糖尿病とお口の健康
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糖尿病3分間ラーニング

6. 今からでも間に合う、お口のトラブル予防法・解消法

石川 烈 先生
2004年10月

 糖尿病と歯周病の関係について説明してきたこのコーナーも、いよいよ最終回です。これまでは理論的な話が多かったので、最後はより実践的なこと、歯周病の発病や進行を防ぐにはどうすればよいかについて、お話ししたいと思います。

歯周病の予防・治療のポイント

プラークコントロール

 歯周病は、歯周病菌による組織への攻撃力が、その攻撃を防ぐ抵抗力を上回ったときに発病・進行します。ですからその予防や治療には、歯周病菌の数を減らして攻撃力をそぐことが必要です。具体的には、(1) 毎日しっかり歯を磨いて歯周病菌を繁殖させないこと、(2) 定期的に歯科医を受診して、磨き残っている歯垢(プラーク)や歯石をとってもらい、歯周病菌が付着し繁殖する足場を作らないこと――です。(1) と (2) をあわせて「プラークコントロール」と呼んでいます。

 プラークコントロールは歯周病の治療を受けている期間はもちろんのこと、歯周病予防のためにも、生涯欠くことができません。なぜなら、歯周病菌は口の中の常在菌(いつでも存在している細菌)の一種だからです。

血糖コントロール

 糖尿病の人の場合はプラークコントロールと並んで、より良い血糖コントロールを維持することも大切です(その理由は第2回目に詳しく解説しました)。歯周病で外科的治療が必要な場合には、あまり血糖コントロールが悪いと治療を行えないことがあります。 → 第2回のページへ

禁煙

 喫煙による末梢血流障害、それによる酸素や栄養の供給減少、組織再生力の低下、細菌に対する抵抗力の低下などが原因で、喫煙者の歯周病のリスクは非喫煙者の2〜5倍に上ります。糖尿病の合併症の予防・治療のためにも禁煙が重要です。今は禁煙補助薬などがありますから、以前のように一人で‘がまん’するしかなかった頃よりも、ずっと禁煙を成功させやすい環境が整っています。医師に相談してみてください。

食習慣のチェック

 間食回数が多いことや甘い物を好むといった食習慣も歯周病のリスクを高めます。このような食生活は糖尿病の治療にもよくないことですから改めてください。

爪楊枝はなるべく使わない

 爪楊枝を使っていると、歯肉(歯茎)を痛めてしまったり、歯と歯の間の隙間が広がったりします。爪楊枝を使いたくなったら歯を磨くようにしましょう。

プラークコントロールは歯科スタッフとの共同作業

 それでは、プラークコントロールの方法について話を進めましょう。なお、プラークコントロールの主役は、患者さん自身です。患者さん自身が毎日しっかり歯を磨かないことには、いくら歯科を受診して治療してもらっても、歯周病を予防したり治療することはできません。

自分にあった歯磨きの仕方を覚えましょう

 歯並びや歯肉の状態などによって、最適な歯磨きの方法は人それぞれ異なります。歯周病を効果的に予防・治療しようと思ったら、まず最初に歯科医を受診して、あなたにあった歯ブラシと磨き方を教えてもらってください。自己流では効果が少ないばかりか、歯肉が減ってしまって、口の中の状態をかえって悪化させてしまうことがあります。

用意するもの

必需品

歯周病と虫歯の関係

 歳をとったり歯周病が進行すると歯肉が下がって、本来は歯肉に覆われている歯根部が露出してきます。歯根部の表面はセメント質といい、ここは歯冠部(健康な状態でも歯肉の上に出ている部分)の表面のエナメル質ほど頑丈ではないために――エナメル質は人体で最も硬い組織です――、より虫歯になりやすい部位です。このため、歯周病の人は歯周病だけでなく虫歯にも注意が必要です。

歯ブラシ

 植毛部は3×7列ぐらいのものが、最も効率よくプラークを除去できます。植毛部の長さは前歯2本分ぐらいがちょうどよいでしょう。あまり長過ぎると細かい部分が磨きにくくなります。逆に植毛部が短いタイプは、奥歯などの歯ブラシが届きにくい部分を磨くのに適していますが、全部の歯を磨き終わるのに時間がかかるので、適宜使い分けるとよいでしょう。

