糖尿病とお口の健康
2003年12月05日
気になりませんか?
口臭、歯ぐきの出血・腫れ、歯に物が挟まりやすい・・・
まずはチェックしてみてください。
口臭が気になる | YES or NO | |||
歯を磨くときに血がにじむことがある | YES or NO | |||
食べ物が歯に挟まりやすくなった | YES or NO | |||
口の中がネバネバする | YES or NO | |||
歯ぐきが赤く腫れている | YES or NO | |||
歯ぐきが白っぽくブヨブヨした感じになっている | YES or NO | |||
かぜをひいたときに歯ぐきが腫れることがある | YES or NO | |||
以前よりも歯が伸びたような気がする | YES or NO | |||
「YES」はいくつありましたか?
すべての質問に自信をもって「NO!」と答えた方は、あまりいないのではないでしょうか?
実は、これらはどれも歯周病の症状です。
もちろん、これらの症状が一つもあてはまらないからといって、「歯周病でない」と言い切ることはできませし、歯周病ではこれら以外の症状が現われることもあります。
歯周病は、自覚症状がほとんど現われずに進行します
建物はりっぱでも、土台が弱いと・・・
歯周病は、その名のとおり歯の周囲の組織―
また、歯周病のことを‘年配の方の病気’のように考えて、「自分はまだ大丈夫」と安心している若い方もいることでしょう。しかし実際には、20代ですでに約7割の人に歯周病が起きていることがわかっています。歯周病は、20年後、30年後に向けて、若いうちから少しずつ歯を抜くための準備を進めているのです。
歯が抜けてしまうことの意味を、しっかり知っておきましょう
私たち歯科医師が患者さんに「歯周病をほうっておくと、そのうち歯が抜けてしまいますよ」と、いくらお話ししても、なかなかそのことの重大さを理解していただけないようです。「歯が抜けても義歯(入れ歯)を作ればいい」と考えているのでしょうか?
歯を1本失うと、その両隣りの歯が不安定になりがちで、残っている歯の負担が増え、ますます歯の抜けやすい環境が作られてしまいます。
残っている自分の歯の数を調べた調査結果をみると、
40〜50歳代を境目に、歯が急速に失われていくことがわかります。
〔厚生労働省「平成11年 歯科疾患実態調査」より〕
歯が少なくなると、食べ物をしっかり噛めなくなりますから、内臓によくない影響を及ぼしたり、食べることの楽しみが少なくなったり、はっきり発音できないために会話を楽しめなくなったりして、徐々に生活全般が味気ないものになってしまいます。いわゆる「QOL(quality of life)が低下する」ということです。
事実、「自分の歯が多く残っている人ほど病気が少なく、健康的に自立して暮らしている」という、‘歯の数とからだの健康’の明らかな相関関係が最近の調査でわかりました。これまで歯のトラブルは、ともすれば単に‘口の中だけの問題’としてかたづけられてしまいがちでしたが、今では「からだの健康を守るために歯を保ち続けること」の重要性がわかってきて、口の中の健康問題がますますクローズアップされつつあります。
歯周病は糖尿病を悪化させ、糖尿病は歯周病を悪化させる
歯周病と糖尿病が手をつないで・・・
さて、ここまで歯周病の一般的な話をしてきました。「どうして『糖尿病ネットワーク』で歯の話題を取りあげるのだろう?」と不思議に感じている方もいるかもしれませんね。
結論を先に言ってしまうようですが、糖尿病と歯周病は密接な関係があり、互いに無視できない病気なのです。糖尿病があると歯周病に悪影響を及ぼし、歯周病があると糖尿病に悪影響を及ぼします。もしもあなたが、「しっかり糖尿病を治療しているつもりなのに血糖コントロールがなかなかよくならない」のなら、その原因は、歯周病にあるのかもしれません。
このコーナーでは、「糖尿病と口の中の健康」について両者の関係を6回シリーズで掘り下げるとともに、その対策をお話ししていきます。第1回目は全体の前置きとして、まず最初に歯周病の基礎について、簡単に触れておきます。
歯周病は、細菌感染による炎症が、いつまでも続いている状態
歯周病は慢性感染症
歯周病は感染症です。感染症とは、細菌やウイルスがからだに侵入してきて、それが悪さをする病気です。
歯周病の場合の感染源は、口の中に常時住みついている百種類以上もの細菌の一部です。歯周組織―
そのせめぎあいの結果として起きるのが炎症です。歯周病は、この炎症がいつまでもいつまでも終わらずに続き、徐々に歯の土台が失われていく病気です。
歯周病は生活習慣病
なぜ歯周病になるのでしょうか? 歯周病の発病には、遺伝的な関係もあることがわかっています。ただ、それ以上に生活習慣による影響がずっと強いのです。ある程度の遺伝的素因を背景とし、それに加齢(歳をとること)や生活習慣による影響が加わって発病する病気のことを「生活習慣病」と呼んでいますが―
歯周病の原因となる生活習慣とは、喫煙、精神的ストレス、しっかりとした歯磨きができていない、食べ物の嗜好、歯ぎしりの癖、口呼吸(鼻で息をせず、口を開いて呼吸すること)による口の乾燥などがあります。
歯周病は‘コントロールする’病気
生活習慣病は加齢や生活習慣が関係して発病する病気ですから、一般に一度発病すると、いわゆる“完治”させるのは難しいものです。歯周病も、きちんと治療を受け歯磨きをしっかり続けていれば治せるものの、歯磨きを怠るとすぐにまた、炎症が起きてしまいます。
ですから歯周病は、一度治療を受けて治ればそれでよい、という病気ではなくて、気長にコントロールし続ける病気です。「人生80年」を健やかに生き生きと暮らすために、歯のことをおろそかにはできません。
歯周病には数々の“合併症”がある
歯周病にも“合併症”がある!
