糖尿病とお口の健康
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糖尿病3分間ラーニング

5. 糖尿病の合併症と歯周病の合併症 その相互関係を探る

石川 烈 先生
2004年08月

歯周病の本当の怖さは“合併症”かもしれない・・・

 このページをご覧の多くの方は、糖尿病の患者さんかそのご家族だと思います。ですから「合併症」の意味を改めて説明するまでもないかもしれませんが、「なにかの病気をもっている人に、その病気に関連して起こる別の病気」を合併症と呼んでいます。合併症が問題となる主な生活習慣病として、以下のような例があげられます。

表 おもな生活習慣病と合併症の関係


 高血圧脳卒中、動脈硬化、心臓病、腎臓病、網膜症 
高脂血症動脈硬化、心臓病、脳卒中、歯周病?
高尿酸血症痛風、尿路結石、腎臓病、関節炎、動脈硬化
肥満症動脈硬化、心臓病、脳卒中、歯周病
糖尿病網膜症、腎臓病、神経障害、動脈硬化、心臓病、脳卒中、感染症にかかりやすい、歯周病、高脂血症、高血圧、骨粗鬆症、高血糖昏睡、妊娠による糖尿病の悪化や胎児・母体のトラブル
歯周病歯が抜ける、糖尿病、動脈硬化、心臓病、脳卒中、肺炎、妊娠による歯周病の悪化や早産・低体重児出産
骨粗鬆症骨折、腰痛

 これら合併症のもとにある病気は、それ自体はほとんど無症状で経過します。しかし、病気の治療が不十分だと徐々に(または突然に)合併症が起こり、身体機能に障害を起こしたり、生命を脅かしたりします。ですから症状のあるなしに関わらず、治療を続けていく必要があります。

生活習慣病の合併症に共通のキーワードは「血管障害」

キーワードは「血管障害」

 を見ていただければすぐにわかりますが、これらの生活習慣病の合併症は、かなりの部分で似通っています。特に、心臓病、脳卒中、動脈硬化などの病名が目立つことに気付かれたことでしょう。心臓病も脳卒中も、細かい部分では差異があるものの、基本的には動脈硬化、つまり血管障害から発病することが多いからです。

 だれでも歳をとれば血管の老化が進みます。しかし、実際の年齢以上に血管障害の進行を早めてしまう原因がいくつかわかっています。喫煙や食べ過ぎや飲み過ぎ、それによる肥満、精神的ストレスなどの生活習慣、および、それらの生活習慣と深く関連しつつ発病・進行する高脂血症や糖尿病、高血圧などが該当します。そして、近年の研究で、歯周病もまた血管障害(動脈硬化)の危険因子である可能性が濃くなってきているということは、前回お話したとおりです。 → 第4回のページへ

糖尿病に特徴的な合併症、糖尿病が進行を手助けして起こる合併症

 ここで糖尿病の合併症について、少し整理しておきましょう。

糖尿病に特異的な合併症=三大合併症は細い血管の障害が原因

 糖尿病の合併症のうち、網膜症と腎症(腎臓病)、神経障害の三つを「三大合併症」と呼んでいます。これらは血糖コントロールが悪いほど発病しやすいものです。血糖コントロールがよい人には、それほど多くは起こりません。つまり、糖尿病でない人にはあまり起こらない病気、糖尿病に特異的な合併症、ということです。

 三大合併症の主要原因は、血糖値が高いことによって身体中の細い血管が障害される「細小血管障害」です。

糖尿病に非特異的な合併症=動脈硬化や易感染状態

 一方、糖尿病には心臓病や脳卒中などの合併症もあります。それらは三大合併症のように、糖尿病でなければほとんど起こらないというわけではなく、糖尿病でない人にも起こり得る病気です。ただ、糖尿病があると発病の頻度がより高く、病気の進行はより早くなります。これらの病気は「大血管障害」――比較的太い血管の障害、つまり動脈硬化――をもとに発病することが多いものです。