 毛の硬さは硬めの方がプラーク除去には向いています。ただし、すでに歯周病があって歯肉が傷んでいるときには、初めは軟らかい毛の歯ブラシを使い、歯周病が改善してきたら硬い毛の歯ブラシを使うようにします。なお、歯をゴシゴシと力強く磨く人の場合は、硬い毛の歯ブラシだと歯肉を傷つけたり歯肉が減ってしまうことがあります。そのような人はまず正しい歯の磨き方(力を入れずに磨く)を覚えることが第一ですが、どうしても力が入ってしまう人は、軟らかい毛の歯ブラシを選びましょう。また、「バス法」という磨き方(あとで解説します)の場合は、軟らかい毛の歯ブラシを使わないといけません。

 歯ブラシの交換のタイミングについてですが、歯ブラシの寿命は普通ひと月未満だと思ってください。毛足が開いてくると、歯の隙間に毛の先端が届かずプラークを除去できなくなるので、早めに交換してください。

歯磨き剤

 歯周病の予防・治療だけを考えた場合、歯磨き剤は必ずしも必需品ではありませんが、虫歯の予防や歯を白く保つためには歯磨き剤を適度に使った方がよいでしょう。量が多過ぎると歯の表面を少しずつ傷つけてしまうことがあります(歯磨き剤の中に研磨剤が入っているからです)。また、すっきりとした清涼感のために、よく磨けていないのに磨けたと感じてしまうこともありますから、使い過ぎに注意してください。

 なお、今では「虫歯や歯周病の予防」、「歯の表面を傷つけにくい(球状の研磨剤を使用している)」など、さまざまな効能・特徴をうたった歯磨き剤がいろいろ販売されています。それらの中から自分の好みの歯磨き剤を選んで購入するのは楽しいものですし、あれこれ考えて選んだ歯磨き剤を使うと、よりしっかり歯を磨けるかもしれません。でも、歯磨き剤に過度の期待をし過ぎるのは禁物です。プラークコントロールに最も必要なのは、歯磨き剤の種類より、正しい歯磨き法を覚えて続けることだということを、忘れないでください。

必要に応じて用意するもの

ワンタフトブラシ

 植毛部がごく小さい歯ブラシのことです(ワンタフトは‘one tuft’という英語で、‘毛の房が一つだけの’という意味です)。歯肉溝(歯と歯肉の間の隙間)や奥歯、歯並びの悪いところなどをなぞるように重点的に磨くのに適しています。

デンタルフロス


 糸ようじのことです。歯ブラシの毛先が入らない歯と歯の間を磨くのに適しています。糸の太さが選べるので適切な太さを選び、正しく使ってください。太過ぎる糸を無理に使ったり、使い方が適切でないと、歯の間が広がってしまう、歯肉が減ってしまうなどのよくない影響が現れます。

歯間ブラシ

 歯ブラシの毛が入りづらくて磨き残しやすい歯と歯との間にできた隙間を磨くのに適しています。歯周病や加齢のために歯肉が下がっている人には特に効果的です。ブラシの大きさや形状によって数種類のタイプがあります。隙間の大きさにあったものを選んで使ってください。サイズが小さ過ぎると歯垢を取り除く効果が不十分になり、逆にサイズが大き過ぎると歯肉を傷つけてしまいます。何本か種類の異なる歯間ブラシを使う必要がある人もいます。

洗口液

 口内の洗浄や殺菌、口臭予防に効果のある洗口液(うがい薬)があります。ただしうがいだけではプラークはとれませんから、歯ブラシによる歯磨きをした後に使うとよいでしょう。

プラーク染色剤とデンタルミラー

 歯科を受診したときに歯を染色され、よく磨けていない箇所を指摘された経験がおありの方も多いことでしょう。歯に溜まっているプラークを染め出すあの染色剤は、ご家庭でも使うことができ、磨き残しやすい箇所をご自身で知ることができます。歯の裏側の染色箇所は、デンタルミラー(口に入る小さな鏡)を使って確認します。