ある病気に関連して起こる別の病気のことを「合併症」といいます。例えば糖尿病における網膜症や腎症・神経障害、高血圧における脳卒中、高脂血症における心臓病などがあげられます。
最近の研究で、歯周病は心臓病や脳卒中、肺炎、胃潰瘍、肥満症など、さまざまな病気の起こりやすさと関係があることがわかりました。どうやら、歯周病の原因菌が血液の中に入り込んで血管内に炎症を引き起こしたり、あるいは、食べ物をしっかり噛んだり飲み込んだりできなくなることの影響で、こういった病気が起きてくるようです。
現在、これらの病気と歯周病の確かな関連を調べる本格的な研究が、世界の各国で行われています。もうしばらくすると、これら一連の病気を「歯周病の合併症」としてとらえる見方が定着すると思われます。
歯周病から歯を守る決め手は「患者さんの自己管理」
ある程度進行した歯周病は、治療のプロである歯科医師に処置してもらわなければ治りません。しかし、同時に患者さん本人が毎日しっかり歯を磨かないことには、治療できません。患者さんが日ごろから健康的な生活を心がけて、歯を守るための自己管理を続けると、治療はずっとスムーズに進みます。
糖尿病とお口の健康。その関係をひもとくカギは・・・
以上で歯周病についての基礎と、今なにが問題になっているのか、およそおわかりいただけたと思います。では次回から、歯周病が糖尿病とどのような関係にあるのかについて、詳しく解説していきます。おもに次のような項目が2回目以降のポイントとなる予定です。
血糖値が高いと、感染症にかかりやすく治りにくい
「歯周病は慢性感染症」だとお話ししましたが、血糖値が高くなると―
感染症にかかると、血糖値が高くなる
いったん感染症にかかると、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の働きが妨げられて、血糖値が高くなりやすくなります。このため、慢性感染症である歯周病を放置すると、糖尿病の治療によくない影響を与え続けます。
糖尿病と歯周病に、共通する原因
糖尿病も歯周病も、そのほとんどは生活習慣病として発病します。生活習慣病を起こしやすくする原因には、食習慣や精神的ストレスなど、共通する原因が数多くあります。糖尿病の人に歯周病が多く、歯周病の人に糖尿病が多い原因として、同じような生活習慣の関係もあると考えられます。
糖尿病と歯周病に、共通する合併症
糖尿病には三大合併症のほかに、動脈硬化や動脈硬化による心臓病・脳卒中などの合併症があります。そして、歯周病と動脈硬化、動脈硬化による心臓病・脳卒中の関係も無視できないことがわかってきました。今日、糖尿病の治療は「合併症の予防と進行を防止する」ことを目的に行われています。そうである以上、「合併症
糖尿病と歯周病は、自己管理が大切な病気
糖尿病も歯周病も、医師まかせでは治りません。糖尿病の治療には、しっかりとした食事療法・運動療法が必要ですし、歯周病の治療には、しっかりとした歯磨きが絶対に必要です。つまり、毎日毎日をどれだけ規則正しく過ごせるかが、治療のよし悪しを左右するということです。そして、その効果は10年後、20年後の健康的で若々しい、はりのある生活に結びついていくことでしょう。
※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。
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