 また、高血糖によって細菌やウイルスに対する抵抗力が落ち、感染症にかかりやすくなりますが、これもやはり、糖尿病に特異的とはいえないものの糖尿病でその頻度が高くなる合併症といえます。

歯周病の症状と合併症、歯周病が進行を手助けして起こる合併症

 歯周病の“合併症”についても話を整理しておきます。

なお、ここまで「歯周病の合併症」という言葉を何度か使いましたが、現段階ではまだこの言葉は一般的に使われていません。歯周病と全身病の関係は、近年になってようやく本格的な研究が始まったばかりだからです。しかし、もう少し研究が進み、歯周病と全身疾患の関係が明らかになれば、いずれこのような言葉が使われるようになると思われます。

歯周病に特異的な症状

 すでに何度か解説したように、歯周病は歯の周囲、歯周組織の病気です。歯周病菌による慢性的な炎症が起こり、徐々に歯周組織が侵されていきます。その結果、口臭がひどくなったり、容易に出血したり、歯がぐらついたりします。このような症状は歯周病でなくても現れることがありますが、歯周病にかなり特異的なものといえます。

 そして、歯周病が進行すると、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。歯が抜けることは「歯周病の最も特異的な症状」ともいえます。

歯周病に非特異的な合併症

 歯周病は従来考えられていたような口の中だけの病気ではなく、さまざまな全身病を起こりやすくしている可能性が高いことを前回お話ししましたが、中でも動脈硬化やそれによる虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)、脳梗塞などは、糖尿病の合併症でもあります。また、歯周病と肺炎・骨粗鬆症・妊娠時のトラブルの起きやすさなどの関連も明らかになってきており、これらも糖尿病と関連する合併症といえます。

糖尿病と歯周病の合併症、およびその危険因子の関係

歯周病の治療で糖尿病の合併症を防げるか?


歯周病の治療で合併症を防げる!?

 以上のように、糖尿病の合併症と歯周病の合併症は、重なりあう部分が非常に大きいことがわかります。しかも、このコーナーの第2回で解説したように、糖尿病は歯周病の危険因子であり、歯周病が血糖値を上げるように働くこともあるのです。 → 第2回のページへ

 このように考えてくると当然のように、「歯周病を治療することで糖尿病の合併症の頻度を抑えられるのではないか」という期待が生まれてきます。しかし、残念ながらその答えはまだはっきりわかっていません。科学的に‘yes’または‘no’という結論を出すには、多数の患者さんに協力してもらい何年間もずっと検査結果や治療内容をチェックし続け、統計的な有意差(偶然以上の確率で生じる差)を証明しなければならないからです。

 ではこの問題を「糖尿病の人は歯周病を治療すべきか否か」と置き換えたらどうでしょう?――この問いの答えを得るのに、統計的有意差を求める必要はないでしょう。なぜなら、歯周病治療の基本は患者さん自身の歯磨きを中心とするプラークコントロールであり、特殊なケースを除いて薬は使われず、副作用などの有害事象の心配がないうえ、歯周病治療で炎症を除けることが明白になっているからです。

 それに加え、歯周病を治療しないことによる糖尿病への悪影響、例えば歯がぐらつくために繊維質の食品――繊維質の食品は食後の高血糖を抑える働きがあります――を食べにくくなる、やわらかいもの中心の食事になったり噛む回数が少なくなる――これらは逆に血糖値を上げやすい食事のとり方です――といったことも起こり得るからです。「糖尿病をしっかり治療しているつもりなのに、血糖コントロールがよくならない」、という人は、ぜひ一度、歯周病の検査を受けてみてください。