いつ歯を磨くか

 毎食後に磨くことが理想ですが、それができなければ、1日1回就寝前に徹底して磨くことです。就寝前に磨くのは、睡眠中は唾液の分泌が減少して口の中が乾燥し虫歯や歯周病が進行しやすい状態になるため、それを防ぐには寝る前に十分にプラークを取り除いておく必要があるからです。また、就寝前に毎日きちんと歯を磨く習慣を守るには、例えば外でお酒を飲んできてそのまま寝てしまうといった、乱れた生活スタイルでは難しいことです。歯を守るための生活習慣は、からだの健康にもよい生活習慣にもつながっているのです。

1回何分磨くか

 長ければ長いほどよいわけではありません。しかし、しっかり磨くには、少なくても10分程度かかります。1日2回以上磨くのであれば、重点的に磨く位置を分けて1回あたりの所用時間を減らすこともできますが、1回で済ますのなら、テレビを見ながら、お風呂の湯船で温まりながらなど、“ながら磨き”をするとよいでしょう。

歯の磨き方

歯ブラシの握り方

 必要以上の力が入らないように、ペンを持つのと同じ握り方が推奨されています。よく、歯ブラシに力を入れれば入れるほどプラークがよく落ちるものだと勘違いしている人がいますが、歯ブラシの毛を歯に押しつけると毛先が広がってしまい、歯の間の隙間や歯と歯肉の間の歯肉溝に毛が入り込まず、プラークの除去効果が低下します。さらに歯肉に傷をつけたり、歯肉を後退させたりしてしまいます。

歯ブラシの動かし方

 正しい歯の磨き方は、ぜひ歯科医師や歯科衛生士に教わってください。ここでは、比較的簡単でプラーク除去効果が高い「スクラビング法」という方法と、歯周ポケット内のプラークを除去するのに効果的な「バス法」という方法を紹介します。

スクラビング法

 スクラビング(scrubbing)とは、英語で‘こすり洗い’の意味です。ただし、実際には歯をゴシゴシこするというより、歯と歯の間に毛先を入れて、毛先が移動しないように小刻みに動かす動作が基本です。

歯の外側を磨くとき

 歯ブラシを歯の外側の面に対して直角になるよに持ち、歯ブラシの毛がわずかに歯肉に触れる位置にあてます。その状態では歯ブラシの毛先が、歯と歯の隙間や歯肉溝に入っていますから、その毛先がその位置からずれないように、歯ブラシをわずかな幅で横に動かして磨きます。動かす幅はせいぜい数ミリ程度で、これを1本の歯に対して最低20回ぐらい行います。

奥歯の裏側を磨くとき

 歯の裏側は歯の表面に対して直角に歯ブラシをあてることは難しいため、45度の角度であてます。あとは歯の外側を磨くのと同じ要領で、毛先が歯肉にわずかに触れる位置で横に数ミリずつ動かしながら移動させます。

前歯の裏側を磨くとき

 前歯の裏側は横方向には磨きづらいので、歯ブラシを縦に握り、ブラシの先端部分を使って上下方向に動かす動作を追加します。

歯の上面を磨くとき

 虫歯予防のために、臼歯の上の面(噛み合わせ面)のプラーク除去も忘れずに。

バス法

 歯周ポケットや歯肉溝内部のプラーク除去を主要な目的とする、Bassという人の提案による磨き方です。歯ブラシを45度の角度で歯にあてて、毛先を歯周ポケットや歯肉溝に入れた状態で、横に小刻みに動かします。このバス法を行うときは、必ず軟らかい毛の歯ブラシを使わないと、歯肉を傷つけたり歯肉を減らしてしまいます。

入れ歯のお手入れも忘れずに

 義歯(入れ歯)にもプラークが付着します。入れ歯は毎晩必ず外して、歯を磨くのと同じつもりで歯ブラシで掃除してください。適宜、洗浄剤も利用しましょう。

電動歯ブラシについて

 最近の電動歯ブラシは、手で磨くのにも劣らないプラーク除去効果をもつものが出てきました。歯を磨く時間を短縮したい人、手が不自由な人にとっては十分検討する価値があります。ただし、電動歯ブラシは機種によって使用法が異なり、メーカーが推奨する方法でないと十分な効果が得られません。また、磨く部位によっては手磨きの方が効率がよい箇所もあるので、両方を組み合わせる工夫もしてみましょう。

