そこですぐStudy Groupの創始者の1人であり、専門書「糖尿病妊婦とその新生児」の著者でもある、コペンハーゲン大学のヨルゲン・ペダセン教授に手紙をしたため、訪問しました。教授はこころよく研究会への発表を推薦してくださり、東洋の女性が糖尿病と妊娠の学問をしたいという希望と意欲をとても喜んでくださいました。そして先生の論文や資料など沢山ご恵与くださいました。1975年(昭和50年)の事です。
それ以来私は毎年この研究会に自費で参画し、研究発表をずっと続けて参りました。10年後の1985年(昭和60年)ヨーロッパ以外の国から初めての会員に任命されました。ヨーロッパ以外の国ゆえ正会員ではなく名誉会員と呼ばれています。マルタ島で研究会が行われた時のことでした。この嬉しさは、マルタ島の景色とともに私には一生忘れる事の出来ない思い出のひとつになっています。その後ヨーロッパ以外のアメリカ、オーストラリア、インドなどから名誉会員が増え、研究会はグローバルになり、より活動的になっています。
このような経緯で“Distinguished Ambassador Award”が創られたのだと思います。
この栄誉ある受賞は2010年10月8日「第42回糖尿病と妊婦の研究会」がポーランド・ワルシャワで行われた時授与されました。この受賞は人生の終結ではなく、もっと頑張らなければという新たな覚悟が芽生えたような気がします。受賞に当たり感謝の代わりに皆様には次のようなメッセージを贈りたいと存じます。
- 悲しい事が起きてもそれを何時までも引きずらず前向きの姿勢を取る。
- 人のために尽くすには金銭、骨身を惜しまない。
- 目的を立てたらひとつの道を貫き通す。
- リーダーシップをとらなければならない立場に立つたら、絶えず学問、研究を続けなければならない。
この文章が糖尿病に悩める患者さん達のお役に立てばとても嬉しいと思っています。
※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。
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