糖尿病と歯周病の関係を整理すると

 この辺で、ここまで解説してきた糖尿病と歯周病の関係を整理してみましょう。

なぜ糖尿病を治療するのか

 なぜ自覚症状もないのに糖尿病を治療するのか? それは自覚症状がないからといって治療せずにいると、合併症が確実に進行していくからです。

なぜ糖尿病になるのか

 2型糖尿病は、遺伝よる体質的なことに加え、加齢、食べ過ぎや飲み過ぎ、運動不足などの生活習慣が身体に負担となって発病します。

なぜ歯周病になるのか

 体質的なこともありますが、ほとんどは加齢と口腔清掃が不十分なこと、間食や喫煙、その他の生活習慣によって起こります。

なぜ糖尿病で合併症が起こるのか

 細小血管障害に基づく三大合併症は、主に血糖コントロールがよくないことや喫煙によって、血管の基底膜が傷められて起こります。大血管障害による心臓病や脳卒中などは、血糖コントロールがよくないことに加え、歯周病を含む糖尿病以外の生活習慣病のコントロールがよくないことや喫煙で起こります。

なぜ血糖コントロールが悪化するのか

 食事療法・運動療法・薬物療法のいずれかがよくできていない、糖尿病が進行している(インスリン分泌力が低下してきている)、慢性感染症に罹患した、その他(精神的ストレスが強くなった、膵臓がんの可能性など)が考えられます。そのうちの慢性感染症の一つに、歯周病があげられます。

糖尿病の合併症を防ぐにはどうすればよいか

 食事療法・運動療法・薬物療法を守り、よい血糖コントロールを続けること、糖尿病以外の生活習慣病があればそれもしっかり治療すること、治療できる感染症は治療すること、そして禁煙です。

糖尿病の治療は、“三本柱”から“五本柱”へ

歯周病の治療と禁煙を

 糖尿病はかつて――治療にインスリンが用いられるようになるまでは――、高血糖が死に直結しかねない怖い病気でした。治療法といえば、食事をとらないこと「飢餓療法」しかなかった時代もあったのです。しかし、インスリンをはじめとするさまざまな治療薬が開発され、どうすれば効果的に血糖値を下げられるかがわかり、今では適切な医療と患者さんの自己管理次第で十分な血糖コントロールをめざすことが可能になりました。その結果、糖尿病の怖さは糖尿病(高血糖)そのものではなく、合併症に移りました。

 今の糖尿病は、合併症が怖い病気です。その合併症を防ぐには、よりよい血糖コントロールを続けることです。そのための手段(治療法)として、食事療法、運動療法、薬物療法があり、この三つがこれまで「糖尿病治療の三本柱」と呼ばれてきました。

 しかし、もうお気付きだと思いますが、糖尿病の合併症を防ぐ手段は食事療法や運動療法、薬物療法の他にもあるのです。一つは禁煙、もう一つは歯周病の予防です。喫煙は糖尿病の三大合併症を起こしやすくしたり、動脈硬化を進行させたり、歯周病を悪化させます。そして歯周病は、血糖コントロールを悪化させたり、心臓病や脳梗塞を起こしやすくする可能性が濃厚です。

 現在の糖尿病の治療目的が、かつてのような、単に血糖値を下げて高血糖による急性合併症を防ぐことだけでなく、「慢性合併症の予防」に主眼が置かれている以上、従来から言われていた三本の柱だけでなく、歯周病の治療と禁煙を加えた「五本の柱」で糖尿病治療を支える必要があるのではないでしょうか。そうすれば、さらに効果的に、治療目標を達成できるのではないかと思います。

 このコーナーも残り1回となりました。最終回は、歯周病を防ぐには今なにをすればよいか、具体的にお話ししたいと思います。

もくじ

  1. 気になりませんか?
    口臭、歯ぐきの出血・腫れ、歯に物が挟まりやすい・・・
  2. 糖尿病で歯周病が増える理由、
    歯周病で血糖値が上がる理由
  3. 徹底研究! 歯周病の原因と治療
  4. 歯周病は全身に悪影響を及ぼす
  5. 糖尿病の合併症と歯周病の合併症 その相互関係を探る
  6. 今からでも間に合う、お口のトラブル予防法・解消法

2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した
「NGSP値」で表わされるようになりました。過去の記事はこの変更に未対応の部分があります。

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