 なお、ヘッドの部分の毛足が開いてきたら、早めに交換してください。最初に購入する際は、ヘッドの入手しやすさも考慮して機種を選択した方がよいでしょう。

歯科医を受診する際に

自覚症状がなくても定期的にかかりつけ歯科医を受診しましょう

 プラークコントロールの主役は患者さん自身ですが、どんなにしっかり歯を磨いていても、どうしても磨き残しによって歯石ができてしまうものです。特に歯周病がある程度進行して歯周ポケットができている場合、歯磨きの効果には限界があります。ですから定期的に歯科医を受診して、歯石を取ってもらうようにしましょう。また、歯を正しく自分にあった方法で磨けているか、チェックしてもらうようにしましょう。慢性の病気である歯周病をきちんと管理していくためには、自覚症状があるかないかにかかわらず、定期的に受診することが大切です。

 通常は年に3〜4回の通院頻度となりますが、歯周病の状態や進行しやすさによって個人差があるので、歯科医の指示を守ってください。また、糖尿病との兼ね合いがありますから、血糖コントロールのことも気遣いながら治療してくれるように、歯科医とのより良い人間関係を築いていきたいものです。そのためには、かかりつけ歯科医をもつとよいでしょう。かかりつけ歯科医をもてば、検査の重複などの無駄を省け、ちょっとしたことでも気軽に相談できるようにもなります。

 なお、歯科医による歯周病治療については、第3回目に詳しくお話ししました。 → 第3回のページへ

受診の際には糖尿病であることを伝えましょう

 初めての歯科医院を受診する際には、自分が糖尿病であることと、ふだんの治療内容を伝えましょう。血糖コントロールが高いときには感染症にかかりやすいので、出血を伴いやすい歯科治療では、抗生物質を使用するなどの配慮が必要です。

抜歯や歯肉の外科治療を受けるときの注意

 抜歯や歯肉の外科治療の際には、治療後しばらく食事をできなくなります。このため糖尿病の薬物療法をしている人では、低血糖予防のため薬の服用・注射量を変更する必要があります。事前に内科の主治医に相談しておいてください。

おわりに

 糖尿病とお口の健康――いかがでしたでしょうか。

 歯周病の予防や治療では、「歯を正しくしっかり磨く」ということが、非常に大きなウエイトを占めています。そして、糖尿病の予防や治療でも、ご自身の自己管理が治療のよし悪しを大きく左右します。結局のところ、ふだん健康であることのありがたさをどれだけ理解し、将来の生活設計をどれだけ考えて日々の生活を送っているのかが、慢性の病気の管理にとって大切なことなのだと思います。

 「いつまでも自分の歯で食べ、いきいきと生活していたい」「血糖コントロールをもっと理想に近付けたい」といった希望、あるいは「歳だから歯がなくなるのは仕方がない」「自分の糖尿病ではもうこれ以上の血糖コントロールは望めない」などのあきらめ――、多くの糖尿病患者さんがそれぞれの夢や悩みを抱えていることでしょう。そんな夢の実現、悩みの解消のために、これまでお話ししてきたことが少しでも役に立つことを願いつつ、このコーナーを終わります。

もくじ

  1. 気になりませんか?
    口臭、歯ぐきの出血・腫れ、歯に物が挟まりやすい・・・
  2. 糖尿病で歯周病が増える理由、
    歯周病で血糖値が上がる理由
  3. 徹底研究! 歯周病の原因と治療
  4. 歯周病は全身に悪影響を及ぼす
  5. 糖尿病の合併症と歯周病の合併症 その相互関係を探る
  6. 今からでも間に合う、お口のトラブル予防法・解消法

2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した
「NGSP値」で表わされるようになりました。過去の記事はこの変更に未対応の部分があります。

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治療や療養についてかかりつけの医師や医療スタッフにご相談ください。

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